書店に並ぶ女向け恋愛マニュアル本を読んでいるといつも思うのが

色んなこと書きすぎ

である。
「さりげなく可愛い言葉を言う」「小さな気配りが大事」「大胆さが必要」「よく笑い、よく笑わせる」「前回とは違う自分を見せる」etc……100項目近くの方法がずらずらと並べてある。
 だが、今この文章を読んでいるお前は、自分の胸に手を当てて――その貧乳に、まな板に、エアさらしを巻いた胸に手を当てて――過去を振り返ってみよ。いざ好みの男を前にしたとき思い出せた技術はせいぜい一つか二つではなかったか?
 
もちろんスパルタ婚活塾では最高の男と結婚するための技術を様々な角度から教えていくことになる。基礎編を教え終わったら「コミュニケーション」「ファッション」「立ちション」の三大分野に加え、デート、交際、H、プロポーズまでの技術を完璧に叩き込む。毎週火曜日に更新しているこの連載が終了するのは、30年後の2042年6月を予定しており、連載の後半では一人称が「俺」から「ワシ」になるだろう。そして、そのときまでには必ずお前を理想の男と結婚させることを約束しよう。

 さて、しかし現状のお前は恋愛初心者である。恋愛若葉マークである。そんなお前たちに今回は

 「好みの男を前にしたときは、このことだけを考えろ」

 というたった一つのスキルを授けたい。これは男を落とす恋愛理論の中でも究極奥義と呼べるものなので心して聞くこと。
 
 ところで、男はどういうとき女を好きになるか?

それは、もちろん好みの女性が目の前に現れたときでもあるが、それ以上に大事なのが

 「この女、落とせるんじゃね?」

と期待したときである。
人間は高すぎる目標に対してはモチベーションを燃やさず、頑張ればなんとかなりそうなものを手に入れようとする生き物である。しかし、これは裏を返せば「こいつ確実に俺にホレとるなあ」と思ったときには冷めるということを意味する。なぜならその時点でその女は自分にとって価値の低いものに思えてしまうからである。ハッピーマニアのシゲカヨの有名な台詞
「私のことを好きにならないようなカッコイイ男はどこにいるの?」
これは男にもあてはまる言葉なのである。
つまり、重要なのは、男に惚れているという証拠は掴ませないが、相手からは「この女、俺に気があるんじゃないか」と思わせるという、「疑わしいけど証拠がない」まさに恋の完全犯罪を成立させるということなのだ。

では具体的にどのようなトリックが可能になるだろうか。

結論を言うと



おさわり




である。

男という生き物は女が思っている以上に、ボディにタッチされると「この女、俺に気があるんじゃね!?」と勘違いしてしまう生き物なのである!
この重要性を女に叩き込むために、俺は女向けの恋愛講義を開くとき、必ず授業前に生徒を全員起立させ次の言葉を唱和させることにしている。


さわりまくって、ヤラせるな


俺の授業に参加する100人以上の熟女たちは、まずこの言葉を声高に10回叫んでから席につくのである。
しかし、俺がこの話をすると決まって
「要するに、男の体を触ればいいんでしょ」
と男の膝に手を置いたりするバカな女がいる。



お前はキャバ嬢かと。



キャバ嬢のおさわりは男がお金を払っているという条件だからこそ「完全犯罪」として成立しているのであり、普通の飲み会でそんなおさわりをしたら完全にアウトである。
 ちなみにキャバ嬢的なおさわりは、
「男の膝に手を置く」
「マッサージできるといって体のツボを刺激する」
「肌が奇麗と言って肌を撫で続ける」
などがあり、これらのおさわりを初対面で使うとキモいと思われるので要注意。

繰り返すが、お前がしなければならないのは、あくまでナチュラルなおさわりなのであり、「あなたのことが好きです」ということがバレない、アリバイのあるおさわりなのである 

さて、男に対するおさわりの破壊力を誰よりも熟知していた俺は、この分野に関しては徹底的な研究を続けてきた。常に新しいおさわりを開発し、また、素晴らしいおさわりスキルに出会ったときには逐一メモしてきた。
 こうした地道な努力によって発見した技術「おさわり四十八手」を今からお前たちに教えてしまうのは正直ためらわれる。この「おさわり四十八手」が収められたエクセルシートであれば最低でも10万円以上の価値はあり、全世界に存在する愛也ファン1000万人に販売すれば一財産が築けるだろう。実際、そのことに気づいた事務所社長の山本が手をもみながらこんな提案をしてきた。

「愛也はん、『おさわり四十八手』売り出しまひょ。これやったら原価0円、粗利100%やから(電卓をはじきながら)うん、ちょうど売上1兆円や。これで来年のフォーブス資産長者番付、孫と柳井を超えられまっせ」 

しかし俺はニヤニヤと笑う山本の顔面に何度も拳を叩き込みながら言った。

「バカ野郎!!! 俺はなぁ、たかが一兆の金が欲しくて、スパルタ婚活塾やってるんじゃねえんだよ! 俺は――1人でも多くの恋に悩む女たちを、最高の笑顔でバージンロード歩かせるために――この、スパルタ婚活塾を開いたんだ!」

「あ、愛也はん……!」

すると山本は目に涙を浮かべて言った。

「すんまへん愛也はん。ワテが違ってました」

しかし、山本は目をくわっと見開くと言った。

「ただ、愛也はん、これだけは忘れんといてください。ワテは、ただ銭っ子欲しくてこんな提案したんやおまへんで。ワテは、愛也はんの最終目標である世界一の恋愛テーマパークを――『東京ディズニーランド(TDL)』を超える『東京秘宝館(THK)』を建設して、全世界に広めるために銭っ子のこと考えてるんでおま!」

「や、山本――」

こうして俺は、改めて山本が最高の経営者であることを確認し、4畳半の事務所で抱き合ったのだった。そして喧々諤々の議論を交わした結果、「おさわり四十八手」は無料で配布し、四十九手以降を「一手、一万円」で販売することに落ち着いたのだ。

 ――それでは、今からスパルタ婚活術奥義「おさわり四十八手」をお前たちに伝授したい。

 これから紹介する技術はすべて「ナチュラルなおさわり」であるが、その場の空気や触り方によってキモくなる危険性存在する。繰り返し実践の中で訓練しながら必ず自分のモノにすること。





「おさわり四十八手」



「ハイタッチ」
共同作業を達成したときなどに行うスキンシップ。どんな状況からでも繰り出すことができるすぐれたおさわりなので積極的に狙え。

「ソフトビンタ」
ツッコミを入れるとき技の一つ。少しでも自分にとってマイナスのことを男が口にしたときは狙い目。

「ショルダータックル」
ツッコミを入れるときの技の一つ。こちらの肩を相手の肩にぶつけていくことでかなり大きなスキンシップになる。

「ねえねえタッチ」
何か聞きたいことがあったり、お願いするときに「ねえねえ」と相手の注意を喚起させるために肩などをポンポンと叩く。

「ファータッチ」 
遠くにあるメニューなどを取るときに無理やり取ろうとして男の体に触れる。

「どっこいしょタッチ」
座敷席などでトイレに立つ際、「ちょっとゴメンね」と男の肩を支えにして立ち上がる。意外にこれにドキッとする男は多い。また、男の隣に座る際に、男の肩をつかんで横移動させるという「スライドタッチ」も存在する。

「けなしタッチ」
たとえば、腹の筋肉が割れている男がいたとして、その男の腹をうっとりした視線で触るとキャバ嬢タッチとなってしまうが「うわ! お腹が割れててセミみたい!」とけなしながらおさわりすることで、気持ち悪さを払しょくできる。
また、けなしタッチは「筋肉」以外にも、次の部位に対して使うことが多い。

「浮き出た血管」「ぽっちゃり出た腹」「濃すぎる毛」「突き出た喉仏」

「ベイビータッチ」
「けなしタッチ」と同じカテゴリーだが、こちらは「好奇心のあまり、つい触ってしまった」というタッチであり、まさに赤ちゃんがなんでもかんでも触ってしまうことから「ベイビータッチ」と命名された。応用範囲は非常に広いので「面白い部位を見つけたらまず触る」癖をつけておくこと。
 「頭の絶壁」「福耳」「ダメージのありすぎるジーンズ」へのベイビータッチや、服のほつれや取れそうなボタンをタッチする「ミスターミント」。また高等テクニックになるが男の体の傷口や傷跡に触る「ナイチンゲール」は一発で男を落とせる可能性のある大技なのでマスターしておくこと。


「ハンドトゥーハンド」
ベイビータッチの一種であるが、「手、大きいね!」ないしは「手、小さいね!」からの流れで手の大きさを確認する際に、手を広げて相手の手の平を合わすことができる。男と出会ったらまず手の大きさを確認せよ。

「ジョリジョリローリング」
通常であれば「キモタッチ」と「ベイビータッチ」に分類されるタッチだが、この「ジョリジョリ確認」に関してはあえて違うカテゴリーとした。というのもヒゲがジョリジョリしている男や、坊主頭の男に対して「触らせて!」と無邪気に言う女は多く、男には「女はジョリジョリが好きなんだなあ」という認識があるので、ジョリジョリしている部分に対しては比較的無防備になっている。男がジョリジョリしている部分を見つけた場合はすぐさまタッチをし、他の女たちに先を越された場合も、「私も!」とジョリジョリに便乗しておくこと。

「逆サイドタッチ」
人間の体は左右対称になっていることを利用して、たとえば「右腕の筋肉が異常」という流れでタッチした場合、「左腕の筋肉はどうか」と左腕をタッチすることができる。片方をタッチしたら必ず逆サイドを拾うことを忘れるな。

「時刻確認」
腕時計している男の手を握って時計を見て時間を見る。もしこのとき男がブランドモノの時計をしているのであれば、「時計確認」⇒「時計奪取」(後述)のコンボを決めることができる。

「時計奪取」
時計に興味を示し「ちょっと見せて」などと外させた挙句、可能であればそのまま自分の腕につけてしまう高等技。難易度は高いが自然にここまでもっていけると相手との心理的距離を大きく縮めることができる。また「奪取」に関連する技として「帽子奪取」「携帯奪取」「I Pad奪取」「メガネ奪取」がある。

「メガネ奪取」
メガネ奪取はぜひマスターして欲しいタッチである。まず、メガネ男子に対して「メガネ外したらどんな風になるの?」と眼鏡を奪う。ここで眼鏡を外した場合、今度は眼鏡をかけさせるときにタッチする「メガネ掛け」という技に発展するが、さらにここで、メガネ男子がメガネを取られるのを嫌がるケースがある。というのもメガネ男子にとってメガネ無しの顔は女で言うところのスッピンであるからだ。この場合、メガネを取られまいとする男と、メガネを奪おうとするお前との間で「メガネ綱引き」という大技に発展することもあり、この場合メガネを取り合いながらどさくさに紛れて色んな部位に触ることができる。

「誰に買ってもらったの?タッチ」
男の服や時計が良いモノだった場合、「誰に買ってもらったの?」と因縁をつけて触ったり、奪ったりすることができる。古典的な技だが相手の男に対して「女に貢いでもらう魅力ある男」ということを暗に言えるので効果は高い。

「喝タッチ」
ツッコミタッチの一種だが、一人でつまらなそうにしている男や眠くなっている男に対して「起きろ!」などと喝を入れながら叩く手法。誰からもかまってもらえていない寂しさが、女からのタッチによって「かまってもらえている」という安心感を生むので、一発でホレさせることが可能。

「癖直し」
貧乏ゆすりなどの、「子どもの頃注意された癖」を持っている男に対してはタッチによって
矯正していくことで、母親を感じさせながらタッチすることができる。

「ユーレカ!タッチ」
アルキメデスが金の純度の測定法を発見した際に叫んだとされる言葉「ユーレカ!」。つまり「分かった!」ということである。これは昔やられたことがあるのだが、飲み会でクイズみたいなことしているときに、隣にいた女が「分かった!」と叫んで俺の膝をパシッ!と叩いたのである。俺の膝を叩く必要はまったくないにも関わらず、である。つまり、単に勢いで叩かれただけなのだが、かなりドキドキしたのを覚えている。

「腕相撲」
これは、大学時代の先輩の彼女が使っていた技で、正直あまり可愛いくない女の子だったが、めちゃくちゃモテる先輩を射止めていた。その女が使っていた技術なのだが、男に腕相撲を挑む、という技である。「私強いよ」と男に腕相撲を挑みガチで勝負するのだが、負ける。その瞬間がめちゃくちゃ可愛いのである。この腕相撲に限らず、女の方が明らかに能力が劣っている分野においてガチで勝負を挑む行為は非常に可愛いので必ずマスターするように。俺も過去、鉄拳の10連コンボを必死にマスターして俺に挑んできた女にホレたことがある(だが、結果は瞬殺であった。俺は女、子供に容赦しないタイプなのだ)。

「パンツ出てる指摘」
かなりの大技であるが、慣れれば簡単にできる。男が何かを拾おうとしたときなど、服がめくれてズボンからパンツが出ることがあるが、「パンツ出てるし!」と言いながら引っ張るだけで良い。あまりに効果がある技なので、「モテたい」と言いながらこれをやってない女を見ると「この女は一体何をしているのか」と怒りすら覚えるときがある。


「酔拳」
そもそも男が酔った女を好きになるケースが多いのは「酔っている」という事実のもと、普段よりも平気に男の体を触っているからなのだ。酔拳のバリエーションはかなり多様だが「いつまでもネクタイしてんじゃねーよ」などの「ネクタイ引っ張り」や、意味なポロシャツの襟を立てる「シャレオツ化」や「靴下脱がし」などはマスターしておきたい。

「カッケ確認」
酔拳との併用になるが、男の膝が目の前にある場合、とりあえずカッケの部分にチョップを食らわせることでタッチすることができる。

「ユニクロサプライズ」
男の服がユニクロだという話の流れになった場合「え?これユニクロなの? 見えない」と驚きながら服を触るという技。

「生け花ヘア」
まるで生け花のごとく、男の髪の毛に何かを挿し込む技である。店に飾ってある花や、自分のヘアピンで男の髪をとめてもよし、競馬好きの男の耳の上に赤鉛筆を挿し込むこともできる。

「生え際チェック」
男の髪の毛の生え際を確認する。生え際を確認した上で「全然大丈夫じゃん」と言ってあげると男を落とせる。

「既婚チェック」
飲み会などで男が既婚者かどうかを見るために、左手の薬指に指輪のあとがないか、手がむくんでいないかチェックする。かなりキワドイ技だが、男が結婚指輪をはずしてきていることがバレるとかなり動揺するので優位に立つことができる。既婚者を落としたいときに有効。

「天国から地獄」
小学生の時に流行る知識として、肘の裏の皮には神経が通っていないのでつねっても痛くないというものがある。会話の流れから肘の裏の皮をつねることに成功した場合、そこから
「じゃあ、一番神経が通ってる場所って知ってる?」
そして、人体で一番神経が通っていると言われる足の親指の毛を抜くという技である。男としては、一番神経の通ってない場所と一番神経の通っている場所を触られることになるので心が揺さぶられることは間違いない。

「脂取り紙タッチ」
脂取りがみに代表される「物を使ったタッチ」は機能的な行為なのでいやらしくならない自然なタッチになる。男の服に何かこぼれたときなどの「おしぼりタッチ」も同様に有効。

「冷え性アピールタッチ」
「末端冷え性」という本来であれば女性の憎き特性を有効に活用。どれだけ自分の手先が冷えているかを相手にアピールしているように見せてタッチ。「お触り」以上に「か弱さ」アピールにも役立てられる。

「トラップタッチ」
男がトイレに行くときに手や足を出してつまづかせる。このような「イタズラ」は予定調和を崩す上で非常に有効。タッチではないが、何かを渡すと見せかけて渡さない、何かを奪うなどはいつでも自然に繰り出せるようになっておくこと。

「ドクロタッチ」
カジュアルなファッションではドクロが定番になりすぎたのか、ドクロをなんとかしようとウサギ+ドクロやリンゴ+ドクロマークのドクロは「可愛い!」の3文字と共に簡単にタッチすることができる。

「ラコステ餌づけ」
男がラコステのポロシャツを着ている場合、トレードマークの「ワニ」に対して餌付けをするという名目で、野菜スティックをワニの口に刺すという技が可能になる。さらにこの技が優秀なのは、ラコステのマークがだいたい男の乳首の上に来るということである。また同様の方法として「ポロラルフローレンの馬を、野菜ステックのニンジンで突く」という手法もある。

「ギャルソン目つぶし」
コム・デ・ギャルソンのブランドマークの目に目つぶしを食らわすという名目でタッチすることができる。


水野敬也オフィシャルブログ「ウケる日記」Powered by Ameba-ギャルソン目つぶし



 
「焼き鳥の串で米国傭兵の肝試し」
男の手を広げ、指の間に、ナイフに見たてた焼き鳥の串をガンガン刺していくという技である。男の片手を強く握って固定する上に、スリルによって気持ちを揺さぶることができる。



 

第5講まとめ


■ 男はボディタッチをされると「この女、俺に気があるんじゃね?」と勘違いしてその女のことが好きになるという特徴がある。

 
■ キャバ嬢のようないやらしいタッチではなく、自然なボディタッチである「おさわり四十八手」をマスターせよ



それでは、来週の火曜日、この場所で会おう。





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