とりあえず、実るところまでは行った。
 あとは熟すのを待つだけだ。

 今はまだ青いけれど、完熟まであと1マイル。





(ニオイシュロラン)


「そいつは果実か?」
「そうだよ」

「うまそうじゃないな」
「食えるところなんかないよ」

「試食は?」
「してもいいけど、まだ熟してないよ」

「いつ熟すんだ?」
「来年の今頃」





(カクレミノ)


「果実というより、手榴弾だな」
「爆発はしないよ。熟したあと、ぽろぽろ落ちるだけさ」

「落ちたらどうなるんだ?」
「さあ。拾い食いするやつはあまりいないみたいだ」

「じゃあ、みんな揃っている青い今が全盛期ってことだな」
「青いうちは見向きもされないよ。熟してからが本番さ」

「熟したら美味くなるのか?」
「まずい」





(ムクノキ)


「おいしそうだな」
「熟せばね」

「意外に大きいじゃないか」
「エノキよりはな」

「人気あるんだろ?」
「エノキほどじゃない」

「エノキの方が味がいいのか」
「いや俺の方が上だ。ただ、俺はでかいから鳥がなかなか丸呑みできないんだよ」





(ヤブニッケイ)


「実がなるとは知らなかった」
「俺だって知らなかったよ。オスだと思ってたから」

「熟すとどうなるんだ?」
「黒くなる」

「黒くなると味がよくなるのか」
「ならないなあ。油っぽくはなるけど」

「油を売るしかなくなるわけだな」
「絞られるのは嫌だ。想像すると脂汗が出てくる」





(ヘクソカズラ)


「臭いな」
「余計なお世話だ」

「青いうちが一番臭い」
「食われたくないからな」

「熟すと臭くなくなるのか」
「食われたいからな」

「それでも美味しくはない、と」
「どっちにしてもあんたらは食わんだろ」





(ネズミモチ)


「子供のうちからかわいくない」
「かわいくても得することないもん」

「やたらに徒党を組むし」
「数で勝負だよ」

「熟したらえらいことになりそうだ」
「任せとけ。増え放題だ」

「青いうちに切り捨てておくか……」
「あんたの体力の方が先に尽きるって」





(シャシャンボ)


「花数の割には寂しいなあ」
「いっぱい生り過ぎたら母体に負担がかかるんだよ」

「硬そうだし」
「硬くて酸っぱいよ」

「熟すとうまいんだろ」
「もちろんだ。ブルーベリーだからな」

「楽しみだ……」
「鳥が食べ残してくれればいいけどな」





 誰もが青春時代は大事だというくせに。
 俺らが青いうちは誰も見てくれない。

 まあ、いいさ。
 着果したという事実があれば、それでいい。
 熟すまで、あと1マイルだし。




  モデルにはなれど食はれぬ青林檎





A Bowl Of Unripe Fruit by Matilda Lyn


《 ぽ ち 》
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