今、左手がこんな状態になってまして



タトゥ01


そもそものきっかけは、今年の7月に僕の知人が病気で亡くなったことにあるのですが、そのとき不安に思ったのは、

過去に知人が亡くなったとき、



「ああ、人は必ず死ぬ。僕もいつ死んでも後悔しないように頑張って生きよう」



と思い、それからしばらくの間は緊張感とモチベーションを保ちつつ仕事ができるのですが、時間が経つにつれて少しづつその感覚は失われていきいつのまにか元の日常に戻ってしまうということです。


それで、7月にその人が亡くなったとき、この人の分まで自分は頑張ろうと思ったのですが


(またいつものように元に戻ってしまうんじゃないか……)


と不安になり、この現象をなんとか回避したいと色々考えてみた結果、


「ファイトクラブ」っていう映画の中のワンシーンで、ブラッドピットがエドワードノートンの手を硫酸で焼いて


「この傷跡を見て思い出してモチベーション上げろ!」


みたいなことがあったと思うのですが、これはもうそういう感じで行くしかないなと思いまして、


結論を言うと




タトゥ



を入れることにしました。



消えないメッセージとして「死」を刻み込んでしまえば、絶対忘れないだろうと考えたのです。


これはいわゆる「メメントモリ」なのですが、そもそもタトゥの性質はそれに近いものもあって、これは昔英語を勉強しているときに知り合ったロシア人女性に教えてもらったのですが、あるミュージシャンは手首に★のマークのタトゥを入れていて、つらいことや苦しいことがあったとき★のマークを見て


「そうだ、俺はスターになるのだ」


と自分を奮い立たせるということでした(ちなみにその女性の左手の中指には「LOVE」というタトゥがあり、ファックユーの指にLOVEを入れるという発想に「なんて面白いんだ!」と
感動しましたが、よくよく聞いてみると「歌手のリアーナの真似をしていただけ」ということが分かりました)。


もちろんタトゥに関しては世間的には良くないものだとされていますが

サントリー創業者の鳥井信治郎の有名な言葉で



「やってみなはれ」



というのがあるのですが、きっと鳥井さんに聞いたら




「タトゥ入れてみはなれ」




と言うに決まっているので何の問題もないと思い、むしろ問題は


「どんなマークを彫るか」


の一点に絞られたわけです。


もちろん目的から考えると「死」を連想させるものが良いと思ったのですが、ここで安易に「ドクロ」を選択してしまうと


「あれ水野、お前、お洒落でタトゥ入れてねーか?」


となってしまい、それは僕からしたら一番見下してる人間っていうか

いつも海に行くたびにタトゥをこれみよがしに見せてくる連中に対して

「あいつらタトゥに頼らんと海にも来れん連中だわ。あいつらのタトゥはありのままの自分に対する自信の無さを表してるわ。その意味であいつらのタトゥはむきだしの劣等感だわ。本当に哀れな連中よのぉ」

と、海の隅っこの方で浜辺を歩くカニと語り合ってきた人間なんで、


人に見せるためではなく、自分に対して「死」を強烈に思い出させてくれるタトゥのマークを考えていった結果↓のものにたどり着きました。





方位記号


方位記号です。



まあ色んな意見あると思いますけどね、理由を聞いてくださいよ。


まず「死」をイメージする意味で「4」的なものを色々探してみたんですけど、


方位記号って数字の「4」に見えるじゃないですか。


しかも方位記号なんで




「お前の人生は『4(死)』から見て正しい『方角』に進んでいるのか?」




と自分を戒めるという効果があるってことなんですね。


――ま、この説明を聞いても「は?」ってなる人もいると思いますが、そういう人たちに対しては、短い間でしたけどありがとうございましたってことになりますよね。


俺とあんたは結構マブダチな感じでやってこれたと思ってたけど、俺たちの方向性が――方位がずれちゃってるわけだから。

俺とあんたは、ときおりYhoo!ニュースで流れてくる水野のニュースを遠巻きに眺めてもらうだけの関係に戻りましょうや。



ま、というわけで、方位記号を思いついたときの僕は


「今後は日本で自分を戒めたり奮い立たせるために入れる『啓発タトゥ』の時代がやってくるんじゃねえか!?」


と興奮しまして、「鉄は熱いうちに打て」ってことでタトゥ雑誌買って、ネットでも調べまくって「この店なら大丈夫そうだ」という店を探して電話したところ


「入れるマークのイメージがあるならメールで送ってください」


と言われたので↓のメールを送りました。




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先ほどお電話で土曜日の17時に予約した水野と申します。

タトゥのイメージを添付します。

左手首に入れたいと思っています。

ちなみにこの記号を入れる理由なのですが

最初、「人はいつか死ぬ」ということを忘れないために、(人に見せるためではなく自分が見るために)左手首に数字の「4」を入れようと思ったのですが、それだと味気ないので色々考えたところ方位記号であれば「4」に近いし、生きる方向を考える、という意味もプラスできるのでこれが良いのではないかと考えています。
そのあたりのデザイン面もぜひご相談できればと思っています。

よろしくお願い致します。


―――――――――――――――――――――





すると↓の返信が来ました。






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了解しました。
それでは土曜日17時お待ちしております。

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タトゥを入れる理由完全にスルーされました。






このメールの返信を読んだとき、「あれ、向こうからしたら、俺相当イタいやつになってないか」と不安になったのですが


「世の中に受け入れられるまで、偉人は変人である」


という名言もありますし

とにかく「鉄は熱いうちに打て」ということで、土曜日17時、タトゥを入れるために渋谷に向かいました。


お店は渋谷の雑居ビルに入っていて、もう見るからに古いビルで「大丈夫かな……」と不安になりながらエレベーターに乗って行ったのですが


店内には清潔感が漂っていて、さすがの水野のリサーチ力といった感じでした。


ただ、待合室には僕以外にもう一人お客さんがいたのですが、その人の足にタトゥが入りまくっており、


さらに、施術を終えた人が部屋から出てきた人が待合室の人の連れだったのですが


「いやあ、めっちゃ痛かったっわ~」


と痛さをアピールしてきたので、その瞬間


(そ、そうだった! タトゥは入れるときめっちゃ痛いんだった!)


と思い出し、急に恐くなって震え始め、

さらに僕の名前が呼ばれて奥の部屋に連れていかれると、

全身にタトゥの入ったお兄さんがビニール袋みたいなのをつけて座っていて、もう「全力で医学部出てません」みたいな雰囲気でいよいよ怖くなり


「あの……麻酔的なものはあるのでしょうか?」


と聞いたところ



「あー、ウチ麻酔ないんで」



と言われまして、なぜか反射的に「すみません」と謝った僕がいました。中学生のクラスメイトで意味もなく殴られたのに反射的に「すみません」と謝っていた石川くんのことを思い出しました。


こうして僕は診察台に寝かされまして、全身タトゥのお兄さんが銀色のピストルみたいなのを使って僕の左手首に方位記号のタトゥを入れ始めたわけなのですが


これがどれくらい痛かったかというと



「麻酔の切れかけた歯医者くらい」



でした。

まあ結構痛いけど耐えられないくらいじゃないといった感じで、むしろ途中からは



「この痛みが俺に『死』の緊張感を刻み込んでいるのだ!」



と、興奮してきまして、麻酔しなくて良かったと思いました。



こうして無事タトゥを入れ終えてお会計をしたのですが




「えーっと、ワンポイントなんで、、、5000円ですね」




安ぅっ!




こっちは人生を変えるつもりで清水の舞台から飛び降りたのに、その値段が5000円て!


逆にもっと取ってくれんと不安だわ!



ただ、値段を上げろとも言えませんでしたので5000円払ってお店を後にしたのですが



お店から出て渋谷の街に降り立ったとき



「ああ、これから俺の人生が変わるのだ!」



と最近では味わったことのないような興奮を感じ、渋谷駅までスキップしたろかなという勢いでした。


こうして僕の生活にタトゥが仲間入りしたわけなのですが、


仕事をしていて「しんどいなぁ」となったとき、方位記号のタトゥが僕に語りかけてくるわけです。


「お前はいつか必ず死ぬ存在だ。ここでサボって本当に後悔の無い人生を送れるのか?」


もうね、ゴルゴ13のデューク東郷みたいな口調で語りかけてくるんですよ。


そしたら僕も「よっしゃ、やったるかぁ!」と奮い立ち、仕事も本当にはかどって


「ああ、このままいったら俺、確実に歴史に名を刻むことになるなぁ……」


と興奮しながら仕事を進めることができるようになりました。



こうしてタトゥを入れて2か月ほど経った頃。



その日も事務所で仕事をしていたのですが猛烈に煮詰まっていたので、いつものようにタトゥを見ました。



タトゥ02
※こんな感じで手首のところに小さく入っております。


すると、いつものように、タトゥ東郷は「お前はいつか必ず死ぬのだぞ? このままいいのか?」と語り掛けてきたのですが



次の瞬間、気づいたときには









タトゥ03



この状態で寝てました。



タトゥを入れたばかりの頃は、タトゥの存在が「非日常」であり、緊張感を保てていたのですが



日が経つにつれて



タトゥが入っていることが日常になってしまったのです。



こうして、方位記号のタトゥからは「死を思い出す」というメッセージ性は失われ、なんなら





でっかいホクロみたいに見えてきて、




本を読むときとかに一瞬目に入ったりするのが








邪魔






に思えてきました。






というわけで







タトゥを取ることにしました。






「鉄は熱いうちに打て」ということで、「タトゥ 消す」でネット検索し、徹底的にリサーチしたところ、タトゥ落としの美容外科の名医が渋谷にいるということで


タトゥを入れてから2か月後。





再び、タトゥを入れた街、渋谷にやってきました。





病院のカウンセリングで


「いつごろ入れられたんですか?」


と聞かれ


「7月末ですね」


「7月……え? 今年のですか?」


「はい」


「もう大丈夫なんですか?」


「はい。十分に堪能しましたんで」



カウンセリングの人からは、「こんなに早くタトゥを取る人は初めてだ」と驚かれました。


ちなみに、タトゥを落とす方法としてはレーザーで徐々に消していく方法と、皮膚ごと切除する方法があるのですが


名医に見てもらったところ、僕のタトゥはしっかり入っていて、レーザー治療をした場合、半年かけてレーザーをやったものの落ちないケースもあるみたいで


「切除」を勧められました。


「タトゥは一度入れると消せない」というのは基本、正しいみたいですね。


ただ僕としてはもう完全に「消す」姿勢で固まっていたので、そして「餅は餅屋」なので、名医の言うとおり切除を選択した結果




タトゥ01

この状態になったというわけです。



ちなみに切除した皮膚を見せてもらったのですが、アジの刺身の一切れみたいな感じで結構ガッツリ肉をいってる感じでした。


恐る恐る包帯外してみたらこんな状態になってました。



タトゥ跡

ひいぃぃぃ……

まだ抜糸をしてない状態ですが、これから結構な時間がかかるみたいです。傷跡も少し残るみたいですね。


――ただ、タトゥを入れて後悔しているかというと全くそういうことはなく


やっぱり、やってみて分かるということがあるんですね。


もし僕の知り合いから「タトゥを入れようかどうか迷っている」と相談された場合、僕は


「やめておいた方がいいと思う」


と言います。


ただ、その理由は、世間体とかそういうことではなくて、



● 人間の本質は「変化」であって、タトゥとは合わない



と思ったからなんですね。


そもそも最初にタトゥを入れようと考えたときは、人の死に接して「その気持ちを忘れないように」という意味がありました。


しかし、人間というのは、毎日細胞も入れ替わるし、気分も考え方も、「変化」していくものです。

その変化の中に、「変わらないもの」を刻んでしまうということは、色々と齟齬が生じるというか、

たとえば、最近の僕は仕事のモチベーションすごく高まっているのですが、その理由は、色んなジャンルの仕事をしたことで刺激を受け、新たに作りたい作品がたくさん生まれているからであって、


「人は死ぬ存在だから頑張りたい」という「感情」とは違う部分で頑張れています。


やはり、人間の本質は「変化」であり、感情も、考え方も常に変化していくものであり、


ある瞬間の感情や思想を固定する「タトゥ」は合わないんじゃないかと思いました。


そして、実際に経験してみなければそのことには気づけなかったので



鳥井さんの



「やってみなはれ」



は改めて名言だと感じました。







――というわけで、約2か月のタトゥ人生となりましたが




タトゥを入れるのは5000円で





取るのは90000円かかりました。








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ウケる日記

ウケる日記で特に人気の高かった記事(2012年1月まで)に加え、未公開日記として50ページの書き下ろし「富士急ハイランド事件」が掲載されています。富士急ハイランド事件は、僕の人生で起きた最も衝撃的と言っても過言ではない事件なのですが、書いたときのあまりの熱量で膨大な量になってしまい発表する場が見つかりませんでしたが、今回、書籍化ということで入れさせていただきました。ぜひぜひよろしくお願いします!
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