先日、英会話のクラスをレベルアップして新しい教室に行ったんですけど

授業で外国人の先生が突然、英語で


「どんな週末を過ごしたんだい、ラッキー?」


※ 僕の通っている英会話学校では英語名をつけなければならないので、僕は「ラッキー」というあだ名で呼ばれています。


と質問してきて、これまでのクラスではそんなアドリブは求められなかったので超ビビッたのですが

他の生徒たちの手前「ここは一発かまさんといかんな」と反射的に思いまして、つたない英語で


「いやあ先週は一人で映画を観に行ったんですけど、隣の席に座ってたおばさんが上映中ずっと扇子で自分の顔あおいでて、『その扇子やめてください』って言おうかどうかずっと迷ってたら、映画終わってましたわ」


って話したら、まあ言うても英会話学校なんでね、笑いにおいては素人集団の集まりなんで


ドッ


とウケたわけですよ。


それで心の中で「ヨシャッ」ってガッツポーズ取ったんですけど、顔を上げたら青ざめました。



リチャードが全然笑ってないんですよ。



ちなみにリチャードは同じクラスの生徒なんですけど、


彼が間違いなくこの教室の「ボス」なんですよね。


そのことに、僕は授業が始まってから2分足らずで気づきました。


リチャードが発言したときに、全体の空気がふっと上がるというか、彼の発言に集中する感じがあったんですよ。



中学、高校時代、女子校の生徒にモテているイケメン集団(僕は彼らのことを「潮流」と読んでました)にいかに食い込むかを考え続けたことで集団におけるヒエラルキーの判断能力「ヒエラルキースカウター」がとんでもない進化を遂げまして、

リチャードが笑ってないのを見て


(なにしてんだよ俺は!)


と頭を抱えることになりました。


特にここでの問題は僕の発言が


「笑いを取ろうとして取った」


ということです。

これが、たとえば英語が下手すぎて「笑われる」みたいな方向性での笑いであればリチャード的にも問題はなかったはずですが

笑いを「意図」して取るということは、彼の領土を侵害する行為にあたるわけです。

いや、ここで一気に笑いを取りまくって「ラッキー、超面白い!」という教室の認知を作って「ボス」に昇り詰めることも不可能ではありません。

いわゆる「転校生の下剋上パターン」ですね。

そして、通常のコミュニケーションであれば自分にはそれに足る能力があり、さらに、「初対面でのキャラクターはそのまま維持されやすい」という法則もあるので

最初にカマして一気にボスに昇り詰める戦略を採用したでしょう。


しかし、ここで問題なのは、ここが英会話教室であるということなのです。


つまり、この教室に来ている人たちは「英語を勉強しに来ている」わけであり、


「英文法や単語を間違えたり、言葉がつっかえている状態で笑いを取ったとしても、最終的な共感は得られない」のです。



ここで想像してもらいたいのですが、たとえばあなたが所属するブラスバンド部に新入生が入ってきて


「楽器が弾けない」という方向性の笑いを取ったとします。


それは最初はウケるかもしれませんが、みんなの目的は「楽器がうまくなりたい」というところにあるので


その人が笑いを取るたびに「空気が遮断される」ことになり、最終的には


「もうええわ、お前ひっこんでろ」


ということになるでしょう。


しかし、逆にその新入生がほとんどの楽器が弾けて、スティービーワンダーのモノマネをしたとしましょう。
(スティービーワンダーはほとんどの楽器を弾けると言われています)

これはもちろんウケるわけですが、そのウケる方向性が「楽器がうまくなりたい」という全体の目的に合致しているので

つまりは「流れに沿った笑いの取り方」ということになり、

彼は、そのままずっとウケ続けることができ、ボスに昇りつめられる可能性もあるわけです。
(もちろん、その後の立ち回りで人心掌握をし続けなければ、ある日突然ボスの座から引きずりおろされることもわるわけですが)


というわけで、

もし僕の英語力が優れているのであれば、最初の発言から笑いを取りまくってそのまま空気をかっさらうことができたわけですが、


いかんせん、ハイレベルのクラスに参入したことによって、英語力がクラスで一番低い状態なので


桶狭間的な攻め方は明らかに危険すぎると判断したわけです。


そこで、最初の発言を猛省した僕としては、次の発言からは笑いの値をLV86からLV14に落としまして

目立たないようにしながら、まずリチャードが発言するたびに「この人、超センスあるんですけど!」みたいな感じで笑うようにし

「私はリチャード傘下ですよ」

ということをリチャードにアピールし、

それから2回の授業でタイミングをうかがいつつ、授業の終わりを見計らって


「いつからこの教室で授業受けてるんですか」


とリチャードに話しかけ、会話を重ねて距離を詰めた上で、4回目の授業で



「どんな週末を過ごしたんだい、ラッキー?」



という先生の質問に対して



「いやあ先週末は激辛ラーメンを食べまして、僕のbrain(脳)は食べたい食べたい言うんですけど身体の方はまったく反対意見で、結果、アスホールがとんでもないことになりましたわ」


という、僕の一番得意であるところのアスホールネタを満を持してかましたところ


がっつりウケて


(リチャードはどうだ!?)


とすかさずリチャードの表情を盗み見たのですが、


リチャードもがっつり笑っており



「よっしゃ! これで俺はこの教室でポジションを築くことができた!」




と、改めてガッツポーズをしたのですが、





この間、英語全然上達してないんですよね。



授業中のすべての発言を「リチャードにどう思われるか」「リチャードはどう感じるか」に優先順位を置いていたことによって



文法とか構文とか一切気にせずしゃべっており、



ちなみに、リチャードは27,8歳くらいの男で、明らかに僕より年下で



しかも話してて分かったんですけど、今ニートで、再就職のために英語勉強してて



その教室で一番の古株だから、空気を持ってただけなんですけど


そのリチャードに僕の1ヵ月間は完全に持っていかれたわけで


中学時代から、同学年の生徒たちのヒエラルキーを全部分類していたときからクラスメイトたちに言われきた言葉



「水野って病気だよね」



がここで再発したわけであり、


ただ、同時に、僕はこの「他人の表情うかがう病」の他に「アウェイ萌え病」という病にも冒されており


このリチャードに取り入るまでの戦いには久しく僕が感じていなかったダイナミズムがあり


「次のクラスに進めばまた新たな戦いが俺を待っている!」


と興奮し、



英語全然上達してないのに、さらに上のクラスに進もうとしている僕がいます。