$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle




第三部 最終話 真実とへっぽこ


(15)



 案の定、辛気臭いのは俺の挨拶だけ。あとは終始和やかな雰囲気の中で祝賀会が進んだ。

 記念品や花束の贈呈があり、ケーキカットとブーケトスがあり、ざっくばらんな祝辞や即席余興の披露があり、最後に二人からシンプルなお礼と誓いの言葉があって、全員による万歳三唱で滞りなく祝賀会がおひらきになった。

 それですんなり終わり? そんなわけはない。ジョーク大好き米国人のフレディは、二人にとんでもないサプライズプレゼントを用意していた。
 新婚さん用にこってこてにデコられたショッキングピンクのリンカーンコンチネンタルが、JDAの正門で新郎新婦が出てくるのをうやうやしく待ち構えていたんだ。嫌だあこんな痛車(いたしゃ)に乗るのは嫌だあとぐずる二人は抵抗虚しく車に乗せられ、列席者の大爆笑とがらがら鳴る空き缶の騒音に見送られてホテルのスイートルームに向かった。わははははっ!
 まあ、いいじゃないか。いろいろ辛いことがあっても、それを全部笑い飛ばせるくらいのイベントがあればなんとかしのげるもんだよ。フレディの悪ふざけも、生涯記憶に残る楽しい思い出にしてほしい。

 祝賀会の参加者は解散後直帰する人もいれば、二次会に流れていく人もいる。俺は楽しげに三々五々会場を離れる人々の背を見送りながら、JDAの職員さんと一緒に会場の撤収作業に精を出していた。そこに、のしのしとフレディ登場。表情が硬い。

「みさちゃん、お疲れさん」
「ああ、フレディ。会場貸してくれてありがとな」
「いや、かまわないよ」
「盛り上がってよかった。夏ちゃんたちも嬉しそうだったし」
「そうだな。ああ、それより」

 腕を取られ、ずるずる引きずられるようにして所長室に連れ込まれた。開口一番ずばっと詰問される。

「あの挨拶。本当か?」
「本当だよ。作り話をしたってしょうがない」
「……」

 応接のソファーに身体を投げ出し、何度も深い溜息をつく。ふううっ。

「依頼者はまっすぐ俺の事務所に来たんじゃなく、船井さんの事務所を経由してきたんだ」
「む」
「船井さんのところでは人探しを請けていない。断る理由があってラッキーだと思っただろうな」

 フレディが嫌悪感を剥き出しにした。それが普通の反応だよな。

「ひどいな。たらい回しか」
「外観だけを見れば、ね」
「……」
「俺もかちんときたから、船井さんとこに直接電話して意図を確かめたんだ」
「ああ、なるほど」

 フレディの口からも大きな吐息が漏れた。そう、背景を知ると印象が激変するんだよ。それもまた、俺が挨拶で口にした『一つではない真実』なんだ。

「本当ならうちではできないと断るだけで済んだ。でも、みさちゃんを紹介したってことだな」
「まあね。三日以内で人探ししろなんていうのは普通は訳ありだ。俺だって絶対にお断りだよ」
「三日!」
「それも最長で、だよ。自分でも、もう死期が近いことを悟っていたんだろ」
「……」

 思い返すたびに口の中が苦くなる。どうにもやりきれない。

「もし俺が依頼者の息子を知らなかったら、やっぱり断らざるを得なかった。でも、幸か不幸か知ってたからね」
「あとは……選択肢……か」
「そう。フレディならどう言う?」

 ごっつい腕をみしみし音がするくらい固く組んだフレディが、そのまま黙り込んでしまった。

「宿題だよ。俺にとっては、生涯考え続けなければならないどうしようもなく重い宿題」

 事実だけを放れば、逆城さんは後悔しかあの世に持っていけない。まだ報告できないというペンディングも結果としては同じだ。息子に会えないという点では何も変わらないからな。すでに死んでいるという答えは、諦めとあの世で会えるという期待につながる……そう判断したから真実を嘘にすり替えた。
 しかし、それが逆城さんにとって本当によかったのかどうか俺にはわからない。逆城さんの真情次第では、かえって残酷だったかもしれないんだ。





《 ぽ ち 》
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