第三部 最終話 真実とへっぽこ
(17)
夏ちゃんたちの結婚祝賀会が終われば、すぐにクリスマスだ。
若い人たちはクリパでわいわい盛り上がるんだろう。だが、俺たち子育て世代はホームパーティーメインになる。まだ子供がいなかった頃はクリスマスこそ稼ぎ時だと家にいなかったひろも、今は休暇を取ってクリスマスを家で過ごす。変われば変わるもんだと思って突っ込んでみたら、意外な理由を聞かされた。
「わたしが年を取ったみたいに、社も相応に年を取ったの。まだ社が若くて社員一丸となってばりばり走り回っていた時には、社での時間が全てだった。わたしが特殊なんじゃなくて、社全体の雰囲気がそうだったんだよね」
「わかる」
「でも古参社員の多くは、わたしも含めて結婚、出産、育児っていうネクストステージに入ってる。社長は、それも込みで会社の成長プランを組んでいたから、わたしだけが今まで通りでいいっていうわけにはいかないわ」
JDAが探偵社からコンサルティング会社に鞍替えしてしまったほどではないにせよ、社の発展に伴う社風の変化というのは珍しくないんだろう。今野さんと同じ種の喪失感が、ひろにもあるのかもしれない。しかし、ひろはがっかりしているという表情は見せず、穏やかに笑った。
「ふふ。それを仕方ないと考えちゃうと発想がネガになる。今までに経験したことのないステージに入れば手札が増えるの。顧客層も扱う商品の幅もね」
「なるほどなあ。貪欲だ」
「そりゃそうよ。うちは大会社じゃないから、できることにどんどんチャレンジしていかないとすぐに縮んじゃう」
興奮してばたばたと室内を走り回っている隼人を見ながら、ひろが悪戯っぽく言った。
「それぞれが、社と家庭で過ごす時間の意味と使い方を考える。その中には、働き方だけじゃなくて休み方もあるってことね。統率者は、それを真っ先に実践しないとならないから」
「社長から、ちゃんと休暇を消化しろって言われてるんだろ?」
「もちろんよ」
「ママーっ!」
足元にじゃれついてきた隼人を抱き上げ、その頬にちゅっとキスをしたひろが、ぐいっと胸を張った。
「クリスマスを家族と賑やかに過ごすのが楽しみ。上辺だけじゃなく心からそう思えないと、部下にちゃんと休んでって言えないもの」
「はははっ! 確かにそうだな。おっとっと、待て待て、こらー」
視界から消えそうになっていた月乃を追いかけ、慌てて抱き上げる。
「ぶー」
不満そうな顔で体を反らす月乃。隼人と違っておっとりだと思っていたのは大きな間違いで、やはりひろの子だ。血は争えない。はいはい床掃除を脱してつかまり歩きが始まった途端、行動範囲が爆発的に広がった。発語も表情も豊かになり、かわいさ十割増しになったのは嬉しいんだが、目を離すとなにこそしでかすかわからん。
行動制御だけでも大変なんだが、食事の世話も加わった。断乳が遅かったものの、今は完全に離乳食に切り替わっているからな。ママのおっぱいに頼れない分、子供のケアにはこれまで以上に手がかかる。
子供一人ではなく二人いるという重みが、生活にずっしりのしかかっているのを実感する。俺もひろも、子供がいて楽しい楽しいだけでは済まされないんだ。思うようにならないこと、イライラすることはこれからもっと増えてくるだろう。
それでも。隼人や月乃はどうしようもなくかわいい。うちもフレディのところも、子供に溢れんばかりの愛情を注いでいるという点だけは胸を張って自慢できる。その反動で、雄介や逆城さんのバカ息子みたいなやつが許せなくなる。
だが……親が子供に無条件の愛情を注ぐという仕組みには、必ずしもなっていないんだ。だからこそ、うちの両親みたいな親と名乗って欲しくないろくでなしが一定数出現する。とことん理不尽だと思うが、だからと言って現実をスルーすることはできない。
《 ぽ ち 》
ええやんかーと思われた方は、どうぞひとぽちお願いいたしまする。(^^)/
にほんブログ村