水野
――じゃあ今回は、『因果関係』について聞いていきたいんだけど。

真壁
「いわゆる『インケイ』ですね」

――若干、下ネタみたいになってるけど……。
  とりあえず真壁の知ってる範囲内で「因果関係」について説明してみて。

「はい。簡単に言えば、『出来事が起きる原因と結果の関係』ってことですよね。空中で物を手離したら地面に落ちますが、それと同じように、世の中では当たり前のことが当たり前のように起きてるだけだと。それで、多くの人が、自分が望む結果を出すことができないのは、この『因果関係』を無視したり、自分に都合の良いように解釈してしまうからなんですよね」

――うん、そういうことだね。松下幸之助が「ありのまま」とか「素直」って呼んだのも、この因果関係のことなんだよね。
たとえばダイエットを例にすると、色んなダイエット方法が流行ってるけど、「痩せる」という結果を出すために一番大事なことは「食べない」ってこと。だから本気で痩せたい人は、必ず食べる量を減らす。でも世の中には、そういう因果関係を無視する人がたくさんいて――まあ、「無視する」とうより、「無視したい」人なんだろうね。無視した方が「楽」だからね。だから「食べながら痩せる」とか、そういう言葉に飛びついてしまう。でも、それは結果を出すための正しい原因を作れてないから、結局そういう人たちが痩せることはできないんだね。

「厳しいっすね」

――でも、因果関係を無視したら、自分が望む結果は得られないわけだから、結局、あとからつらい思いをすることになるんだよね。それより、最初は苦しいかもしれないけど、因果関係から目を逸らさなければ望ましい結果が得られる。
 それで真壁は、結果を出すためには「因果関係」が大事だっていうことは分かっているよね。

「はい、分かってるんですけど。そもそも『因果関係』を把握することが、むしろ成功から遠のくケースもあると思うんですよ」

――ん? どういうこと?

「因果関係を把握しすぎることによって、逆にモチベーションが下がるってことなんです。それ、まさに今の俺なんですけど。
たとえば、今、俺が望む結果はテレビ局の『シナリオ大賞』ですよね。でも、因果関係を考えたとき、今、この瞬間も脚本書いてなきゃだめじゃないですか。正直、水野さんとこんな与太話してる場合じゃないんですよね。無料で読めるブログのしょうもない企画やって、読者の慰みものになってる場合じゃないんですよ。それは、俺も分かってます。でも、それが分かってるからこそ、つらいんですよ」


――しょうもないて――。
まあ、でも、お前の望む結果から逆算したら、その考え方にも一理あるか……。

「因果関係を正確に捉えたとき、目の前の現実っていうのはとてつもなく深い闇でもって俺に迫ってくるわけですよ。これは、もう『虚無』です。ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』にでてくる『虚無』ってこういうことなんじゃないかって思う昨今です。
 しかも、これが2年前だったらまだ良かったかもしれないですけど、夢って、年を経れば経るほど、どんどんつらくなっていくじゃないですか、因果関係的に。たぶん、世の中のサラリーマンの人達も同じような感じなんじゃないですかね。若いときは夢があったり、将来に希望を持ってたけど、因果関係がはっきりしてくると自分の成功する確率が思った以上に低いことが分かってしまう。――まあだから彼らは毎日お酒飲んだりするわけで、僕の場合は毎日ドラクエをやってますよね」


――なるほど。それはなんとなく分かる気がする。

「だから、俺が思うに、成功する人って、むしろ因果関係をちゃんと把握してないゆえに頑張れるっていうのもあるんですよね。物事の良い面しか見てないっていうか。だから、これまで起業家の人とか、有名になった人とか見てきましたけど、天然っていうか、正直『この人バカなんじゃないか』っていう人多かったですね」

――バカ……。

「まあ、あくまで良い意味でバカというか、信じる力があるというか。因果関係を完全に把握してたら、もっと疑ったり不安になってもいいはずなのに、うまくいくって信じ切っちゃってる。僕の知り合いにも、本宮っていう脚本家がいるんですけど。そいつなんてまさにそうなんですよ。いや、実力もあるんですけど、僕からしたら、『お前の行こうとしてる道、かなりぐらぐらしてて危なくね?』っていう道も、そいつは『全然歩ける! 余裕で渡りきれる!』って思って、すごい勢いで進んで、本当に渡りきっちゃったんですよね。それって、ある種の才能なんだと思います」

――なるほどね。確かに、「勘違いする力」って大事だよな。勘違いしてるときが、一番モチベーションも高いし、実力も発揮できる。よく「無根拠な自信」って言われるやつだよね。
 ただ、正直、それだけでもダメなんだよ。
 いわゆる「蛮勇タイプ」っていうのがいて、盛り上がって行動はできるんだけど、因果関係を把握しようとしないから、最終的には結果につながらない。いつも同じような失敗を繰り返すことになる。

「難しいっすね」

――まあね。結果を出すためには、「盛り上がること」「冷静になること」両方必要だからなぁ。
 ちなみに俺の場合で言うと、最初は自分の未来に期待して、ワクワクして、猛烈に頑張るんだけど、そのときは絶対うまくいかない。それで、失敗を繰り返すことになるんだけど、モチベーションはどんどん下がっていくんだよ。でも、同時に、そのときは「因果関係」を学んでるんだよね。だから、結果が出る前の気分ってすごく冷静で、なんなら

 「結果が出ようが出まいが、どっちでもいい」

 くらいになっちゃってるんだよな。なんでそうなるかっていうと、最初は自分の望む結果が、「非日常」だったんだけど、そのときにはすでに因果関係を学んでるから、「日常」になってしまってるんだよね。だから、実は一番楽しいのは、結果が出たときじゃなくて、企画やプロジェクトを始めるときなんだよね。皮肉な話だけど。

「なるほど」

――ただ、今の真壁に必要なのは、初期段階の「盛り上がること」だよな。

「そうです。そうなんですよ。
ちなみに、僕が盛り上がるにはどうしたらいいですかね」


――うーん。俺を仮に真壁の執刀医だとするなら、「最善は尽くしたのですが……」って両親の前でうなだれてる感じなんだよね。
   
「ちょっと、見捨てないでくださいよ!」
 
――教師が悪いのか、生徒が悪いのか。これは俺たちの関係における永遠のテーマだよな。ただ、この前真壁が言ってたけど、「知識を振り返る」っていうのも大事だからね。前に言ったことがあると思うんだけど、ここで改めて説明すると
 
 「頑張らないこと」が日常化している人が盛り上がるには、「事件」が必要なんだよね。

今の状況で頑張れてないわけだから、「明日から頑張ろう!」ってどれだけ意識したところで人間ってのは変われないんだよ。だから「もしかしたら変われるかも」って期待できるような事件を起こすしかない。少なくとも、こうやって話してるだけでは「事件」は起きないよね。

「『事件は会議室で起きてるんじゃない!』ってことですね」

――お前の人生相談してるはずなのに、すごい余裕だな。
   まあ、でも、そういうことだよ。
   だから、事件を起こすためには、動かなきゃいけない。
   じゃあどうすればいいかっていうと、
   俺が一番勧めてるのは
   「応募する」
   ってことだね。
 
「それは、『シナリオ大賞』に応募するってことですか?」

――いや、正直、それは事件にはならないと思う。だって、真壁はこれまでもシナリオ大賞には脚本を提出してるわけだからね。俺が言う「応募」っていうのは、今まで自分でも思いもよらなかった可能性が開けるってことなんだ。今の真壁で言うとしたら、そうだな……たとえば、アルバイトを変えてみるとか。シナリオだけじゃなくて、もっと違うジャンルのものに出してみるとか。それこそ、真壁はゲームが好きだからゲームのシナリオも面白いかもね。

「なるほど」

――もしそこで認められでもしたら、めちゃくちゃ頑張れると思うよ。
真壁にこの話したことあったっけ? 俺が最初に文章書いた話。

「はい。聞きました。高校生のときですよね」
 
――そう。高校3年の9月に、それこそ俺の人生に「事件」が起きたんだよね。
   ただ、これは詳しく言うと若干問題になるから抽象的に話すけど、とあるゲーム雑誌に「応募」したんだよな。「あるゲームの攻略法を見つけた」ってことで。そしたら編集部から連絡があって、連載が始まったんだよね。
  もう、そのときの興奮たるやとんでもなかったよ。
  だって、その雑誌はコンビニに売ってる雑誌だったからね。
  「これで俺の人生変わる!」って期待したもんね。
  これを足場にして色んな活動を広げていけば、俺は女にモテる!
  って本気で思ってたもんな。

「『物語化』ですね」

――そうそう。まさに、人生で初めて「物語化」が起きた瞬間だったよ。
   それまで学校でも本当に落ちこぼれで、勉強するのなんて死ぬほど嫌いだったけど、東京の大学に行くことで、雑誌の連載の説得力も変わってくんじゃないかって思い始めたら、勉強するのがまったく苦にならなくなってた。

「将来の自分をイメージすることで、努力を『快楽化』してたわけですね」

――合の手が完璧すぎて、逆に心がこもってない感じがするんだけど。

「いえいえ。僕はあくまで『水野スタイル』を言語化してまとめてるわけですから。仮に水野さんが執刀医だとしたら、水野さんの『メス!』の声に、メスを差し出してるだけですから」

――……まあいいや。
 あと、そういえば、そのとき始めた連載の文章は、読者に対して「お前らはバカだ」って上から目線で言いまくってたからすごく評判悪かったんだけどね。一度、編集者の人が読者ハガキのファックス送ってきたけど、俺に対する罵詈雑言がひどかったもの。

「あははは。そして、それでショックを受けたことでは、読む人の気持ちを考えた文章が書けるようになったんですね。『因果関係』ですね」

――やっぱり、俺のことバカにしてないか?

「バカにしてないですって(笑)。ていうか、結局事件をどう起こしたらいいんですか?」

――ああ、そうそう。その話だった。それで、このときの事件は、俺が雑誌に原稿を送ってそれが採用されたってことだったんだけど、その先に自分の将来が広がっていく「希望」が持てたってことが大事なんだよね。
 だから俺もそれ以降は、「事件」のきっかけになるようなことをするっていうのをすごく大事にしてて、それ以降も自分の人生で何度か「事件」のようなものが起こすことができたんだよ。

「もともと努力家というわけではないんですか?」

――中学、高校時代の俺を知ってる人がいたら分かると思うんだけど、まあ怠惰な人間だよ。学校の授業は1限から4限までほぼ寝てたし、それ以外の時間は、ゲームと漫画に使ってたね。

「なるほど。そして、そんな水野さんの中学高校時代を今も続けているのが、俺、というわけですね」

――自分の人生を、真の壁に阻まれたまま、な。

「あはははは!」

――まるで他人事みたいに笑ってるけど。

「ちなみに、『応募』以外で、『事件』を起こすことってできますか?」

――そうだね、特に大事なのは、『好奇心』かな。

「好奇心……」

――好奇心って一見無駄に見えるけど、実はめちゃくちゃ大事なんだよ。意識して大事にしていかなきゃいけないかもしれない。
 というのも、事件が起きるときってどういうときかっていうと、自分が背伸びしてるときなんだよね。そもそも、危険を恐れる予定調和の世界の中にいたら、事件なんて起きないわけだし。

「確かにそうですね」

――つまり、いかにいつもと違ったことをするかってことが大事なんだけど、違うことをするって言っても、人間は嫌なことはできないわけだろ?

「生物は『快に向かい、不快から遠ざかる』から」

――そのとおり。じゃあ、『快』であり、かつ、今までと違う行動ってことになると、もうこれは『好奇心』以外無いんだよね。

「なるほど」

――だから、興味のあること、楽しそうなこと、好奇心がそそられることっていうのは、思い切ってそっちに向かうべきなんだよ。それが自分に「事件」を起こして、新しい世界に連れてってくれる。
 実は、ウォルト・ディズニーも同じことを言っててね。ディズニーって、映画を撮ってたときも、なぜか鉄道が好きで、部屋の中に相当凝った鉄道模型を作って遊んでたらしいんだよ。でも、それを作っているときに「テーマパーク」の構想を思いついたらしいんだ。ジョブズが言ってた「点と点がつながる」っていう有名な話も、ジョブズは「文字のフォント」に「好奇心」を持ってそちらの道に進んだってことだからね。
 『好奇心』ってすごく大事なんだよ。

「そうなんですね。事件を起こすためには『好奇心』を大切にせよ。メモっときます」

――ちなみに、今、真壁が好奇心のあるものってないの?

「今だと、『職人』ですかね」

――職人?

「ドラクエで、プレイヤーが装備する武器や防具を作る『職人』っていう仕事があるんですけど、これを極めれば、ゲーム内で、ディズニーやジョブズになるのも夢じゃないんですよ」

――……。



水野メモ

モチベーションを大きく上げるためには「事件」が必要

「事件」は、「応募」したり、、「好奇心を感じるものに飛び込む」ことで起こすことができる




「なぜ真壁は変われないのか?」次回は三大成功法則の最後「傷」について真壁と考えてみたいと思います。



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※ 「ウケる日記」は来週火曜日更新です。


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