夏の花が全て白いわけではない。
 だが、気づけば白い花を追い、白い花ばかりを集めている。

 ああ、そうだよ。
 色なんかいつでも着けられる。
 自分の色を選ぶまでは無垢のままでありたい。
 だから白い花が好きなんだと、改めて気づく。

 白花百花。
 びゃっかひゃっか。
 涼やかな白の方に濁点がつくのはおかしくないか、と軽口を叩きながら。
 咲き乱れる木々の白花を撮って歩く。





(アメリカイワナンテン)


 突然手向けられた白い花房にひどく驚いたことは覚えている。
 君の顔は全く覚えていないのに。





(オオデマリ)


 白い花だけで花束を作るのは寂しいわ。
 貴女は繰り言をこぼしたが、そういう貴女は透けるように白かった。





(アリドオシ)


 本当は白いのだと力説する君を見て、思わず苦笑してしまう。
 日陰にあれば、どんな白も白ではいられないのに。僕も君も。





(テイカカズラ)


 風を集め、撚り合わせて白い糸を紡ごうとする。
 だが集めた風は撚ろうとした端からほつれ、色を解き放ってゆく。白い記憶だけをかすかに残して。





(ツブラジイ)


 小さな花でも千万億と集まれば存在を主張する。
 だが白い花のわずかな濁りも、千万億と集まれば白を損ねるのだ。白でなくなるほどに。





(エゴノキ)


 ささやかな宝を隠そうとして白いケープを纏うが、その白さがあまりに鮮やかで、宝は逆に誇示される。
 やがて身ごもり、全ての白を潔く脱ぎ去るまで。





(ハクチョウゲ)


 陽に浮き、陽に沈む白。これからほころぶ花、これから散る花。様々に移ろいつつ白は静かにさざめく。
 変わらぬ姿を保つと嘯(うそぶき)きながら。





(キョウチクトウ)


 全ての毒が昇華されて白く凝った。花を口にしない限り、澄んだ白を心ゆくまで堪能できる。そう、口にしない限りは。
 白の誘惑に負ければ、それは猛毒に転ずる。





(トチノキ)


 白い花の塔を、錫杖のように揺らす。
 もちろん音は鳴らない。その代わり訪花する虫たちが羽音で色を装飾する。ほんのひとときではあるけれど。




  純白のシーツを広げ、花に見立てる





White Flowers by Depapepe


《 ぽ ち 》
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