経営者について書かれた本を読んでいると

「この人は本物だなぁ」

と感じることがあるのですが、先日もこんな文章を読みました。



1985年「フォーブス」誌が「全米一の金持ち」としてサム・ウォルトンの名前を報じた。
するとたちまち、レポーターやカメラマンがウォルトンの家に大挙して押しかけたが、レポーターたちが目撃したのは、荷台に猟犬用の檻を積んだ古ぼけた小型トラックを運転し、ウォルマートのロゴ入りの野球帽をかぶり、散髪は町の床屋ですませる男だった。
ウォルトンは言う。
「ヨットを買いたいとか、島を丸ごと所有したいなどと思ったことは一度もなかった。こうした欲望や野心が、多くの好調だった企業をダメにしてきたのである。生活レベルを上げるために、自分たちの持ち株を少しずつ売って、ついには会社を乗っ取られ破産してしまう家族もいる。(中略)ウォルマートが年商500億ドル(※500億円ではないです。500億ドルです)を超える会社に成長したのに、なぜ今でもそんなにケチケチするのか、と尋ねられることがある。理由は簡単だ。1ドルの価値をよく知っているからである。私たちの使命はお客に価値を提供することだが、その価値には品質やサービスばかりでなく、お客の支出を節約することも含まれる。ウォルマートが1ドルを浪費すれば、それはお客の懐に直接響くのである。逆に、わたしたちが1ドルを節約するたびに、他社との競争で一歩先んじることになる。それこそ私たちが目指していることである」




世界NO.1小売業「ウォルマート」の創業者であるサム・ウォルトンの考えであり、「お客さんを喜ばせる」という点で極めて筋の通った話なのですが、これを読んで思ったのは

「自分と同じ世代の経営者でこういう人の話をほとんど聞いたことがないな」

ということです。

自分より上の世代には柳井正や稲盛和夫など、この系譜の経営者が存在するのですが、若くしてもてはやされる経営者の本やインタビュー記事を読んだり生活ぶりを見ると、
サム・ウォルトンのような「徹底したサービス」を感じることはほぼありません。
(ちなみに、これはただ「節約した生活をすればよい」という意味ではなく、派手な生活でも「お客さんを喜ばせる」という一点から逆算してその派手さを手に入れているのであれば
 問題ないと思います。ただ、そこまで考えて派手な生活をしている人はいないような気がします。心の中では「ヨットを買いたいとか、島を丸ごと所有したい」生活をしたくて、「でも、これは仕事にも役に立つんだ」と自分に言い聞かせて正当化している人が多いような気がするのです)


では、若い世代にはそういう経営者はいないのかというと、よくよく考えてみればそんなことはあり得なくて

この系譜に属していく「本物」の経営者はすでに日本のどこかに存在しているのです。

ただ、彼の行動はあまりにも顧客目線で地に足がついたものなので派手さがなく、社会に知られていないだけなのです。

ユニクロを一躍有名にしたフリースが発売されたのは1994年、柳井正が45歳のときでした。

ソニーがウォークマンを発売したのは1979年、井深大が71歳のときでした。

では、本物の経営者である「彼(彼女)」は今、何をしているのかというと、明らかに自分より志も能力も低い経営者たちが世の中でもてはやされているのを横目に見ながら

目の前の仕事を圧倒的努力でこなしています。もしかしたらまだ起業もしていないかもしれません。ただ、目の前の仕事に対する熱量が圧倒的であることは間違いありません。

彼は雑誌に出てくるような「仕事も遊びもできる経営者」なんて存在しないことを知っています。

成功とは「偏り」であり、全人生を仕事に賭けねば世界を変えられないことを論理的にも直感的にも知っています。

彼は、健康には気を使っていますが、ゴルフやサーフィン、トライアスロンにのめり込みすぎることはありません。あくまで「運動」は手段であり、目的ではないからです。

彼は「孤独」です。彼の志が高すぎて、周囲の人にはその本質を理解することは難しいからです。


「一体、何のためにこんなに苦しい思いをしなければならないんだ!?」


自問自答することもありますが、それはすぐさま頭の中に聞こえてくる声に打ち消されます。


「世界を素晴らしくするためだ!」


そして、彼は仕事に向かうのです。

彼には作りたい世界があるのです。そのことにあまりにも純粋だから、目の前にある階段を一段一段登らねばならない。

本気で世界を変えたいと思ったからこそ、一番遠回りの道を行かざるを得ないのです。だから今、彼は埋もれている。必然的に埋もれているのです。

今から、10年後、20年後に彗星のごとく現れた彼は、しかし、今までと同じように謙虚さを失わず、派手さに囚われず、黙々と自分のなすべき仕事をこなしていくでしょう。


カップラーメンを発明して世界に300億食売った安藤百福のように――


F1に参戦して世界に沸かせた本田宗一郎のように――


その圧倒的な「サービス」によって「日本人」のすごさを世界に轟かせてくれるでしょう。


彼の生活は決して派手ではありませんが、間違いなく、彼の総資産は日本でトップになるでしょう。


そして将来、彼が世に出てきたとき僕に会いたいと思ってくれるように――というより、もしかしたら彼は今この文章を読んでいる「あなた」かもしれません。


「あなた」はまだ日本では知られてはいませんが、僕は「あなた」が存在していることを知っているので


将来、とてつもない成功を収めるあなたと対等に話せるように、僕は、今、目の前にある仕事を全力で頑張ります。


あなたと僕が会うときは、高級なワインもシャンパンも必要ありません。


水を片手に、仕事の話をしましょう。


日本の未来を、人類の未来を語りましょう。


一緒に、世界を変えましょう。


それは、なんの変哲もない事務所の一室で行われるかもしれませんが、


最高にエキサイティングな会話になると思います。


「仕事」より楽しい娯楽など、この世界には存在しないのですから。