水野
――それじゃあ今回は、三大成功法則の最後「傷」についてなんだけど。

真壁
「はい。これはもしかしたら初めて聞く話かもしれないですね」

――そうかもしれないね。近いことは前にも話したと思うんだけど、最近になって、改めて成功の必要条件だと思うようになったんだよね。
 そもそも、どうして「頑張る人と頑張らない人がいるか」っていうことを考えたときに、頑張っている人っていうのは「やらざるを得ないからやってる」って感じることが多いんだよ。過去に悔しいことがあったとか、つらい経験をしたとか、今自分がいる場所に耐えられない、そういう思いがあって努力せざるを得ない状況になっている。劣等感が努力に結びつきやすいのも同じ理由だね。
それは「飢え」とも表現できるかもしれない。
たとえば、手塚治虫の「ブラックジャック」って読んだことある?

「はい。超名作ですね」

――それであの作品を書いたときの手塚治虫ってアニメ制作に失敗してとんでもない借金を背負ってたんだよね。当時のお金で4億円で、今の30億くらいだって聞いたけど

「へぇ」

――それで追い込まれて、起死回生を図って書いたのが「ブラックジャック」なんだよね。だからあの作品ってやっぱり他の作品と比べても頭一つ出てるっていうか。本当にすごいものができてると思う。そういうのも、俺は「傷」だと解釈していて、圧倒的な結果を出すには、ポジティブな動機というよりむしろ「ネガティブな動機づけ」っていうのがすごく大事なんだって思うんだよね。

「なるほど」

――でも、「傷」にも問題があって、それが傷である以上、いつか「癒えてしまう」ということなんだよね。たとえば劣等感のある人が「みんなを見返したい」って頑張り続けたら、いつか高いポジションに立ててしまうわけだから、そのとき傷は「癒えて」しまっている。するとその人はもう「頑張らなくてもいいや」となってしまうわけだね。
 だから、ずっと成長し続けたり、成功している人っていうのは、またどこかで大きな「傷」を負うものなんだよね。というより、ずっと成功し続けるには、同時に傷も負い続けなければならない宿命なんだと思う。だからたとえば孫正義さんが、どんどん挑戦を繰り返して失敗したりしながら成長しているのは「正解」で、ある意味「マニュアル通り」の行動とも言える。ただ、孫さんについていく人の中には「たまったもんじゃねえ」と思ってる人もたくさんいると思うけど(笑)

 あと「傷」に関して一つ付け加えておくなら、たとえば孫さんは次世代の経営者を育てる塾みたいなのをやってるんだけど。

「ちょっとわからないですね。」

――ユーストとかでも見れるけど。孫さんが授業をしてるんだよ。
 授業内容はすごく興味深いんだけど、でも「傷」という概念で考えると、孫さんがいくら授業をしても、孫さんのような人は生まれない気がするんだよね。というのも、孫さんの自伝で書いてあるように、彼を育てたのは、いつもおばあちゃんのリヤカーの後ろに乗って、そこが水に濡れててびちゃびちゃですごく嫌だったとか、そういう「傷」が彼を育てたわけだから。つまり孫さんと同じくらいの能力の人を作ろうとしたら、同じくらいの「傷」を負う環境を提供する必要があるよね。それが可能かどうかは分からないけど。

「ただ、僕が思うのは、でも、そういう『傷』を負った人がみんな頑張れるわけでもないじゃないですか。それだと苦しい環境にある人は全員成功しちゃうことになりますよね」

――そうそう。それを今回の話の焦点にしていきたいんだけど。
  俺、長いこと真壁と一緒にいるから分かるけど、
  お前、かなり傷ついてるよな。

「はい。ガッツリ傷ついてますよね」

――特に、俺が一番忘れられないのは「本宮事件」なんだよな。

 本宮事件についてまとめると、本宮は真壁が通っていたシナリオ学校の同期で、真壁と一番仲が良かったんだけど、本宮はテレビ局のドラマシナリオ大賞に応募して大賞に選ばれ、しかも、大賞を取ってから、真壁が恋をしていた女の子に告白して、付き合うようになったんだよな。

「はい」

――仕事でも負けて、女も取られたという。
  もう、「傷」という意味では最高級の傷だよな。

「はい。完璧な、理想的な傷でしたね。まさに傷の鏡でした」

――でも、頑張れなかった。

「見事なまでに、頑張れませんでした」

――ここで改めて質問したいんだけど。「なぜ?」

「はい。もちろん、本宮事件が起きたときは、『これをきっかけに絶対すげー脚本書いてやる!』って思ってましたよ。なんならこの事件をそのまま脚本にしてやろうかくらい思ってました。本宮には『お前、絶対見返してやる』って宣言しましたし、そういえばあのとき水野さんに頼んで丸坊主にしてもらいましたよね」

――そうそう。家にバリカンあったから「気合入れよう」ってことで丸坊主にしたんだよな。

「あのときは、『マジで変わる』って思ってましたからね。そういえば、あのときタバコもやめたんですよ。とにかく、全力で『変わる』方向に向かいたかったんで。『やっと理想のきっかけが来た』って思いましたからね。この『きっかけ』に比べたらそれまでの『きっかけ』は、『かっけ』みたいなもんですわ」

――そういう小ネタ挟まなくていいから。そんなに気合入ってたのに、なんでダメだったんだよ。

「はい。そうやって『変わる』って意気込んで、一晩寝て、そしていよいよ机の前に座ったんですよ。そしたらね……やっぱり書けないんですよね。どうしても書けない。ただ、そのときは『絶対あきらめない』って決めてたんで、面白くなくてもとにかく書いてやるって決めてて。それでそのとき思い出したのが、
 【もし、一行も書けなくても、『今日も書けなかった』という一行でいいから書く】っていう言葉なんですよ。それで、『今日も書けなかった』『今日も書けなかった』っていう言葉をずっと続けていけば、それが前進なんだって」


――いい言葉だね。

「ただ、これ、本宮の言葉なんですよ」

―― ――。

「それで、これは勝てんわ、と。心がポッキリと折れました」

――なるほど。
  それで今、本宮とはどういう関係なの?

「はい。普通に仲直りして、最近は一緒に飯食ったりしましたね

――……。

「ただ、文章がスイスイ書けてたらそうならかったと思うんですよね。だから、やっぱりそこが大きかったと思うんです。僕の頭の中では『何か大きなきっかけがきたら書ける。だから「きっかけ」待ちだ』っていうイメージがあったんですよ。でも、脚本を書くっていう行為は、それとは別物だったんですよね。
 さっき、『ブラックジャック』の例が出ましたけど、手塚治虫は漫画を描くのが得意だし、好きだったっていうのが前提ですよね。もし、どれだけ傷を負ったとしても、その傷を治す方法として『漫画』が彼にはあったわけで。その傷を治す方法として、僕の場合、脚本は機能しなかったってことなんですよ」


――お前、そこまで分かってて、なんで今、『脚本家志望』なんだ?

「うーん。難しい質問ですね。ただ最近思うのは、学生時代ってクリエーターがカッコ良く見えるじゃないですか。それで他の学生たちが普通に就職するのを見てると、なんていうか、普通の国産車に乗って、普通の道を行くように見えて、それがすげー嫌だったんですよ。それで水野さんと一緒にいたりするのが、外車の後部座席に乗ってるみたいな感じで気持ち良かったんですよね。それでどんどん普通と違う道に進んで行って、それはそれで楽しいんですけど、そっちの道はそっちの道で色々大変だってことが分かってきて、ちょっと車から降りてみたんですよね。そしたら外は砂漠で。しかも、水野さんはそのまま走り去って行っちゃって。今、砂漠の真ん中で一人ぽつねんと立っている感じですね。水も食料も尽きかけた状態で。
 ……ぶっちゃけた話していいですか」


――どうぞ


「俺、就職すべきでした」


―― ――。

「どう考えても、あのとき、自分で国産車を運転してあっちの道に行くべきでしたね。この道は危険すぎました」

――そ、そうかもな。

「俺の名前、真壁ユウキじゃないですか」

――うん。

「俺の『ユウキ』は、あそこで使うべきじゃなかったんですよね。もっと臆病に、後ろ向きに考えるべきだったと思います」

――……。

「俺、どうすればいいですかね?」

――うーん。正直、こればっかりは俺も分からないんだよな。分からないからこそこうやって話してるわけでもあるし。
 ……思い切って、このブログ読んでる人に聞いてみる?
 この企画始めて発見したことは、この「真壁問題」って世の中の人は相当深く考えてるってことなんだよね。そういう人たちの意見聞いてると、むしろ俺って単純に考えてたんだなって反省させられたんだよね。だからここで読者の人に聞いてみるのは新しい発見があるかもしれないよ。

「そうですね。ぜひ聞いてみましょう」

――じゃあちょっと呼びかけてみて。

「はい。ウケる日記の読者のみなさんへ。真壁です。僕はこのまま脚本家志望で行くのか、就職するのか。もしくはそれ以外の道があるのか。アドバイスいただけたらうれしいです。この対談企画では、まあ僕も書き手の端くれとして、リップサービスっていうんですか?『盛り上げるぞ』っていう気持ちがどこかにあったと思うんですよね。だからあんまり僕の深刻な現状が伝わってないかもしれないんですけど、かなりしんどいです。人生ギリギリのところまで来てます。それでこれは水野さんが良く言ってることなんですけど『俺のブログは変な読者ついてないから。みんな頭良いし、イケてる読者ばっかだから』僕もこの意見に超同意なんで、そんなイケてるみなさんのお知恵を拝借できたらと思います。よろしくお願いします」

――では真壁の今後に対してアドバイスをいただける人は、コメント欄にお願いします。



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