「にじみ出るっていうのはいいよなあ」
「そう?」
「教養とか、色気とかさ」
「隠しても自ずと匂い立つっていう感じね」
「なんつーか、上品な感じがするんだ」
「それはわかるけど」
「うん?」
「あんたからどうしようもなくにじみ出てるのは、エロっ気ね。うんざり」



(^^;;



 「にじみ出る」は、能動的なプロセスではありません。自ずと「出てしまう」わけで。そこに作為が入ると「にじみ出る」とは言えなくなりますね。(笑

 ということで、にじみ出ているものを二つご紹介します。まずおなじみの方から。






 なんだかわかりますか? 珍しいものではありません。

 これは、松脂(まつやに)。アカマツの幹から吹き出ているものを撮ってみました。
 現時点ではまだ柔らかさを保っていますが、そのうち固化してかちかちになります。独特の樹脂臭があり、手につけるとねばねばします。成分は油なので、火をつけると煤を吹き上げながら燃えます。

 現生の植物が生産する揮発性油脂ですから、効率よく油が取れればバイオエネルギーとして使えるはずですが、育成や採取にかかるエネルギーが燃料のカロリーを上回ってしまうため、顧みられることはないようです。

 松に限らずですが、針葉樹が漏出する樹脂は香料、滑り止め、固定剤など様々な用途で使われます。男性用整髪料に使われるバルサム。野球などで使われるロジンバッグ。バイオリンの弓に塗るロジンなどはお馴染みでしょう。
 今はポリマー系素材にかなり置き換わりましたが、永久プレパラート用の封入剤もかつてはレジン(カナダバルサム)が主流でした。
 極めて分解しにくい物質なので、土中に入ったものが石化して宝石になることがあります。琥珀ですね。(^^)

 松にとって、樹脂の漏出はなくてはならない大切なもの。幹についた傷から病虫害が侵入、蔓延するのを防ぐ大事な役割を果たしています。裏返せば、松脂のにじみ出ているところは傷がついているということですね。
 画像のも、おそらくカミキリムシが穿孔した場所じゃないかと。






 こちらは逆に、ほとんどみなさんにはなじみのない漏出物になります。なんだかおわかりになりますか?
 先ほどの松脂に似ていますが、もっと硬い感じ。実際に、とても硬いんです。松脂と違って、特有の匂いなどはありません。手にベタつくこともありません。本当に石のようです。

 これ、フサアカシアの幹から滲出した樹脂。アカシア樹脂といいます。一番良く知られているのがアラビアゴムですね。ゴムという言葉がついていますが、ゴムの成分(イソプレン類)は全く含まれていません。
 実は。わたしたちは日常的にこれを口にしています。食べているんですよ。(^m^)

 アカシアが滲出させる樹脂状物質の主成分は、松脂がそのまま油だったのとは違い、水溶性の多糖類です。かちかちの石のように見えますが、細かく砕いて水に入れるとあっさり溶けるんです。
 アラビアゴムが溶けこんだ水は粘っこくなり、水溶液中の物質の沈殿や偏りを防ぐ効果があります。乳化剤、安定剤としておなじみなんです。

 食品以外にも、絵の具の乗りを良くする展着剤、製薬添加物、糊料としても広く使われています。切手の裏の糊にも使われていますね。

 樹脂の役割は松脂と同じでしょう。傷がついた部分から雑菌や害虫が侵入するのを防ぐ蓋の役割を果たしているものと思われます。







 二種類の樹脂を並べてみました。左が松脂、右がアカシア樹脂です。見た目はそっくりなんですよね。でも手に取って触ってみると、すぐに違いがわかります。
 硬いように見えて手で簡単に砕けるほど脆く、破片がフレーク状になるのが松脂。石のように硬くて金槌で砕かないと破片が得られないのがアカシア樹脂です。

 松脂はほとんど水に溶けません。逆にアカシア樹脂は水によく溶けます。加熱に対する反応も違います。松脂は油ですからあっさり引火して燃えますが、アカシア樹脂はなかなか火が着きません。ぶっちゃけ、飴とかカラメルですからねえ。(^^;;

 ただ、どちらも自己防衛のために滲出する物質です。ウルシが産生する樹液(漆液)やゴムノキ、パラゴムノキが産生する天然ゴムも同じでしょう。
 植物には植物なりの自己防衛システムがちゃんとあるんだなあと。二種類の樹脂は、それを改めて教えてくれるのです。




  にじみ出る知性がなぜかやまいだれ

無季句。(笑





Tears On The Tree by Doros

 ギリシャのグループかな。こういう民族音楽色の強いものは大好物です。


《 ぽ ち 》
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