読書ノートの257回めは、綾瀬あいりさんの『セーデルホルムの魔女の家』(2023年発表。文庫版は一二三文庫)です。出たてほやほやですね。電子本での読書。

 綾瀬さんは、本作がデビュー作の作家さん。見るからにファンタジー系なので、ファンタジー好きなわたしは、最初から評価が甘くなっちゃうなあ。まあ、それは置いといて、ひあういごー!





 あらすじ。腕利きのメイドとしてあちこちのお屋敷を転々としている二十四歳のメルヴィは、こたびセイデルホルムにある傷痍軍人アダム・スペンサー(二十九歳・独身)の屋敷で働くことになりました。
 アダムは気難しそうな男なんですが、それに輪をかけて感情が安定せず尖りまくりのケイトリンという七歳の少女が屋敷にいて、アダムも屋敷のスタッフも手を焼いていました。ケイトリンはアダムの実子ではなく、親友の忘れ形見。それでなくとも対人関係だめだめのアダムは、ケイトリンの相手が全くできず困り果てていたのです。
 ところが。メルヴィはあっという間にケイトリンを手なずけてしまいました。ケイトリン、あなたに見えているもの……妖精は本当にいるのよ、と。

 ……から始まる物語。




(プリムラ・ポリアンサ)



 感想を。
 もう、ね。ど真ん中直球のファンタジーなんです。魔女、妖精、読心、中世風、軍人、神話……。鉄板の要素をぜえんぶぶちこんで、力技で話を編むと言うスタイルは、以前ご紹介した白鷺あおいさんの『ぬばたまおろち、しらたまおろち』シリーズに通ずるものがあります。
 ただ本作に関して言えば、もうちょい保守本流寄りかな。魔女とタイトルにあるのに魔法要素がないので若干控えめですが、どっぷりの妖精譚ですから。

 以前も書いたと思うんですが、ファンタジーは絵空事の最たるものです。リアリティを求める人は最初から読まない方が精神衛生上よろしいでしょう。ファンタジージャンルは、著者が提示する世界観にどこまでどっぷり浸れるかで評価が定まるんじゃないかな。わたしは常々そう思ってます。

 で、確かに王道ではあるんですが。じゃあ、すごく良かったーと手放しで高評価できるかというと、そこはちょっと……。(^^;;

 なぜか。キャラはとても魅力的なのに、動かし方がぎごちないように感じたからです。メルヴィもアダムも鉄板なので、そこはおっけー。でも、最初にすごくメインキャラ感を出していたケイトリンが後半埋没してしまうのはちょっとなあ。モチーフを詰め込みすぎて、尺の中でうまく消化しきれていないように思うんです。

 明るく屈託のないメルヴィが実は傷ついた心を慎重に隠していること。それが無骨ながら誠実なアダムとの心のやり取りで変化し、恋愛に結びつくのはわかるんです。でも、前・中盤にケイトリンを使って物語の背景説明をこなしながら流れを作ったのが逆に仇になったような。アダムとメルヴィの絡みに文量を割き切れず、ケイトリンを脇にどかして後半しゃにむに二人をくっつけようとした……そういう印象になっちゃいました。恋愛ファンタジーとしては生煮え感が強いんです。

 構成にもおやあという部分があります。本編以降の四つの短編が、過去と世界観の説明に費やされたのはちょっと……。タイトルに『魔女の家』と入っているのに、肝心の魔女が短編にしか出て来ませんし。お遊び要素のスピンオフならともかく物語の骨格部分に関わるお話ですから、もう少し章立てを慎重に練った方がよかったかも。

 ただ、変則になってしまった原因はなんとなくわかります。尺が決まっているコンテストに応募するためなのか、かなりざっくりした書き方になっているからかなあと。つかみを評価してもらえれば話を書き継ぐか全面改稿し、足りないパーツを補充して整備するつもりだった……そんな風に感じました。

 ともあれ、醸成不足を差し引いても世界観はしっくり来ました。このシリーズをもう少し推し進めるのか、本作の上梓をきっかけに、全く違った世界観の構築に取り組むのかはまだわかりませんが、次作もがんばってほしいなあと思いました。




(プリムラ・マラコイデス)



 テクニカルなところを。
 本編プラス短編四つの構成。感想のところでも書きましたが、文量的にはおまけ感のある短編が実は重要なので、本編とのバランスはあまりよろしくありません。回想のような形で、全部本編に組み入れてしまった方がよかったんじゃないかな。

 三人称記載ですが、主な視点は主人公であるメルヴィとアダムに据えられています。視点がふらつかないので、とても読みやすいです。
 何度も書きますが、新奇性はないもののベースがしっかりしている世界観にはとてもシンクロしやすかったです。修辞はやや浅めですが、読者対象はおそらくミドルティーンでしょうからぴったりかな。

 キャラメイキングはとても優秀だと思います。メルヴィ、アダム、ケイトリンの主要な三人はきっちり造形できていましたし、いずれも魅力的。
 三人に絡む若い医師ユエル、メルヴィの兄コルト、常識人で頼りになる執事のポール。メルヴィとコルトの母代わりになった魔女ロサ。そして各種登場する妖精たち。いずれも丁寧に描かれていて、サブキャラにもしっかり愛情が注がれていることがよくわかります。サブキャラのおいしい作品にハズレなし……わたしの経験則ですが、本作にもぴったりあてはまりました。

◇ ◇ ◇

 うーん、やっぱりファンタジー系にはどうしても甘くなっちゃいますね。こなれていない部分がまだまだあるように感じますが、こういうのを書きたいという意図がはっきりしている作品には没頭しやすいんです。
 悪役令嬢ものとかいじめられ女の逆転劇とかのテンプレを追っかけていないところは好感度大。あとは使われているモチーフにもうちょいオリジナリティが加われば、より世界観が魅力的になると思いました。次作が楽しみです。
 ちなみにわたしがもっとも好きなメイドものは、牛島慶子さんの『フレッドウォード氏のアヒル』です。(^m^)


 次回の読書ノートは、瀧羽麻子さんの『虹に座る』です。




Wake The Witch by Karliene


《 ぽ ち 》
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