$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle




第三部 最終話 真実とへっぽこ


(9)



 がちゃがちゃになってしまった自分の心情の大掃除をしている間にも、世界は少しずつ動いている。より良い方にも、悪い方にも。まあ……正直、今は悪い方なんざ見たくもないんだが、くだらないトラブルはどうしても起こる。

 バカ殿の雄介。江畑さんの厚意をつらっと無視して斡旋先の仮住居と職場から逃げ出し、またぞろ福田さんにアプローチしようとしやがった。俺の懸念がばっちり当たってしまったんだ。ただし。福田さん宅に二匹めのドジョウはいなかった。
 福田さんの拒絶を無視して無理やり部屋に上がり込もうとした雄介は、福田さんから被害届が出ていることを知らなかったらしい。愚か者め。今度は脅迫の現行犯だ。謝罪も弁解もなしに「俺を部屋に入れろ」と喚いたんじゃ、脅迫だと取られても仕方ないだろ。
 雄介は、きゃつの行動を監視していた江畑さんに速攻でとっ捕まった。当然、起訴猶予は取り消し。全く反省の色なしってことだからね。

 雄介が作り話で福田さんからカネを巻き上げていたことは、すでに福田さん本人から証言が得られている。詐欺と脅迫まで足し合わさったら、微罪だし初犯だからというエクスキューズはもうできないよ。おそらく実刑だろう。
 雄介が再逮捕されたのを確かめたシカマスは、提出を手控えていた特別背任の告訴状を提出した。社と雄介をきちんと切り離すためにね。

 これだけ悪事の事実が積み重なると、どこにも逃げ場はない。もらった再起のチャンスを自らドブに捨てるってか。世間知らずの阿呆だからじゃもう済まないんだよ。雄介の下劣さと出来の悪さに、心底がっかりする。

 シカマスから切り離されたあとの立件だから、社や親への二次被害は最小限で収まると思う。だが、逆城さんのことがあるから俺はどうしようもなく気が重かった。ご両親に顛末をどう説明したらいいんだろうってね。

「はああっ」

 やらかすやつは自分しか見ないんだ。人のことなんかどうでもいいんだ。そういう腐ったエゴしか持ち合わせない連中の愚行が世を騒がせている現状を見るたびに、暗澹たる気分になる。
 マエがつけば、今以上に世間の目が冷たくなるんだよ。誰からも白眼視されるようになった雄介が将来どんなとんでもないことをやらかすのか、俺は一切考えたくない。ご両親にも福田さんにも、自衛を徹底してくれと言うしかない。ご両親には距離確保の継続を、福田さんには転居を、それぞれ勧めることになるだろう。

 そういう現状を鑑みた上で、みんなに出した三つの問いの答えを俺なりに考える。

 逆城さんが息子を探し当てようとした理由。どんなくず野郎に成り下がっていても、息子は息子だ。最後に一目でいいから顔を見たかったんだろう。動機はシンプルだと思う。
 息子の現状を知っていたか。息子の犯罪のとばっちりを食って人生が崩壊したんだ。まともな暮らしをしているとは思っていなかっただろう。だが、どのくらい崩れているかは知らなかったし、知るつもりもなかったはずだ。
 息子の消息がわかったらどうしたか。最後に会って、何か言葉を交わしたかったんだろうな。それが激励なのか、叱咤なのか、罵倒なのか、わからない。だが血の繋がった親子であれば、最後くらいは意思の疎通を図りたいと考えるのかもしれない。俺的にはありえん話だが。

 だがそれらの解答は俺の類推であって、真実かどうかはわからない。俺だけでなく誰にも……真実かどうかはわからないんだ。





《 ぽ ち 》
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