第三部 最終話 真実とへっぽこ
(13)
「みなさん! アテンションプリーズ!」
ざわついていた室内を一度鎮め、合図をして照明を落としてもらう。
「新郎新婦の入場です!」
賑やかに結婚行進曲が流れる。わあっという歓声が上がり、ぱっと再点灯した明るさに負けない、幸せいっぱいの二人が腕を組んで俺のいる最前列に向かって歩いて来た。当然のこと、新郎新婦はフル装備だ。新郎は淡いブルーグレーのタキシード、新婦は純白のウエディングドレス。本式の披露宴と何も変わらない。会場が一気に華やいで、暖かい拍手が会場内を埋め尽くした。
二人が参加者の方に向き直り、揃って深くお辞儀をする。会場に響き渡っていた拍手が治まるのを待って、開会宣言。
「本日は、夏岡義人くん、真奈さんの結婚祝賀会にお集まりいただき、まことにありがとうございます。本日司会進行を務めます私は、みなさんご存知、へっぽこ探偵の中村操でございます」
どっ! 大きな笑い声が上がった。
「あまり堅苦しい会にはしたくありません。立食ですし、出入り自由です。新郎新婦の結婚を祝い、二人の新生活を応援してくださるお気持ちだけ頂ければ、それで十分です。あとは無礼講にいたしましょう。でも、その前に」
この前、小林さんに咎められたな。めでたい席なのに重い話題を振るのか、と。確かにそうだ。でも、どうしてもここで言っておかなければならないんだよ。
普段の会話で口にするにはあまりに深刻な問題提起。誰もがそれをこなしきれるとは限らないんだ。めでたさ、賑やかさの糖衣でいくらか薄められる今しか切り出せない。このタイミングでしか言えない。
俺はこの前報告会の時に棚上げにした大問を、みんなに問いかけたかったんだ。どうしても! 夏ちゃん夫妻にだけでなく、ここに集ってくれた全ての人々にね。へっぽこの俺にはうまく表現できないかもしれないが、精一杯提言に編み上げよう。
「みなさんが、飲んで食べて、わいわい賑やかに盛り上がって、全ての憂さを忘れてしまう前に。一つだけ引き出物を持っていってください。それはモノではありません。言葉です。偉そうな金言、箴言(しんげん)ではありません。問いかけ……いや宿題と言ってもいいかもしれません」
ざわつきが治まるのを待って、着席を促した。
「私の話は少々長くなります。みなさん、どうぞお近くの椅子にご着席ください」
◇ ◇ ◇
「マンガ、名探偵コナンで、主人公の江戸川コナンが決め台詞にしているのが『真実はいつもひとつ!』です。ご存知でしょうか」
うんうんと頷いている人が多い。
「中村探偵事務所だけでなく、沖竹エージェンシーでもJDAでも同じ……いやどこの調査事務所も同じでしょう。私たちは、隠されている、もしくは隠れてしまった真実を探り当てることを仕事にしています。先ほど言ったコナンの台詞は、我々の仕事の生命線。真実を探り当てられなかったという結末は仕方ありませんが、決して報告に虚偽を混じえてはいけない。それが調査における鉄則です。なあ、フレディ。そうだろ?」
「もちろんだ」
大きく頷いたフレディだけでなく、沖竹所長もなぜそんな当たり前のことを言うのかという顔をしている。
「では、みなさんに質問させていただきます。真実って、なんでしょう?」
そう。それが四つ目の大問。そして、どうしても全員に考えてほしかったことなんだ。あの時限定ではなく、生涯にわたってずっと、ね。
「例えば。ここに私がいて、なんか偉そうにしゃべっていること。それはみなさんから見て、紛れもなく事実。真実ですよね」
あちこちで苦笑が聞こえる。まあ、言うまでもないよな。
「私は人間という物体で、今ここに在ります。クローンとか、ロボットとか、実は別世界の人間とか、幽霊とか、そういうファンタジーやエスエフの世界でない限り、ここに私がいることは疑いようのない真実です。でもね」
一度言葉を切って、ゆっくり会場を見回した。
「私の発言の後ろに、どんな真実があると思いますか? そして、私の真実をどのように探ったらいいのでしょう?」
あ……。小さな驚きの声がそこここで漏れた。
《 ぽ ち 》
ええやんかーと思われた方は、どうぞひとぽちお願いいたしまする。(^^)/
![にほんブログ村 小説ブログ 短編小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_short/img/originalimg/0009875621.jpg)
にほんブログ村