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第三部 最終話 真実とへっぽこ  あとがき



 最終話はいかがでしたか?

 本作が一大スペクタクル物語ならばラストをこれでもかと盛り上げるところですが、なにせ特売チラシチェックを趣味にしている貧乏探偵の話ですから盛りようがないんです。どうにも地味で辛気臭いエンディングになってしまいました。申し訳ありませんねえ。

 ただ、本作は謎解きメインのいわゆる探偵物語ではありません。謎解き要素がいくらかあっても、それをお楽しみいただく構成にはなっていないんです。あくまでも、いろいろなコンプレクスや負い目を抱えたおっさんのじたばたぶりを見ていただくのが趣旨。なので、そのじたばたを最後まで引きずってもらいました。

 逆城さんという老人の悲しいエピソードは、クリスマス絡みの大団円にはそぐわなかったかもしれません。しかし、クリスマスで浮かれてなんかいられないという切羽詰まった立場の方はいつでもおられますし、そういう人たちにめでたいクリスマスだからおまえは我慢していろというのも酷な話です。
 孤独の辛酸を舐めていながら、喉元を過ぎるとその恐ろしさを忘れる……みさちゃんの自戒はわたしたちにも共通なんじゃないかなと。

 真実が必ずしも一つとは限らないという逆説は、提言になりましたね。みさちゃんの唱えた真実論は、実は既出なんです。第二部のフレディ編ラスト(第十四話トゥルース)ですでに開陳しているんですよ。でも第二部の時点ではみさちゃんの個人印象止まりで、大勢の人に問題提起するところまでは煮詰まっていませんでした。その心象が、逆城さんの案件を通して信念に変わったんです。

 心の問題には正解も誤答もない。そこに真実を追い求めすぎると生き方が狭苦しくなる。真実という言葉の字面やイメージに騙されないで欲しい。
 フレディが絶句していたように、真実探求を旨とする探偵がそんなことを言うべきではないのかもしれません。でもみさちゃんは、真っ当でありたいと思い詰めるあまり原則論に陥りがちになり、それがすぐどやしに直結してしまうんです。どうしても自分のようになって欲しくないという強い思いがあったのでしょう。

 逆城さんの件でどっぷり落ち込んでしまったみさちゃんですが、関わった案件を百パーセント解決するということはみさちゃんだけでなく誰にもできません。それならばどうすればいいのか。依頼人にとってのベターを探り続けるとともに、自らの生き方をいつも点検、修理するしかありません。
 その考えをもとに、「出来損ないならあがくしかない、最後まで解を探すことを諦めない」という自己確認の決意をこの物語のゴールに設定しました。

 生き方に芯が通り切っていないへっぽこ探偵の方が、きっと読者のみなさんに愛してもらえる。わたしの拙い筆致でみさちゃんのあがきをうまく書き切れたかどうかは極めて怪しいんですが、わたしとしては納得のいくエンディングに仕上がったと思っています。

◇ ◇ ◇

 第三部全体を振り返って、さらっと総括しておきます。

 第三部は、一貫してリスタートをテーマに展開してまいりました。第一部で子供ができたみさちゃんとひろは、どこかでこれまでのライフスタイルを見直さなければならなかったわけで、リスタートが最も必要なのはみさちゃん自身なんです。

 意識が、新しい自分を作るというところにずっと置かれていますので、小林さんや佐伯さんに対して偉そうにしようがありません。夏ちゃんや今野さん、鬼沢さんに対してもそうですね。
 自分と同じように変化をこなさなければならない状況に追い込まれた人たちと共同戦線を張る。リスタートを自分一人で抱え込まず、人にも抱え込ませない。それが第三部全体を通してのベーストーンになっています。

 これまでに築き上げた人脈を、顧客確保につなげる以前に協業に持っていきたい。小林さんや夏ちゃんの雇用はその意識からもたらされたものですし、最後に登場した鬼沢さんとの協業もそうですね。

 みさちゃんがどんなに良い人であっても、それだけで人脈が出来上がるわけでも活かせるわけでもありません。みさちゃんが関係者を「自分自身に」結びつけようと行動を起こさない限り、何も変わらないんです。現状を変えるには、一度かちこちに固まってしまった固定観念を突き崩すしかありません。触媒としての自身の力を信じ、人を自分につなげる。第一部、第二部におけるみさちゃんともっとも大きく違う点は、能動的にリンクを作ろうとする意識なんです。

 一人でなんとかしようとすることはみさちゃんの人間不信の象徴であり、一番根深い病巣です。ネガティブな原意識は、これからも折に触れて鎌首をもたげてくると思います。その悪癖を本当に変えられるかどうかには最後まで踏み込みませんでしたが、彼はチャレンジし続けるはずです。
 結辞に置いたように、みさちゃんは自分自身を「これでいい」とは考えません。出来損ないの自分をましにしていこう。それは自分のためだけでない。探偵として、関わる人の生き方にポジティブな影響を及ぼすためには不可欠なんだ。そう考え続け、必ずや明るい道を拓いてくれると信じています。

 話は完結しましたが、みさちゃんが完成することはありません。筆者として変わり続ける彼の今後の活躍に大きな期待と祈りを込め、第三部を、そして本作全体をしめくくりたいと思います。

 長い長い話に最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。辛抱強く読んでくださった方々には、心よりお礼申し上げます。

◇ ◇ ◇

 次回、本作全体を通してのあとがきを載せます。どうか、お付き合いください。




(アメリカヒイラギモチ)





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《 ぽ ち 》
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