――どうだった? 
  人はどうしたら変われるか。そもそも人は変われないのか。
  ずっと話し合ってきたわけだけど。


「そうですね。とりあえず、変わる変わらないはさておき、楽しかったですね」


――好き放題しゃべってたからな。


「僕という素材に注目して掘り下げてくれたのは、水野さんが初めてですよ。さすがですね」


――お前の、自分に対する「ダイヤモンドの原石」感は揺るぎないな。
 まあでも個人的に思ったのは、やっぱり「関係性」って面白いね。
 実用とか自己啓発って、その人の出した「結果」に注目して語られることが多いけど、面白いのは真壁と俺の関係性だったわけだからね。


「今、どんな感じですか?」


――どんな感じというと?


「いや、悪い意味で水野さんの最初の宣言通りになったわけじゃないですか。
 『俺には真壁を変えられない』という。自己啓発書著者としてはあるまじき発言ですけど」



――あははは。まあな。
  でも、なんていうか、これを読んでる人が想像してるようなショックはないかもね。
  ていうか、俺はそもそも変われない人がいてもいいと思ってるから。


「そうなんですか?」


――うん。
  むしろ変わりたくない人がいることがすごく大事だとも思ってて。


「へぇ……。どういうことですか?」


――……そうだね。
  たとえば、昔、ある上場企業の社長のブログに書いてあったんだけど

  その人が街歩いてたら
    
  汚いラーメン屋みつけたんだよ。

  それで、昔は良くそういう店に行ってたけど、最近全然行ってかなったから懐かしいと思って入ったんだって。

  そしたらそこで、サラリーマンがいて、ラーメン食べ終わってるのに漫画雑誌読んでて。

  それを見たその人はサラリーマンに対して「だからダメなんだよ」って思ったんだって。

  「俺がサラリーマンやってる頃はとにかく時間がなくて、ラーメンなんて速攻で食べてすぐに仕事に行ってたんだ」

  って。
 
  その気持ちも良く分かるんだけど、同時に、そのとき違和感も感じたんだよね。


「違和感?」


――うん。もし、そのサラリーマンの人が、ラーメン食べ終わった後、漫画も読まずすぐに仕事行ってたら、
 いや、極論、日本中の全員のサラリーマンがラーメン食べ終わった後すぐ仕事行ってたらどうなってたんだろう?

  その場合、その上場企業の社長は、今も、普通のサラリーマンやってたはずなんだよ。

  だって、その人に『価値』が生まれないわけだから


「なるほど」


――その上場企業の社長の「価値」は、その人が頑張っただけじゃなくて

  他の人がその人くらい「頑張らなかったから」存在してとも言えるんだよ。

  そういうこと感じること多いんだよね。

  たとえば、昔、携帯電話ぶっ壊れて修理に出したら、携帯に貼ってたシールが無くなってたんだよね。


「シールくらいいいじゃないですか(笑)」


――そうそう。そのとおりなんだよ。でも、俺、そのときイラってしたわけ。

  何でか分かる?


「器が小さいから?」


――即答で来るとはね。しかも全然違う。

  いや、一時期ネットで「任天堂の神対応」みたいなの流行ったじゃん。

  任天堂DSを修理に出したら、シールの位置まで完璧に貼って戻ってきて「任天堂ってすげー!」みたいな。


「はいはい。ありましたね」


――俺、それがあったから、イラッとしたんだよな。ドコモに


「あはは」


――いや、ただ、ドコモっていうのもすごい会社でさ。
  iphoneが出たとき、「とりあえずソフトバンクかな」って思ってドコモに解約の電話したんだけど、そのとき電話の対応してきた人が神で。
 「今までご利用いただいてありがとうございました」
 ってめちゃくちゃ丁寧に対応しながら
 「ちなみに、ドコモからgoogle携帯が出るのはご存知ですか?」
  みたいな引き留めをガンガンしてくるの。
  「俺、やっぱりdocomoかな」って思ったもんね。
  ドコモの解約を引き留めるオペレーター、間違いなく日本最強のドリームチームだよ。
  

「戦国時代なら『殿(しんがり)』を務める武将ですもんね。超重要ですよ」


――でも、その電話の対応聞いたら、他のレベルの低さが際立つという。


「なるほど……。つまり、まとめると、水野さんの価値は俺が支えてるってことになりますね。たくさん書く水野さんの価値を、まったく書かない真壁が」


――まあ……そういうことになるか。


「じゃあ、とりあえず、お礼的なこと言ってもらって良いですか。『ありがとう。君のおかげで僕は存在できてます』って」


――お前は、そういう方向に対してはどこまでも伸びていくな。


「まあこれも世界の摂理なのかもしれないですよね。頑張る方に伸びていく人間と、頑張らない方に伸びていく人間がいて世の中が成り立っているという」


――なるほどね。
 ただ、世界の摂理っていうことで言えば、なんていうのかな
 
  「成長しない」っていうのは、地球的にアウトなんだよね。


「地球的に、アウト?」


――うん。
 俺、昔から昆虫とか動物とか自然のものが好きで色々見てるんだけど。


「水野さんの『ダーウィンが来た!』推しハンパないですもんね」


――そうなんだよ。
 それでね、自然界を見てると、地球からのメッセージって


 「成長しないんだったら、死にな」


 ってことなんだよね。


「……。」
  

――自然界の生き物は、弱い者は強いものに食べられる。

 その過程で成長した者や、自分の居場所をみつけるために変化した者が

 生き残ってるんだよね。

 だから……

 あ、そういえば、確認してなかったけど


 真壁って……生きたいんだっけ?


「そりゃ生きたいですよ!」


――だったら頑張らないといけない時期は来るかもね。

 今は、生きてれるから良いと思うけど

 今のままだと、いつかは地球がお前に仕掛けてくると思うよ。


「何をですか」


――そりゃ、もちろん「淘汰」だよ。


「突然、めっちゃ脅してくるじゃないですか」


――(笑)そういえば、お前に対してまだこのパターン試してなかったなって思って。

 「脅す」っていう方法ね。

  俺はまだ、あきらめてないんだよね

  お前を変えるっていうのを(笑)


「マジすか」


――そりゃそうだよ。それが俺の仕事なんだから
 下手したら俺の遺言、お前へのアドバイスだよ。


 「真壁、呼吸法試してみろ

  お前は呼吸が浅いから集中力ないんじゃないか」

  とかな


「あははは。でも、そういう意味では俺もまだ自分を変えるってことあきらめてませんよ。
 あ、そういえば、俺、最近思ったことがあるんですけど」



――何?


「ドラクエ10を2000時間くらいプレイしてるじゃないですか。

 その時間、俺、延々チャットで会話のやりとりしてるんですよね。

 てことは、俺が書いた『台詞』もとんでもない量になるんですよ。 

 つまり――」



――脚本家としての訓練になってる?


「そういうことなんです!」


――お前……。



「水野さん、期待しててくださいよ。
 
 俺、そろそろすげー脚本書けそうな気がするんですよね!」



――このやりとり、完全にデジャヴなんだけど。
 
 まあ、でも、期待してるわ(笑)





水野メモ おわりに


今回の対談は本当に色々なことを考えさせられた。
その中でも、僕自身が一番気づかされたのは、人に対して「変われない」と感じるとき、その人に対する負の感情、


「この人が変わってくれないと自分に迷惑だ」


という思いがある。
よく心理学上の言葉で「条件付きの愛」という言葉が言われるけど、「この人を変えたい」という感情はまさにこの「条件付きの愛」とだということを肌で感じることができた。
だから、変えよう変えようとするとむしろ人は「変えられまい」と身を固くする。

これは、人を成長させたいと思う人が陥りがちな大きな罠だ。

でも、今回真壁と話して、僕自身もたくさん笑わせてもらっているうちに「真壁別に変わらなくていいじゃん」という思いが生まれた。

それはきっと真壁は今のままで色々な価値を世界に提供できてるからだ。そして少なくとも僕は真壁から価値を提供された側の人間だ。

よく「欠点が長所になり、長所が欠点になる」と言うけれど、これが真実なのであれば、人は変わる必要は無いのかもしれない。

なぜなら、その人の欠点がそのまま長所になるのであれば、誰かに対してできることは、
欠点だと思われているその人の長所を見つける――つまり、その人の中にすでに存在していた価値に気づくということだから。


人が、人に与えられる最大の影響は、

「変える」ことじゃなくて「見つける」ことなのかもしれない。





なぜ「真壁」は変われないのか?  終






※ 「ウケる日記」は来週火曜日更新です。


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