前回の記事でストリートファイターについて書きましたが

どうしても書いておかねばならない事件を思い出しました。


これは新宿での出来事だったのですが、

その日は新宿で何件か打ち合わせがあり、最後の打ち合わせが終わったときアシスタントのJが一緒にいて

ちょうど夕食どきだったので

「じゃあ飯でも食いにいくか」

って蕎麦屋に入ったんです。


それで飲み物を注文しようとメニューを見てたんですけど、

そのとき

眼球が飛び出してアゴが外れて地面につきそうになるくらいの衝撃を受けたんですね。


すごく高い白ワインがあったんですけど、その説明で



ゲーム会社カプコン会長、辻本氏の作ったワイン



って書いてあったんですよ。

それで僕はJに「おい、この辻本って男についてすぐに調べろ!」って指示を出して

インターネットで調べていったんですけど

この辻本憲三氏は



米国のナパに94億円でワイナリーを開園



しており、その名前が「ケンゾーエステートワイナリー」だということが判明したのです。




いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや






これ、大げさな話じゃなくて、その蕎麦屋で隣の席の人が僕の顔をのぞきこんでくるくらいのボリュームで「いやいやいやいやいや!」って叫びましたからね。


普段温厚で通っている僕ですけど、ブチ切れそうになりました。
発狂寸前までいきました。


いや、なんで僕がこんなにブチ切れてるのか半数以上の人は分かってないと思うんで


ここで詳細に説明致しますけども、


そもそも、「ゲームって何?」ってことなんですよ。


僕がアーケードゲームにハマった中学1年という時期は、

カプコンの「ファイナルファイト」が登場した時期であり

もうこれ以上のゲームが出ることはない、まさに「ファイナル」だと思っていたその翌年「ストリートファイター2」というゲームの歴史を完全に塗り替える怪物ゲームが登場したわけです。

こうして僕の青春はすべてカプコンに捧げられていくわけなのですが、


その理由は、もちろん、カプコンのゲームのクオリティが素晴らしかったとのもあるけれど、それと同時に




ゲームセンター以外に自分の居場所を見つけることができなかった



からです。

学校では勉強でも運動でもボロ負けし、女の子にはモテず、自分のプライドを満たせる唯一の場がゲームセンターだった。だから僕はひたすらゲームセンターに通い、ゲーメストを読み漁り、


ゲームに勝ち続けたのです。


つまり、ゲームセンターとは、



非モテ、非リア充の聖域



なのです。


今だから告白しますが、


ゲームセンターの行くお金欲しさに、母親の財布から1000円札を抜き取ったこともありました。


当時の1000円っていったら、今の僕にとって1000万くらいの価値ですよ。


そういう思いをしてまでつぎこんだお金が




ワインになっとるて



俺がゲームセンターで使った珠玉の50円玉が、リア充の象徴であるワインの肥料になっとるて


確かにカプコンが稼いだ金は辻本氏の金です。何に使おうが文句を言う権利はありません。



ただ、辻本よ。ワインだけはないわ。






「なあ、そうだろJ!」



僕はこの思いを隣にいたJにぶつけました。


Jもまた、青春をゲームに捧げた男なので、僕の思いが伝わると思ったのです。


するとJは言いました。



「水野さん、俺、このワイン頼みます」




「ど、どういうことだ!?」



するとJが目の奥がキラリと光りました。



「このワイン飲みながら毒づいてやりましょうよ。こんなクソ水作るために、俺たちは汗水たらしてゲームセンターで戦ってきたんじゃないってことを」




「で、でも、J……」



僕はメニューを見て言いました。




「このワインボトル2万円近くするぞ……」




――そうなんです。


この辻本のゲス野郎の造ったワイン、めちゃくちゃ高級だったんですよ。



するとJは言いました。


「大丈夫です。俺、ボーナス出ましたから、それ、ぶちこみます」 ※Jは社会人です


さらにJは続けました。


「俺、水野さんの本読んで、水野さんのこと近くでずっと見てきましたからその憤りが分かるんです。ここで辻本飲まないと、水野さん、一生辻本に飲まれたままですよ


そしてJは言いました。



「俺、水野さんの『アシスタント』ですから。水野さんの存在をアシストするのが俺の役目ですから」




「……J!」



僕は涙目になりながら、Jと固い握手を交わしました。


そして数分後、ワインクーラーに入れられた白ワインが運ばれてきました。

妙に細い白ワインのボトルがのっけから僕をイラ立たせてきました。




「辻本ぉ! 『魔界村』の頃のお前はこんなんじゃなかったぞ!」




そんなことを言いながらワイングラスにワインを注ぎ、口に運びました。

そしたら、








このワインがめっちゃ美味しかったんですよね




ワイン素人ですら分かる飲み心地の良さときめ細やかな香り―――


Jに至っては









「『森の香り』ってこういうことだったんですね」








とまで言ってましたからね。



こうして完全に出鼻をくじかれた僕らは、ぐいぐいワインを飲んでいき、最終的には


「辻本ってそんなに悪いやつじゃないかもね」


なんて言いながら酔っぱらい、新宿の夜はふけていったのでした。





※ 「ウケる日記」は来週火曜日更新です。


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