僕には「マイルール」という自分で勝手に作った決まり事があり、たとえば
「旅行に行ったらお土産を買わない」
というのがあります。
なぜお土産を買わないかと言いますと、せっかく遠くまで来たのに「お土産買わなきゃ」って考える時間がすごく無駄に思えるからです。
そんなことを言うと「水野はなんて我がままなやつなんだ」と言われそうですが、
いやいや、この水野が――誰よりも他人の目を気にする水野が――「お土産は買いません。以上!」で終わらせるはずがないじゃないですか。
ではどうするのかというと、
すべての友人・スタッフに対して
「私は『お土産』という概念そのものを廃止したのでお土産を買ってこれません。本当に申し訳ございません!」とあらかじめ平謝りしておく
ということになります。そうすることでお土産を買っていかなくてもがっかりされないんですね。
ただ、まったく買わないわけじゃなく、帰り際の飛行機とか新幹線の待ち時間にコーヒー飲んでトイレ行ってそれでも10分くらい余ったときなどごくたまに買っていくこともあります。
そういうとき「あの水野がお土産買ってきたぞ!」となりますので、普通より喜ばれるんですね。
このルール、特に特許的なものは申請してないので気に入ったら全然使ってもらってかまわないのですが、
そんなマイルールの中でも特に強力なものとして
「街で不思議なものを見かけたら必ず聞く」
というものがあります。
「好奇心」というのは往々にして「面倒臭さ」と対立しておりますので好奇心を大事にしていきたいというのもあるのですが、
これがルール化されたきっかけがあります。
僕は深夜に散歩するのが好きでして、住んでいる場所の近くの公園を深夜によくぶらぶらしているのですが、
そこでよく見かける松葉杖のおじさんがいたのです。
しかもそのおじさんは必ず右手と左手2本の松葉杖をついていて、かなり歩きずらそうにしながら公園の周りを歩いているのです。
今、この文章を読んでいる人は「世の中にはそういう人もいるだろう」くらいに思うかもしれませんが、
深夜の2時ですよ?
しかも頻繁に見るんですよ?
頻繁に、深夜2時に、公園で僕と二人きりになるのですよ?
それであるとき、その人に話しかけてみようと思ったのですが、
気を悪くするかもしれないなどと思い、結局、話しかけられなかったんです。
そしたら「話しかけよう」と思った日を境にそのおじさんをぱったり見なくなってしまい
(ああ、やっぱり話しかけておけば良かったなぁ)
と猛烈に後悔することになりました。
ただ、それから1年くらい経ったある日、
再び、そのおじさんを見かけたのです。
そこでこれは運命だと思い
(話しかけるなら今しかない!)
と思い切って話しかけました。
そして、なぜ深夜に松葉杖をついて公園を歩いているのか聞いてみたところ、そのおじさんは快く答えてくれたのですが、
糖尿病が原因で両足を切断し、両足とも義足になっているそうです。
さらに、糖尿病なので家でじっとしていると体に良くないので運動をしなければならないらしく、
ただ、両手に松葉杖を持っているので歩くのが遅く、信号が青のとき渡り切れなかったり、人に迷惑をかけてしまうこともあるそうです。
そこで、深夜、誰もいない公園の周りを歩きながら運動しているとのことでした。
聞いてみるまでまったく想像しなかった状況でした。
この経験によって、「実際に聞いてみないと分からない」ことを実感し、この日以来、不思議に思ったこと、分からないことがあったら必ず聞く、というマイルールを設定したのです。
そして先日、
有楽町で仕事の打ち合わをしたあと、事務所に戻っている途中、
腕に「タクシー指導員」という腕章をつけたおじさんがいました。
それで「タクシーを指導するって一体何をやってる人だろう?」と思ったので、マイルールにのっとって、話しかけてみたんですね。
そしたらそのおじさんがすごく物腰の柔らかい人で、気さくに答えてくれたのですが、
銀座は時間帯によってタクシーが路上に止まれない特殊な土地なので、路上で止まるタクシーを指導しているとのことでした。
知ってしまえばそれほど驚きはない内容ですが、それでもやっぱり「なるほど」と思ったので
聞いておいて良かったなと思いました。そして何よりその人が気さくに応えてくれたので楽しい時間がすごせました。
こうして満足した僕は、その人にお礼を言って事務所に向かって歩き始めたのですが、
そこからほんの20mも離れていない場所のガード下にホームレスの人がいたのですが、
トイレットペーパー長く伸ばして折って束にしていたんです。
なかなか伝わりづらい状況なので絵で描きますと
書いてみたら余計に分かりづらくなったのですが、
想像してもらいたいのですが、まず、トイレットペーパーずーっと伸ばしてみてください。頭の中で伸ばしてみてください。それを折り曲げて手で持ってください。さらに何個も同じくらいの長さのやつを作って手で持ってみてください。束になりますよね? それ、です。その人は、それを作っていたのです。
それはもう本当に不思議な光景だったので、
しかも、数分前に話しかけた「タクシー指導員」の人が気さくに対応してくれたこともあり、
マイルールにのっとって
「それ、何してるんですか?」
とたずねました。
すると、
「テメェにゃ、関係ねーだろうがぁ!!!!!」
↑の台詞、アメブロの文字の大きさの限界の「XXL」にしてありますが、可能であれば
「XXXXXXXXXXXXXXL」
にしたいくらいの、びっくりするくらいの大声で怒鳴られたんです。
もう何年もこんな風に怒鳴られたことはないので
怒鳴られた瞬間、色んなことを考えましたが、
どれだけ考えても
100%僕が悪いんですよね。
それで
「大変、申し訳ありませんでした」
と深々と頭を下げました。
最近、有楽町のガード下の有料自転車置き場の前でホームレスの人に深々と頭を下げてる41歳の男を見たよって人がいたら、
それ、僕です。
自分で勝手に生み出したルールで自分の首を絞めている、僕です。
……というわけで、
何事もルールに縛られるのは良くないんで
来年の年始、名古屋駅のお土産売り場でお土産を買い慣れてなくてめっちゃ迷っている男がいたら、
それ、僕です。
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