ウチの事務所のアシスタントで、古くから付き合いのあるJくんという子がいて

彼の本を出すために4年以上一緒に頑張ってきたのですが

どうしても出版するだけのクオリティに達することができず、

最近

「君の企画はこれ以上やっても無理だから、この企画はあきらめよう」

と苦渋の決断をしました。

Jくんは毎日の仕事終わりや週末を返上して何年もやってきたので、話しているときは本当につらくて泣きそうになりました。


そして、それから数日後。

突然、Jくんが入院することになったのです。

原因も良く分からない「不明熱」というもので、

とりあえずJくんの見舞いに行くことにしました。

病室のJくんはかなり憔悴していて、僕が見舞いに行った前日にはろれつが回らない状況だったそうです。

病気の内容は、やはりはっきりしたことが分からないのですが、血液内に菌が入りそれが心臓に到達しそうになっているという、大変なものだということでした。

(もしかしたら……)

僕は、企画がボツになったショックでJくんが謎の熱に冒されているのではないかと思いました。

もちろんJくんは否定しましたが、僕はずっとそのことが引っかかっていました。


すると、先日、Jくんからこんなメールが届いたのです。


※ 以下、Jくんのメールをそのまま記載します。文字の大きさもJくんがメールで使用してきたものです




件名:無事退院の運びとなりました。

水野さん
お疲れ様でございます。
Jでございます。
お陰さまで退院の運びとなりました。
この度はお忙しい中ご心配頂き、
また水野さんにおかれましてはお見舞いお越し頂きありがとうございました。


以下、長文となります事をどうかどうかご容赦下さい。


私の罹患していた病気は感染性心内膜炎という病気で
心臓の弁付近に菌が溜まり弁を破壊したりしてしまうというものです。


実は水野さんがお見舞いにお越し頂いた前日の午前3時には、脳梗塞を起こしておりました。
(その為移動が車椅子でした)


幸い発見と対策が早かったので、一時的にろれつが回らなくなったのと口左側周辺に麻痺が出た位で数時間後にろれつは回りだし、麻痺は数日で消えました。

その後のMRI、全身CT、経食道心エコーで再発はないだろうとの診断もあり、現在に至っています。

ただ菌の攻撃により、心臓の弁が破壊され血液が逆流する僧帽弁閉鎖不全症という疾患になりました。

逆流の程度を表すステージは1-4の内で最も重い4だろうとの説明を退院前の心エコーを行った際、循環器科医に説明を受けました。







現状、出版のステージは限りなく0に近い1なのに、です。





ただ、これこそが、以前水野さんがおっしゃっていた、
「環境が自分を引っ張ってくれる」という事だと気付きました。



そして、現在、




地獄に向かって力強く引っ張られております!!!





自然治癒、投薬治療は全く見込めず今後放置すると、今回の病気の再発や心不全、再度の脳梗塞リスクがあるため、出来るだけ早く(来月にでもと言われました)、弁を修復する為の心臓の手術を行うべきだと言われました。






脳梗塞




心臓の弁が破壊され




心臓の手術








これがデヴューしてしまった者の定めでしょうか、2か月前までは考えもつかなかった言葉が踊り狂っております。

今日は今回の病気の感染巣と疑わしい歯を抜歯しました。再発防止の抗生剤の点滴しながら。
(手の甲には針を刺さないでくれ、入院中も一度も刺されていないと一回り程年下であろう可愛い歯科助手にしつこくごねました。)

軽労作につきましては問題ない旨の診断を頂いておりますが、
精神的にもかなり今回はやられ、一方で今までになかった視点も持てたと思っており
(今回の経験に触発された書籍企画を数個考えております!)
というかそんな事より、私がアトリエに定期的にいる事が水野さん達のご迷惑になると容易に想像できますので、少なくとも手術が終わり完治するまでは、お休みを頂戴した方がよいかと思っております

もし、万が一私が顔をお出しした方が良い場合があれば、お呼びつけ頂ければお伺いしたく思います。
以上この度も多大なるご迷惑おかけし、恩返しも依然全くままならぬ状況ではありますが、
現状、アトリエで最も出版から縁遠い男のもとにさらなるアゲインストの風が吹いたという事、そして一応生きてシャバに出てはこれましたというご報告でございます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

PS.
入院中の私を気遣ってイキガミやアイアムアヒーロー、アザゼルさんといった死、ゾンビ、悪魔物系の漫画の差し入れ誠にありがとうございました。
来月の夢ゾウⅡの発売楽しみにしております。











生死の境を彷徨ったはずなのに、行間からにじみ出る謎の余裕――。



何かある。


彼の文章には、俺が今まで見落としていた、何かがある!



―――4年かけた企画はボツになってしまいましたが、Jくんは死ぬまでにすごい本を書いてくれるんじゃないかなぁと期待しています。




※ 「ウケる日記」は来週火曜日更新です。



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