水野
――恋をしてる? それはドラクエの世界の中でってこと?
真壁
「はい。前から『こんな女の子がいたら理想だな』とイメージはしていたんですけど、同時に『そんな子いないだろうな』とあきらめてたんです。でも、そんな理想の女の子を見つけちゃったんですよ、ドラクエの中に」
――でも、相手の顔とか分からないわけだし、そもそも会話だってどこまで本当か分からないんだろ?
「意外ですね」
――何が?
「いや他のやつらは言うんですよ『チャットだったらどれだけでもウソつける』とか『お前騙されてるんじゃないか』とか。でも、ほら、ネット上のチャットって、文字じゃないですか。それで、水野さんは人一倍『文字』にはうるさい人じゃないですか。だから当然分かると思ってたんですよね。人間性ってのは全部『文字』が出るってことが」
――……。
「それに、俺、その子とパーティを組み始めて4ヶ月くらいなんですけど、毎日会話してるんで、普通の恋愛におきかえたら――3年分くらいの付き合いになるんじゃないのかな。だから、圧倒的に濃いんですよ。関係が」
――お前、大丈夫なのか?
「何がですか?」
――いや、まあ、色んな意味で、なんだけど、たとえばその女の人に騙されてたりとか?
「全体の流れを始めから説明したら分かってもらえると思うんですけど、でもすごく時間がかかるし、ていうかこの話はこの辺にしてもらっていいですか。この恋、現在進行中なんで、万が一その子がこれ(日記)見てないとも限らないんで」
――その恋が成就するように祈ってるよ……。でも不思議なのは、俺も、元々はゲーマーだったんだよな。
「『ストリートファイター2』のガイルで立ちサマー出せたんですよね」
――そうそう。中学、高校時代は毎日ゲーセン行ってて。でも、高校3年の時やめたんだよな。それはやっぱり、ゲームやってる時間を他のことに使わないと、それこそ『恋』が実らないというか、女の子にモテないっていう現実から目をそむけられなかったんだよね。だから結局、ゲーセンに行くのが怖くなったんだよ。
「今は、まったくゲームしないんですか?」
――iphoneにストリートファイター4入ってるけど、俺、寝起きが悪いから、起きたらすぐやるようにしてて、頭がはっきりしたらやめるね。だから、毎日30秒くらいかな。
「それ、ゲームっていうより目覚まし機能の一つじゃないですか」
――やっぱり、ゲームにハマるのが怖いんだよ。だから、攻略サイトとかも見ないようにしてるし、たまにゲーセン行っても、自分ではプレイせずに人がやってるストリートファイター4見学してたりするんだよね。
でも、真壁にはそういう怖さはないの? どう考えてもゲームやる時間を仕事とか他のことに使った方が女の子には振り向いてもらえると思うんだけど。
「うーん。まあたとえば大学1年のときの自分を、今の僕の状況に連れてきたとしたら、たぶん発狂しますよね。でも、今現在で言えば、僕はそんなに怖くないっていうか。たぶん、『適応』しちゃったんでしょう」
――適応?
「はい。最初は怖いんですけど、途中から脳が『これはこれでよくね?』ってなっていく感じがあるんですよね。あと、僕、一晩寝たら、どんなつらいことでも半分くらいのつらさになってますからね」
――!?
「1日寝たら半分で、2日寝たら、4分の1。8分の1。16分の1。まあ32分の1になったら、ほぼつらくないじゃないですよね。だから、どんなにつらいことでも、4、5日過ぎればどうでもよくなりますね」
――じゃあ、昔あったことでつらいことは覚えてない?
「一応覚えていますが、なんというか『文字』として覚えてる感じですね」
――文字?
「はい。『そういう出来事があった』という事実が、ニュースみたいに記憶されているだけで、そのとき感じたつらい感情はすっかり抜け落ちていますね」
水野メモ
真壁には、寝るとつらさを忘れるという能力がある
この話には非常に考えさせられた。僕は真壁とは逆で、たとえば何年も前に、人からバカにされたり見下された言葉を鮮明に覚えていて、僕が意識していなくても、いきなりその映像が感情と共にフラッシュバックして「ああっ!」と部屋で叫んでしまうことがあるほどだ。だから、いつもリベンジしようとしているし、何かに追い立てられるようにして仕事をしている
「もしかしたら、水野さんの脳は、システム障害が起きてるのかもしれないですよね」
――システム障害?
「脳が、つらいことを強く記憶して消去できないから、それを解消するために、『バカにされない人間になる』という、とてつもなく遠回りの道を選択せざるを得ない。幸せという意味ではかなり燃費が悪いですよね」
――……まあそうかもしれんけど、でもその分お前は変われないってことになるぞ。
「そうなんですよね。だから世の中は、『変わる派』は努力して変われない人に優越しようとするし、『忘れる派』はそこに留まって、変わる派をバカにしたりする。そうやって二つの大きな陣営が戦ってるのが現代社会なんですよ。そして、今、その両陣営の代表がこうして歴史的対談をしているという、そういうイメージでこの企画に臨んでいますよね」
――でも、お前は変わりたいんだろ?
「はい」
――だって、何度も変わろうとしてきてるもんな。
「はい」
――これまで何回禁煙したの?
「200回はしてますね」
――で、今は?
「1日2箱吸ってます」
――じゃあ次はそのあたりの話聞かせてもらっていいかな?
※ 「ウケる日記」は来週火曜日更新です。
水野敬也関連作品
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――恋をしてる? それはドラクエの世界の中でってこと?
真壁
「はい。前から『こんな女の子がいたら理想だな』とイメージはしていたんですけど、同時に『そんな子いないだろうな』とあきらめてたんです。でも、そんな理想の女の子を見つけちゃったんですよ、ドラクエの中に」
――でも、相手の顔とか分からないわけだし、そもそも会話だってどこまで本当か分からないんだろ?
「意外ですね」
――何が?
「いや他のやつらは言うんですよ『チャットだったらどれだけでもウソつける』とか『お前騙されてるんじゃないか』とか。でも、ほら、ネット上のチャットって、文字じゃないですか。それで、水野さんは人一倍『文字』にはうるさい人じゃないですか。だから当然分かると思ってたんですよね。人間性ってのは全部『文字』が出るってことが」
――……。
「それに、俺、その子とパーティを組み始めて4ヶ月くらいなんですけど、毎日会話してるんで、普通の恋愛におきかえたら――3年分くらいの付き合いになるんじゃないのかな。だから、圧倒的に濃いんですよ。関係が」
――お前、大丈夫なのか?
「何がですか?」
――いや、まあ、色んな意味で、なんだけど、たとえばその女の人に騙されてたりとか?
「全体の流れを始めから説明したら分かってもらえると思うんですけど、でもすごく時間がかかるし、ていうかこの話はこの辺にしてもらっていいですか。この恋、現在進行中なんで、万が一その子がこれ(日記)見てないとも限らないんで」
――その恋が成就するように祈ってるよ……。でも不思議なのは、俺も、元々はゲーマーだったんだよな。
「『ストリートファイター2』のガイルで立ちサマー出せたんですよね」
――そうそう。中学、高校時代は毎日ゲーセン行ってて。でも、高校3年の時やめたんだよな。それはやっぱり、ゲームやってる時間を他のことに使わないと、それこそ『恋』が実らないというか、女の子にモテないっていう現実から目をそむけられなかったんだよね。だから結局、ゲーセンに行くのが怖くなったんだよ。
「今は、まったくゲームしないんですか?」
――iphoneにストリートファイター4入ってるけど、俺、寝起きが悪いから、起きたらすぐやるようにしてて、頭がはっきりしたらやめるね。だから、毎日30秒くらいかな。
「それ、ゲームっていうより目覚まし機能の一つじゃないですか」
――やっぱり、ゲームにハマるのが怖いんだよ。だから、攻略サイトとかも見ないようにしてるし、たまにゲーセン行っても、自分ではプレイせずに人がやってるストリートファイター4見学してたりするんだよね。
でも、真壁にはそういう怖さはないの? どう考えてもゲームやる時間を仕事とか他のことに使った方が女の子には振り向いてもらえると思うんだけど。
「うーん。まあたとえば大学1年のときの自分を、今の僕の状況に連れてきたとしたら、たぶん発狂しますよね。でも、今現在で言えば、僕はそんなに怖くないっていうか。たぶん、『適応』しちゃったんでしょう」
――適応?
「はい。最初は怖いんですけど、途中から脳が『これはこれでよくね?』ってなっていく感じがあるんですよね。あと、僕、一晩寝たら、どんなつらいことでも半分くらいのつらさになってますからね」
――!?
「1日寝たら半分で、2日寝たら、4分の1。8分の1。16分の1。まあ32分の1になったら、ほぼつらくないじゃないですよね。だから、どんなにつらいことでも、4、5日過ぎればどうでもよくなりますね」
――じゃあ、昔あったことでつらいことは覚えてない?
「一応覚えていますが、なんというか『文字』として覚えてる感じですね」
――文字?
「はい。『そういう出来事があった』という事実が、ニュースみたいに記憶されているだけで、そのとき感じたつらい感情はすっかり抜け落ちていますね」
水野メモ
真壁には、寝るとつらさを忘れるという能力がある
この話には非常に考えさせられた。僕は真壁とは逆で、たとえば何年も前に、人からバカにされたり見下された言葉を鮮明に覚えていて、僕が意識していなくても、いきなりその映像が感情と共にフラッシュバックして「ああっ!」と部屋で叫んでしまうことがあるほどだ。だから、いつもリベンジしようとしているし、何かに追い立てられるようにして仕事をしている
「もしかしたら、水野さんの脳は、システム障害が起きてるのかもしれないですよね」
――システム障害?
「脳が、つらいことを強く記憶して消去できないから、それを解消するために、『バカにされない人間になる』という、とてつもなく遠回りの道を選択せざるを得ない。幸せという意味ではかなり燃費が悪いですよね」
――……まあそうかもしれんけど、でもその分お前は変われないってことになるぞ。
「そうなんですよね。だから世の中は、『変わる派』は努力して変われない人に優越しようとするし、『忘れる派』はそこに留まって、変わる派をバカにしたりする。そうやって二つの大きな陣営が戦ってるのが現代社会なんですよ。そして、今、その両陣営の代表がこうして歴史的対談をしているという、そういうイメージでこの企画に臨んでいますよね」
――でも、お前は変わりたいんだろ?
「はい」
――だって、何度も変わろうとしてきてるもんな。
「はい」
――これまで何回禁煙したの?
「200回はしてますね」
――で、今は?
「1日2箱吸ってます」
――じゃあ次はそのあたりの話聞かせてもらっていいかな?
※ 「ウケる日記」は来週火曜日更新です。
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