そういえば。この夏は花火を一度も見なかったなと。ふと思い返した。



(ハナニガナ)





 雲に遮られることのない夏の夜空は何度も見上げたが、それが華やかな花火で彩られたことはなかった。都市光害でもやりと塗り潰された夜の鍋底に、私が佇んでいただけだ。



(ヘクソカズラ)





 花火を見たくないわけではない。
 自宅の窓から遠花火が目に入れば、ベランダに出てうたかたの光花(こうか)をしばし楽しむくらいの拘りはある。



(チェリーセージ)





 だが、花火は記憶に残らない。それがどうにも気に入らないのだ。
 美しい花火を見たという記憶は残っても、どのような花火だったかを思い出すことはない。誓って言う。ない。



(ドクダミ)





 一瞬光ってすぐに消える。
 花火がそのような性質を持つということを重々承知していても、一瞬の存在に過ぎないことを受け入れたくはない。ましてや、自分自身を花火なぞに例えられたくはない。絶対に、だ。



(コンボルブルス)





 花火は記憶に残らない。
 花火を記憶に遺さない。
 そんなことをふと考え込んだ、暗い夏の夜が続いたことを。その記憶を。

 どこかにとどめておこうと思う。



(スイセンノウ)




  散る火の粉そのままにしておみなへし





Fireworks by First Aid Kit


《 ぽ ち 》
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