読書ノートの255回めは、小路幸也さんの『ホームタウン』(2005年発表。文庫版は幻冬社文庫)です。電子本での読書。小路さんの比較的初期の作品ですね。

 小路さんについてはこれまで何度も取り上げているので、略歴等の紹介は割愛します。いわゆる人情ものの他に、ミステリー要素を組み入れた作品をよく手がけられています。
 本作はヒューマンドラマの延長線上にありながら、どちらかと言えばミステリーをがっつり盛った作品でした。





 あらすじ。札幌にある三国屋という百貨店の特別室に勤務している行島征人という二十代後半の男が主人公。征人の仕事は一種の調査業で、デパート内部の査察に携わっています。いわゆる社内Gメンですね。一人部署ですが、肩書は部長同等で強い調査権限が与えられています。当たり前ですが、社内では怖い存在で煙たがられています。
 征人はかつて自分の調査が元で自殺した夫婦の母親と娘が住んでいる家に下宿していて、彼らに強い負い目を感じています。そんな征人のたった一人の身内が妹の木実(キミ)。同じ札幌に住んでいながら五年も会っていませんでした。
 ある日、妹の木実から婚約を知らせる手紙が届き、征人は恩人であるカクさん(上司で、七十代後半の謎の老人)と喜びを分かち合うんですが、その直後に事件が。木実と同居している浅川という女性が、木実が突然家を出ていなくなったと電話してきたんです。何も持ち出さず、まさに身一つで家を出た木実の足取りが掴めず焦る征人でしたが、婚約者の青山も姿を消したことを知って事件性を感じ取り、独自に調査に乗り出すことに……というお話。




(ジュウガツザクラ)



 感想を。
 悲劇を幾重にも重ね合わせた構造なのに、最後はちゃんと暖かい大団円に持って行くあたり、さすがは小路さんだなあと。ただ、ちょっと主人公に感情移入しにくい部分があって、手放しでは持ち上げにくいです。
 両親が極端な不仲で殺し合いの末に共倒れし、そのとばっちりを受けてカクさんに育てられることになった兄妹。暗い過去のバイアスがかかったまま成長したため、歪みが仕事やパートナー探しに影響するという流れはよくわかります。ただ、木実はともかく征人の性格形成がどうにも腑に落ちないんです。もともと我慢してしまう性格に、さらに輪をかけてどうすんだ、と。仕事の中身もそうですし。そこらへんの設定のいびつさが、活劇なのに底流がひんやりという奇妙な違和感を生んでいる感じで、すっきりしませんでした。

 妹の幸せを応援しようというアクションが行動の源になっているので、そこは紛れもなくストレートなんですが、表現型がひんやりなんですよ。ミステリーのスリル感醸成にはものすごく効いていますが、ヒューマンドラマとして見た場合にはノイズになってしまう。トーンの異なる話を二つ、無理にくっつけたような不整合が読み進む速度の足を度々引っ張りました。
 だから、最後のオチが今ひとつすっきりしなかったんです。発散した話のかけらを集めてばあちゃんちに全部掃き寄せたみたいな……。うーん、そこがなあ。

 ミステリーとしても、面白いのは確かながら要素を詰め込みすぎたように思います。ミステリーは簡素化して、ヒューマンドラマとしての側面をもうちょいしっかり煮詰めて欲しかったなあと。
 同じ路線なら東京カウガールの方が、恋愛メインだったし読後感がよかったです。

 文句をぶちまかしましたが、小路さんの書かれる作品には大外れってのがありません。わたし個人の期待値をやや下回っただけで、水準は上抜けていると思います。まあ、読んでみてくださいという感じかな。




(サザンカ)



 テクニカルなところを。
 主人公征人の一人称。この手の書き方はわたし的にはツボなので、もうちょい征人の熱量が高ければもっと好意的な読書評を書いたと思います。一人称の欠点は、主人公のエネルギーが乏しいと冷たくなること。その弊害が出ちゃったなあと思いました。

 修辞は過不足なし。小路さんは手慣れているので安心して読めますね。札幌と旭川の地理情報がしっかり盛り込まれていますので、旭川で生まれ育ち、札幌で学生時代を過ごしたわたしには説明なしで絵が浮かびます。懐かしかったなー。その分、ちょっと評価が甘めかも。(笑

 あと、主人公の熱が足りない分、周辺人物の熱量が高めになっていて、補佐役のカクさん、下宿先のお婆さんと娘、征人がバイトしていた店のご主人やその関係者など、総じていい味を出してました。サブキャラがおいしい作品には、大外れってのがないんですよ。そのあたりはさすがだなあと。

 ミステリー部分の作り込みはセオリー通りだと思うんですが、伏線回収がちょっと強引だったかなあ。その分が後半のどたばた感を加速させちゃった感じがしました。まあ……本格ミステリーではなくヒューマンドラマだからね。あまり深くつっこまないのはお約束ということで。(^^;;

◇ ◇ ◇

 小路さんの作品を読み慣れている人にとっては、その安心の枠内に収まる好作だと思います。ただ、ミステリー要素とのバランスが決して良くないので、そこは割り引いて読んだ方が楽しめるかもしれません。


 次回の読書ノートは、額賀澪さんの『カナコと加奈子のやり直し』です。




Half Of My Hometown by Kelsea Ballerini


《 ぽ ち 》
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