読書ノートの198回めは、市川哲也さんの『屋上の名探偵』(2017年発表。創元推理文庫)です。電子本での読書。

 市川さんは2013年に『名探偵の証明』でデビューされた、まだお若い方ですね。その作品の登場人物である蜜柑花子の学生時代を、YA向けにミステリーとして別途編んだのが本作ということになりますね。





 あらすじ。主人公は高二の中葉悠介。極度のシスコンで、姉の詩織里(しおり)命の不健全な男の子です。(笑

 まあ……お姉さんは成績優秀、スポーツ万能、性格めっちゃいいと三拍子揃ってますからねえ。中葉家の希望の星といったところでしょう。主人公の悠介もそう劣ってはいないと思うんですが、なにせ判断基準が姉ですから……。

 ところがある日。悠介は姉のスク水が盗まれたという衝撃事実を知り、奪還を目指して奮闘するものの捜査は難航。犯行に及びそうな者にはアリバイがあり、しかも犯人が忽然と消えるというトリックをどうしても見破れず、転校生の蜜柑花子に強引に協力を依頼することになります。

 悠介が頼った蜜柑花子ですが。転校前の学校で高度な推理を披露していたものの、それがあだとなってみんなに煙たがられてしまい、同じ轍を踏みたくないとひっそり孤立を保っていたのでした。昼休みには、いつも屋上で一人ぽそぽそご飯を食べていたんです。

 三つ編み、黒眼鏡、童顔の花子に、ずうずうしいくらい強引に捜査協力を依頼する悠介。姉が神の悠介にとっては、名探偵の花子ですらその他大勢の一人に過ぎません。花子がホームズ、悠介がワトソンみたいな組み合わせで現場検証を進める二人でしたが……というお話。




(アベリア 紅花)



 感想を。
 決してちゃちなミステリーではなく、きちんとロジックを立てて推理を詰めていく本格的な話です。でも、悠介のシスコンキャラがこれでもかとぶっ飛んでいて、そこで何もかもがねじ曲がってしまいます。(笑

 軽いトーンではあるものの、いわゆるお笑い系のスラップスティックでは決してないんですよ。まともなミステリーのはずなんですが、悠介ひとりでおいしいところを全部持って行ってしまいます。裏主人公の花子が霞んじゃうんですよ。(^^;;

 ライトミステリー、プチミステリーのジャンルは好物なので、本作も楽しく読ませていただきましたが、正直言って悠介がうざい。ほんまにうざい。こいつを被害者にして一話作ったら、結構溜飲を下げる読者がいるんじゃないかと思ってしまうくらい、う・ざ・い。(笑
 悠介に余計な意識を持って行かれて、推理がちっとも頭に入らんかったというのが正直なところです。ええ。

 逆に言えば、どたばた系の学園ドラマと割り切るとものすごーく楽しく読めます。花子のおどおどびびりキャラと、シスコンすぎて女の子心理が全然読めない鈍の悠介の掛け合いだけでも十分おもしろいので。




(アベリア 白花)



 テクニカルなところを。悠介一人称ですが、その悠介がシスコン過ぎて壊れていますので、コミカルな描写に終始します。
 高校生が読むにはちょっと物足りないかなあというくらい砕けた書き振りなので、さくさくっと読めますね。

 文体や修辞はこんなものかなあという感じで可もなく不可もなしだったんですが、悠介の意識がものすごく浅いところに固定されたままなので、小説というよりギャグマンガを読んでいるような感覚になります。
 読後になにか残るかと聞かれたら、ちょっと辛いかな。ぶっちゃけ、花子や悠介の特殊なキャラしか印象に残らないです。自立でも友情でも恋愛でもいいので、もうちょいベタなテーマを一つ盛り込んでおくと、深みが出たかなあと思いました。

 なお、本作の続編として『放課後の名探偵』が上梓されています。

◇ ◇ ◇

 楽しいんですが、たとえば加納朋子さんの『ぐるぐる猿と歌う鳥』なんかと比べると、うーん……という感じになっちゃいますね。
 個人的には物足りなさが残りました。


 次回の読書ノートは、はやみねかおるさんの『僕と先輩のマジカル・ライフ』、美輪和音さんの『ゴーストフォビア』です。





Rooftop by Clara Mae


《 ぽ ち 》
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