読書ノートの265回めは、戌井昭人さんの『まずいスープ』(2009年発表。文庫版は新潮文庫)です。
戌井さんは劇団の座長さんでパフォーマー。脚本も書き、小説も……ということで、とても多彩な方のようです。わたしは本作が初読みです。
あらすじ、と言っても短編集なのでさっくりと。
『まずいスープ』『どんぶり』『鮒のためいき』という三つの短編からなり、短編はそれぞれ独立しています。
まずいスープ。とんでもなくまずいスープを残して突然失踪してしまった父親の行方を息子が追う話。
どんぶり。男が競輪で大穴を当ててしまい、同棲している彼女に天丼を食わせる話。
鮒のためいき。風邪っぴきのダルな奥さんが変な事件に巻き込まれる話。
感想を。まあ……なんと申しましょうか。ええ。
筋なんざ、あってなきが如し。とにかく、ベタ。
感情も出来事も情景も細切れで、すっかりとっ散らかっていて。そのとっ散らかった様で情景を描いてみせる……というか。何もかもごっちゃ混ぜにしてべろーんと道沿いに並べて、それを端から順番に見て歩くみたいな。
いや、そうとしか言いようがないんです。
すごく突拍子もない話なんですが、そこにはスケール感や突き抜け感がありません。あくまでも、ベタ。
日常と言っても、我々の日常とはかなりかけ離れています。それを日常だと言い張られてもなあというザンネンな感覚はありつつも。やっぱり、ベタ。
都会の斜め下で、底の擦り切れたビーサンつっかけて濡れたアスファルトの上をずーるずーる歩くような、かったるさと開き直りを漂わせるベタさ。
おもしろいかおもしろくないかと聞かれれば、まあまあおもしろいんですが。
あまりにベタすぎて、だからなによで終わってしまうところが、やっぱりベタ。
ちゅうことで。ダウンタウンアート系小説はわたしにはベタすぎました。
べたべたになったので、ちょっとシャワー浴びてきます。(笑
テクニカルなところを。三人称に極めて近い一人称なんですが、主人公が揃ってザンネンな感じなので、一人称にしては引きが弱いんです。その分俯瞰になってしまうので、主人公と同化できるベタなタイプの読者じゃないと楽しめないでしょう。少なくとも、わかりやすいエンタメではありません。
修辞もベタ。描き出される情景や使われるモチーフは結構おもしろいんですが、一人称的な書き方だと主人公の格に合わせないとならないので、どう書いてもベタになってしまうんです。そこがちょっと物足りない感じでした。
閑話休題。
実は、川上弘美さんの『蛇を踏む』、藤原伊織さんの『ダックスフントのワープ』、そして本作をまとめて、奇書としてご紹介しようと目論んでいたんですが。突拍子もないところは共通であっても、空気感がまるっきり違います。
ファンタジー的なニュアンスが濃い川上さん、シニカルで悲劇的な藤原さんに比べ、戌井さんの本作は下町パンピー的でベタ。それらを奇書というくくりでまとめるのはやはり無理があったなあと強く思ったのでした。(笑
◇ ◇ ◇
基本的にベタなお話は好きなんですが、さすがに本書はベタ過ぎたなあと。ええ。
さて、読了本の追加です。
西澤保彦さんの『あの日の恋をかなえるために僕は過去を旅する』。電子本読了。いわゆるタイミリープものですが、そこに過去の清算とLGBTを絡めています。フクザツ……。
近藤史恵さんの『岩窟姫』。電子本読了。忙しく活動していたアイドル少女の親友が突然飛び降り死してしまい、いつの間にかそれが自分のせいにされている! ……から始まるサスペンス。見事な心理劇でした。
浅倉秋成さんの『フラッガーの方程式』。電子本読了。タイトルに騙されますね。とことんどたばたに徹底したコメディです。アニメやマンガのテンプレものが好きな人にはツボだろうなあ。強烈なひねりが入ってますが。
さとうさくらさんの『スイッチ』。主人公の女性が生きづらさを抱えたネガティブに設定されているので、かなり特殊な恋愛ストーリーになっています。恋愛ものというよりビルドアップに近いかも。
次回の読書ノートは、西澤保彦さんの『あの日の恋をかなえるために僕は過去を旅する』です。
Better by Ananya Birla
え? ベタでしょ? 違う?
《 ぽ ち 》
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