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第三部 最終話 真実とへっぽこ


(7)



 荼毘に付された逆城さんの遺骨。俺は、それを無縁仏の合祀墓に納めることにした。逆城さんの縁者は、調べればいくらでも見つかるだろう。だが死してなお、逆城さんが彼らに歓迎されることは決してない。凶悪犯罪者の息子が生きている限りは、ね。
 遺骨が縁者から邪険に扱われるくらいなら、同じ境遇の人たちと彼岸で苦楽を分けあえる方がずっとましだと思う。

 納骨を済ませたところで、逆城さんの案件は一応の決着がついた。そこで初めて本件を所員にオープンすることにした。
 俺も含め、調査業に携わる者が目を背けることのできない理不尽な現実。それとどう折り合いをつけていけばいいのか。永劫に答えの出ない宿題だ。だが、だからと言って無視することはできない。決してできない。

 鬼沢さんを含め、所員全員が揃っている日を見計らって緊急報告会を始める。

「済みません。みなさんが手がけている案件は、年内分は一応の決着、もしくは見通しが立っているはずです。みなさんの報告に嘘偽りがなければ、ですが」
「嘘ぉ? そんなのありませんよう」

 小林さんがぷっと頬を膨らませたのを見て、思わず微笑む。

「いいね。これからずっとそう行きたいものです。でもね」

 ぐるっとメンバーを見渡してから、伏せてあった案件を公開する。

「みなさんが持たれている案件とは別に、小さな人探しの案件が来て、私が担当しました。本来ならばすぐみなさんと情報共有しなければならないんですが……」

 一度言葉を切り、一人一人の目をじっと見据える。

「とても重い案件だったんです。年末の雑然とした雰囲気の中にあってもその賑わいに決して紛れることのない、どうしようもなく重くて暗い案件です」

 ざわついていた室内が、しんと静まる。

「本案件は、もう片がついています。事務所が請け負った案件としては、ね。でも、キリストが十字架を背負ってゴルゴダの丘を喘ぎながら登ったように、私も本案件の重荷を生涯背負うつもりです。そして皆さんも」

 いつもの手帳をぽんと机に置いて、それを指差す。

「自分ならどうしただろうかと。しっかり考えていただきたいんです。繰り返しますが、案件としてはすでに完了しています。ですので本報告はあくまでも教材ですが、死ぬまで答えの出ない宿題だと……捉えてください」

◇ ◇ ◇

「まず、事実から説明いたします」

 各人が手帳やノートを開いて筆記する態勢を取った。その準備が整うのを待って、ゆっくり続きを話す。

「依頼人は、逆城信安という六十過ぎの男性です。依頼内容は、逆城忠志という十年来会っていない息子を探し出して欲しいというものでした」

 探し人担当の今野さんは、その依頼のどこに深刻さがあるんだろうと首を傾げている。だが、沢本さん、夏ちゃん、そして小林さんは、息子の名前を聞いた途端真っ青になった。

「そ、それって」
「えらいこっちゃ、だろ?」
「はいいいっ」
「え? どして?」

 きょとんとしていた今野さんに、事情を話す。

「今野さんがうちに来られる直前に、事務所総出で当たった大きな案件があったんですよ」
「総出、ですか」
「はい。人命に関わりそうな危険な状況。でも緊急性が高いのに、警察を噛ませることができない。どうしても警察を動かすためのファクトが欲しい。そういう依頼でした」
「うわ……」

 結果的にだがヤの字絡みの案件だったし、安全第一のフレディのところでは絶対に請けないだろう。今野さんの顔が引きつっている。

「警察を動かすためのファクトがなんとか得られたので、そこから先は警察にバトンタッチ。最終的には刑事事件になっています。でね」
「はい」
「私たちは、悪事をやらかしていたやつの身元特定を請け負ったことになるんですが」

 沢本さんが、しかめ面のままでがらがら声を張り上げた。

「そいつの名前が、逆城忠志っていうんだよ」
「げええっ」

 今野さん、絶句。

「とんでもない偶然なんですけどね。でも依頼者がここに見えた時、嫌な予感がしたんです」
「だろうな。そうある苗字じゃないから」
「ええ」
「その忠志っていう人は、今どうなっているんですか?」

 隅っこにいた鬼沢さんがこそっと聞いた。

「逮捕されました。今は取調べの真っ最中です。傷害致死事件を起こして逃げていた上に、脅迫、監禁、その他もろもろの罪がたっぷりトッピングされてます。マエもいっぱいありますし、今回のを全部足し合わせたら一生塀の中にいろというくらいの量刑になりますね」
「ひっ」

 被告人弁護もできるはずの鬼沢さんは、縮み上がってぶるぶる震えている。うん、こういうのとはできるだけ関わらない方がいいと思う。





《 ぽ ち 》
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