普段の僕の生活スケジュールは

まず朝起きてジムに行って運動してそのあとお昼ごはんを食べて事務所に行って19時くらいまで仕事をするのですが、

だいたいこの時間になってくると頭がヘロヘロになってくるんですね。

ただ、そこで仕事の手を緩めたら凡夫じゃないですか。

それで、さらに頑張るための方法を何年にも渡って試行錯誤した結果、


■街でチャラチャラ遊んでいる人たちを見ながら仕事をするとプラス3時間頑張れる法則


を発見しまして、夕食を食べた後、事務所にいる大橋くんを誘ってチャラチャラした人がいそうな街のスタバやカフェに行って、

23時すぎまで仕事をするというのがサイクルになっています。

ちなみに、夜、大橋くんとカフェで本を書く活動を


水野敬也(みずの けいや)の K と 大橋弘祐(おおはし こうすけ)のKをとって


KKベストセラーズ


というサークル名にしています。

こうして夜の時間になってくると、僕と大橋くんのどちらともなく


「今日のKKどこ行く?」


という会話が日常的に交わされることになったわけですが


最近、KKをしているとき、ふと大橋くんのパソコンを見たところ衝撃を受けることになりました。



パソコン1


キーボードのボタンが一個無いのです。



それで、僕たちにとってのキーボードっていったら、イチローにとってのバットみたいなものじゃないですか。


だから「なんでボタンのないパソコン使ってんの!?」と聞いたら、


大橋くんから返ってきたのは予想もしなかった言葉でした。




「ああ、これ本当は、Zの部分が壊れたんで、一番使わないであろうQを移植したんです」






パソコン2



た、確かにZの位置にQがある!!!



いや、でもこれはこれで問題だろ!!!



イチローのバットで言えば、バットのグリップの先のところがベーグルになってるくらい問題じゃないの!?


すると大橋くんは平然とした顔で言いました。



「Qってほとんど使わないんですよ。今まで使ったのも引っ越しでビルの名前を記入するときくらいでしたから」



いや、そうかもしれないけど、それは商売道具に対する姿勢じゃないだろ!


そう思った僕は


「大橋は本も売れてることだし、パソコンは絶対に買い換えた方がいいよ」



とアドバイスしたのですが、彼の驚くべき返答は止まりませんでした。

彼は真顔でこう言ったのです。



「水野さんのQもらえませんか?」



「いや、確かに俺も同じレッツノート使ってるから移植可能だけど! そういうことじゃないだろ!ていうか、俺がQあげると、お前のキーボードQが二つになるぞ」


「あ、そっか。じゃあ、Zもらった方がいいんですかね」


「いや、俺がZ渡したら俺が自分のパソコンのキーボードのZの位置にQを移植する『大橋スタイル』に、いや、こんなのスタイルでも何でもないけどな!」


「じゃあやっぱりQください」


「だからQはやれん!」


「じゃあ、Altでいいです」


「Altもやれんわ! 俺、Ctrl+Alt+Delめっちゃ使うから!」


「そんなにフリーズするパソコンなら買い換えた方がいいんじゃないですか?」


「お前が言うな、お前が!」


「じゃあ水野さんパソコン買い換えるとき、Qもらっていいですか」


「だからお前どんだけそのパソコンに固執してんだよ。誰かの形見かよ」


「形見じゃないです」


「分かってるわ! 誰が親族に自分のプライベートの詰まったノートパソコン渡すか!」


「じゃあ、結局、水野さんのQはもらえないってことですね」


「当たり前だろ。ていうか、俺からしたらこのパソコンで仕事してるお前が『Q(クエスチョン)』だけどな」


「うまい! ……Qもらっていいですか?」


「おだてられてもQはやらん!」


「じゃあ『無変換』は? 水野さんって今の日本を変換していきたくて文章書いてるところあるじゃないですか。そんな水野さんのコンセプトと相反するボタン、それが『無変換』なんじゃないですか?」


「お前、何言ってるか全然意味がわからんぞ」


「分かりました。じゃあ、『無変換』の隣の『窓』のやつで手を打ちます」


「いや、だから……何だこのボタン? これ何に使うの?」


「とりあえず、押してみましょう」


「(押して)……これマジでいらんな」


「ですよね。ください」


「だから、ボタンはあげない!」


――こうして僕たちKKベストセラーズは、街でチャラチャラしている人よりもはるかに非生産的な時間を費やしていったのでした。