$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle




第三部 最終話 真実とへっぽこ


(11)



 十二月二十一日。夏ちゃんたちの結婚祝賀会の開催日が来た。JDAの大会議室を見回しながら、ふっと小さな溜息をつく。
 ざばざば案件を片付けてなんとかイベント催行にこぎつけたものの、俺の心の整理整頓は結局後回し。大掃除できずじまいで、かき乱された感情が乱雑に散らかったままだ。まあ……年の瀬ってのはそういうもんだと割り切るしかない。

 俺の心情とは裏腹に、室内は素人が準備したとは思えないくらいきちんと飾り付けられ、大手の結婚式場と変わらない華やかな空気で満たされていた。休憩用に椅子とテーブルを並べてあるものの、席の指定はない。立食形式だ。
 開始時間は決まっているが、それまで控え室で待ってくれなんていう野暮は言わない。すでに会場に招き入れられている列席者があちこちにたむろし、賑やかに会話を交わしている。

 関係者には、堅苦しいイベントではないので平服でお越しくださいと連絡してあったんだが、実際どうかなと室内を見回す。ふむ。ざっと見る限り男性陣は概ねシンプルな服装だ。俺以外はね。
 俺は司会進行をしなければならないので、さすがに平服というわけにはいかない。まるっきり似合わない礼服を来て、ネクタイの代わりに赤くてでかい蝶タイをつけている。絶食中のペンギン、もしくは餓死寸前の売れないコメディアンみたいな格好だ。必ず笑いを取れるだろう。

 祝賀会では、厳粛な儀式類を省いてある。通常であれば、神前、もしくはキリスト教式の儀式があって、そのあと披露宴ということになるんだろう。だが神聖な誓いの儀式は、二人が必要だと思う形で、必要な時期に行う方がいいと思う。必ずしも列席者の承認が必要ってことはないはずさ。

 祝賀会は、受付なし。飛び入りもドタキャンもあり。会費や祝儀は不要。二人にお祝いを渡したい人は、あとで個別にやって。そういうフリースタイルにした。お祝いムードをみんなで共有しようよっていうゆるーい趣旨だからね。

 費用は俺とフレディとで折半し、うちの開所祝いにと沖竹所長がくれた金も拠出した。これで貧乏神に祟られずに済むと思う。質素な会食だから、大した持ち出しではない。あまり大仰にやると、夏ちゃんに余計なプレッシャーをかけちゃうからな。

 手書きの式次第を確かめながら、大勢の参加者で賑わっている会場を改めて見渡す。こういう浮かれた雰囲気の中に身を置くのは生まれて初めてかもしれない。俺もフレディも沖竹所長も入籍だけで式をしていないし、ひろの同僚や仕事関係者の式にはひろだけが出席していて、俺の出番はなかったんだ。友人が極端に少ないと、式に呼ばれるチャンス自体がないからなあ。
 まあ、普段は辛気臭い出来事としか縁がないんだ。俺もしっかり楽しませてもらうことにしよう。

◇ ◇ ◇

「うーん、やっぱり華やかになるもんだなあ」

 思わずうなる。平服でいいと言っても、一応は結婚祝賀会。服なんざどうでもいいという男性陣とは対照的に、女性陣は押し並べて気合いの入った服装で来ている。中でもだんとつで目立っているのは、やはり小林さんだった。

 うちの事務所にはドレスコードがないから仕事中何を着ていてもかまわないんだが、露出を最小限にしたい小林さんは地味かつラフな服装で来ることが多い。でも、こういうめでたい時くらいはおしゃれをしたくなるんだろう。
 色こそ派手さのない淡いクリーム色系だが、スーツではなくフリル満載のドレスで、アクセもメイクも大盛りだ。すっぴんでも美少女のさらに完全武装だから、その姿はこれでもかと人目をひく。おいおい、コスプレのコンテストじゃないんだぞと思わず突っ込みたくなる。

 だが、そんな風に自分推ししようという心境になれたことは大いに歓迎すべきだろう。リスク回避重視のフレディは、小林さんの艶姿(あですがた)を見て猛烈にシブい顔をしていたけどな。まあ、めでたい宴会の時くらいいいじゃないか。わははっ!

 経済的な理由もあって、佐伯さんも普段は小林さん同様に地味服ばかりだ。しかし今日はパールピンクのスーツで大人っぽくぴしっと決めている。ひろが、クローゼットの肥やしになっていた服を「どれでも好きなのを着ていいよー」と勧めたからだ。美しく見せるより、自分の陽のエネルギーを見せるのが大事なの……ひろがインターンシップの時に説いたことを、しっかり実践している。

 もっともメイクはあまり上手でないらしく、そこは小林さんに補助してもらっていた。体型はオトナなのに幼顔(おさながお)の佐伯さんは、そのアンバランスが奇妙な引力になって男の支配欲を刺激してしまう。メイクでシャープなイメージを足さないとなめられるよー、メイクも戦闘服の一部なんだよーと、小林さんにがっつり説教されていた。

 変装をきっかけにメイクにはまった小林さんだが、好きなことには半端なく突っ込む性格もあって本当に腕を上げた。メイクアップアーティストや美容部員でも十分食っていけると思う。芸は身を助けるという格言もある。できることは一つでも多い方がいいよな。





《 ぽ ち 》
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