またこの憂鬱な時期が近づいてきました。

母の日です。

さすがにこの年齢にもなると母の日くらいちゃんとしてあげたいと思うのですが

どういう会話の展開になるか完全に読めてしまって、それが本当に憂鬱なんですけど、
そんな気持ちとなんとか折り合いをつけて実家に電話してみました。


「敬也だけど」

「はい」

「もうすぐ母の日だから何か送ろうと思うんだけど、欲しいものある?」





「ない」



――これなんですよ。

「自分の欲望を出すことをみっともないとする昔の人の特徴」

これがマジ面倒なんですよね。


で、やっぱり今年も来たかと、一度気合を入れ直しつつ次の質問をしました。


「じゃあ、自動的にカーネーションってことになるけど、いい?」




「カーネーションなんていらん」




――これなんですよ。

欲しいものがないんだったら黙ってカーネーションもらっとけばいいんですけど、
それはそれでむき出しの本音をぶつけてくる。これもまた昔の人の特徴なんですよね。

(さて、どうしたものか)

とまたいつもの状況になったのですが、

育子は間髪入れずこう言ってきました。


「あんた、そんなことより年金払っとる?」


いや、今「母の日」の話してるんですけど。


年金の話の方が遥かに「そんなことより」なんですけど。



育子は続けました。


「あんた、年金払わないかんよ。私は、あんたが20歳のときに10か月だけ払ってないんだわ確か。だから60歳になったとき、プラスで10か月払えばちゃんと満額もらえるで。あと400円余分に払えばその分返ってくる金額が多くなるで」

「ちょっと意味が分からんのだけど」

「いやだから普通の年金に400円プラスして払うっていうオプションがあるからそのオプションは絶対につけといた方がええっていう、人生の先輩からのアドバイスだがね。そのオプションをつけとったからお母さんもお父さんも年金がちょっと多めにもらえとる」

「俺は別に年金とかそういうのあてにしてないから大丈夫だわ」

「あんた、何言っとんの? 今はいいかもしれんけど定年になったあとどうすんの?」

「いや、俺の仕事、定年とかないから」

「定年がなかったとしても、仕事が無くなっとる可能性は十分にあるがね」

「いや、なんとかなると思うんだけど」

「あんたは昔からそんなんだったわ。まあとにかく年金に400円のオプションつけるっていうのだけは絶対やっといたほうがええで……ってあんたもしかしてこの話興味ない?」


「それ、会話の序盤で気づいて欲しかったんだけど」


「まあ年金だわ。とにかく年金をちゃんと払うことだわ。あんたに言いたいのはそれだけ」


「年金のことは分かったから。とりあえずこの電話『母の日』についてだから。なんか欲しい物ないの」


「うーん。うーん。まあ毎月年金がいくら入って来るとか考えていろいろやりくりするのが、生きがいと言えば生きがいだからねぇ」


「生きがいは生きがいで良いんだけど、とりあえず年金から一回離れようか。欲しい物だけ考えて」 


「うーん。……もう考えるのがしんどいわ。倒れそうだわ。あははは!」



何が面白いのか分からないけど1人で笑ってましたね。



これはもうにっちもさっちもいかないってことで、僕の方で一方的に決めさせてもらうことにしたんですけど(旅行券にしました)


この時期、同じような会話が日本各地で何十万、何百万と行われていると思うと同情を禁じ得ませんが、みなさん頑張って母親の相手をしてあげてください。









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