季節画像消化のための臨時増刊です。(^^)

◇ ◇ ◇


 赤や黄色に色づくものに比べ、黒く熟す果実は地味だ。
 黒ぶどうやブルーベリーなど少数の果物を除けば、黒い果実が食卓に上ることはあまり多くないと思う。

 だが目を野外に移すと、意外に黒い果実が多いことに気づく。ざっと目につくものを数えるだけで、秋から冬にかけて黒果を実らせる草木が十指では足りないほど存在するのだ。

 イヌホオズキ類、ヨウシュヤマゴボウ、ヤブラン、ヤブミョウガ、ヤブガラシ、アオツヅラフジ、イヌツゲ、ヒサカキ、ユズリハ、ネズ、サカキ、イボタノキ、トウネズミモチ、クスノキ……。枚挙にいとまがない。

 風景の中に埋没してしまう目立たない黒い果実を、一体誰が探し出すのだろう。思わず首を傾げてしまうが、それらは例外なく鳥に食される。
 わたしたちが惹かれる果実の色と、鳥たちが惹かれる果実の色は根本的に異なるのかもしれない。






 イヌホオズキ
 どこにでも生えている雑草だが、どこにでも生えるのはタネをせっせとばらまく連中がいるからだ。決して鳥に人気がある果実ではないと思うが、えさが少なくなってくる時期には手を出さざるを得ないのだろう。

 おいしそうに見えるが、生臭くてまずい。また、在来種、外来種を含め野生化しているイヌホオズキは全て有毒なので、口にしない方がいい。
 もちろん、庭にも入れない方がいい。のさばり方は控えめでも、厄介な害虫のニジュウヤホシテントウを呼び込んでしまうので、家庭菜園が激害を受ける恐れがある。






 ヤブガラシ
 つる性雑草の中でもおそらく最強かつ最凶であろう。多年生草本というより木本に近く、一度根付くと刈っても刈ってもしつこく生えてくる。うっかり目を離すと、とんでもなく繁茂して辺り一面を覆い尽くしてしまう。厄介なことこの上ない。ただ、小坊主みたいな黒い果実は愛嬌があってかわいいと思う。

 ちなみに、ブドウ科でありながら果実の味はよくないようで、鳥ぐらいしか手を出さない。それ以前に、ヤブガラシには三倍体のものが多く、それらは結実すらしない。






 アオツヅラフジ
 今年は成り年だったようで、ミニブドウのような見かけのおいしそうな果房をそこここで見かけた。これで本当に味が良ければいうことなしだが、不味い上に有毒なので実には使い道がない。
 ヤブガラシほど茂り方が凶暴ではないので茎が太く木化するまで育て、それを刈ってリースを編む材料に使っている。剛性はあっても折れやすいノブドウやフジ類と違い、太いつるでもしなやかなので重宝する。

 黒い実の中には、アンモナイトそっくりの種子が入っている。実を見かけたら、確かめてみてはいかが?






 ヤブラン
 この草自体が草葉の陰になるのに、さらに実は黒くて地味だ。これで見つけてもらえるのだろうかと思うが、黒い実はいつの間にか全てなくなる。空に在るものにではなく、地を歩くものの視界にアピールしているのかもしれない。

 でも、この黒い実は本当は果実ではない。黒くて丸いタネなのだ。果肉がないので騙されて食った鳥や動物には気の毒だが、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれというタネの肉弾戦略をほめるべきだろう。

◇ ◇ ◇

 今はまだどこででも見かけることのできる黒い実は、寒さが厳しくなるにつれて少しずつ減っていく。色の乏しい霜枯れの野ならば、鳥も黒い実を探しやすくなるのだろうか。




  過去から何も学ばぬ者が 史実を黒く塗り潰す
   その欺瞞を専ら食らふ紙魚がゐて 英雄史を嘲笑ふ






Let Me Down Easy by Blackberry Smoke ft. Amanda Shires


《 ぽ ち 》
 ええやんかーと思われた方は、どうぞひとぽちお願いいたしまする。(^^)/


にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ
にほんブログ村