昨日、事務所から自宅に戻る途中、路上でキスをしてる人を見かけたのですが
ふと、
仮にこのカップルが芸能人だったとして、自分が記者だったらどういう心の流れになるだろうか想像してみました。
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今、付き合っている芸能人のカップルがマンションから出てきました。
僕はカメラを片手に後をつけます。
そのとき僕は頭の中でこう願います。
「手をつなげ、手をつなげ!」
そっちの方が記事が盛り上がりますからね。
そして幸運にもカップルは手をつなぎました。
「よっしゃぁ!」
と思ってシャッターを切ります。
そして、そのあと何を考えるかというと
「キスしろ!」
だと思います。
「キスしろキスしろキスしろキスしろ!」
そして僕の願いが神に通じたのか
二人はキスをしたのです。
「よっしゃぁ!」
となると思います。僕が記者だったらそう考えて行動するはずなんです。
それがお客さん(読者)を喜ばせる行為ですから。
一方、ここで芸能人カップルの立場に立ってみます。
二人は部屋にいたのですが、お酒のおつまみが切れたので
男が「買いに行ってくる」と言って部屋を出ます。
この時点では、当然、二人で行くなんて選択肢はないわけです。誰かに見られたら問題がありますからね。
ただ、年末で外はすごく寒いし、最寄りのスーパーまでは少し距離があります。
それを一人で行かせるのは悪いなぁと思った彼女は少し遅れて部屋を出て男についていきました。
彼女は心のどこかで(自分はプロフェッショナルじゃない)と思うかもしれません。
ここでスクープされてしまうと事務所や仕事関係者に迷惑をかけることになってしまう。
でも、この寒い夜に、大好きな彼氏を一人スーパーまで歩かせるのが心苦しい。
だから一緒に行こうと思ったのです。
そんな気持ちを男は理解します。
そして彼女を愛おしいと思う。
だから、(自分はプロフェッショナルじゃない)と思いながらも、手をつなぐわけです。
お互いまずいなぁと思いながらも、そうすることが相手に対しても自分に対しても正しいような気がするから手をつなぐ。
そのとき、ちょうど、雪が降ってくるわけです。今年最初の雪が舞い降りてくる。
二人は「ああロマンチックだな」と思う。
男は彼女にキスをしたいと思う。キスをするには最高のタイミングだ。
そして逡巡しつつも、男はキスをしてしまう。
自分がキスをしたい気持ちと、キスをすることで彼女が喜ぶ気持ちが分かるから、キスをしてしまうのです。
――というストーリーが仮にあるとして、
今回は分かりやすくするために美しく書きましたが、
もちろん、色々なパターン、色々な事情があり
芸能人とは人に見られたり、疑似恋愛を提供する仕事だから、外でキスをするというのはそのリスクを知った上でやれ、と言う人もいるでしょうが、
それを踏まえつつも、
熱愛報道には
キスをきっかけに、そのカップルをつぶせてしまえる力を持っていて、
この構図を支えるのは、すごく良くないことだと思ったのです。
もしかしたらそう思ったのは、昨日、路上で見たキスが
嫌なキスじゃなかったからかもしれません。
たまに(人前でする必要ある?)と思うような行為を見ることもありますが、
昨日のカップルのキスはなんというか
良いキス
でした。
女性が喜びそうな雰囲気の良いキスだったんですよ。
良いキスって何だよってことなんですけど、
なんというか、純粋な恋とか愛とか呼べるようなものが宿っている気がしたんですね。
その、純粋な恋や愛を壊すことに対して「よっしゃぁ!」と思える状況を支えるということは他者の幸福ではなく不幸を願うスタンスを心に作るということであり、仕事にも、人間関係にも少なくない悪影響を及ぼすと思うのです。
だから今後は、たとえば友達の家に行ってテレビで熱愛報道がやっていても、
そっとトイレに立つとか
そういう感じで完全に断っていこうと思います。
たとえるなら、
「タバコをやめる」
に近いです。
僕は20歳のころから10年くらいタバコを吸っていました。1日1箱以上吸うヘビースモーカーだったのですが、
タバコをやめた最大の理由は、医学のエビエンスで「タバコは血管を収縮させる」という事を知ったからです。
僕の親戚で緑内障の人が何人かいるのですが、緑内障はまさにこの血管の収縮によって起きる病気で治すことができないんですね。
また、血管というのは人間にとってすごく大事で、たとえば常に死因の上位にランクインする脳梗塞も血管の問題によって起きます。
タバコの素晴らしさは良く分かるので、タバコを吸う人に対してはまったく偏見はありませんし「やめた方がいい」とも言いません。
ただ友達が「やめようか迷っている」という話になったら血管の話はすると思います。
全体の情報を把握した方が、納得のいく決定をすることができるからです。
そして、今回、記者の人の気持ちと、キスをする人の気持ちの向こう側を想像したとき、タバコにおける血管の収縮と似た空気を感じました。
――もしかしたら、「記者はそれを仕事にしてるんだから、熱愛報道を消費しないのはその人を食えなくさせる」と言う人がいるかもしれません。
ただ、それは本当でしょうか?
記者の人の気持ちを想像して分かったのは、
記者の人は、お客さんが喜ぶからそうしているということです。
つまり、僕たちが恋や愛の「美しさ」を消費するようになれば、それを撮って記事にすると思うのです。
もしかしたら、その記者は、内心では美しさを撮りたいと思っている可能性すらあるのです。
すべての問題は、
僕たちの「美しさ」を求める心が足りていないことにあるかもしれないのです。