$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle




第三部 第十五話 城を落とす


(8)



 にやっと笑って、みんなを見渡す。

「もちろん、雄介に与えられている猶予は有効期限付きです。雄介がお飾りであっても、社長職をずっとお飾りにしておくわけにはいきませんから。当然のこと、仕事そっちのけでゲーム三昧の雄介には厳しい警告が出ます」
「ああ、親がどやしたか」
「ええ。金沢さんが会長に、あれじゃどうにもならんと何度も苦情を申し入れていたんでしょう。学生の時には、単位を取って進級している限り何をしていようと親は詮索しません。でも、社会人ならそうは行きませんよ。ましてや社長なんだし」
「当たり前だろ」

 叩き上げの沢本さんには、バカ殿の怠業がどうしても許せないんだろう。この場に雄介がいたら殴り倒しそうな勢いで怒っている。俺も個人的には全く同感だ。

「それまでも小言くらいはぶつけていたと思うんですが、態度が一向に変わらないのでさすがに堪忍袋の緒が切れた。親父さんが、いい加減にしろと雷を落としたんです。その時に、雄介が学生時代にしでかした悪行にうっかり触ってしまった。ご両親は、小島さん経由で私の調査報告書を受け取っていたはずですから」
「親が息子の素行調査に探偵を使うなんざ、世も末だな」

 沢本さんが短く吐き捨てた。確かにそうなんだけど、血族ほど逆に直接動けないというケースもあるからね。

「女性関係への親の叱責は、誰にも知られずゲームを楽しんでいた雄介の美学に反した。指摘がやつの逆鱗に触れたんです。やつは、かっとなって思わず本性を現したんですよ。引退したじじいは引っこんでろってね」
「で、それだけじゃ済まなかったということだな」
「ええ。現時点で自分のプライベートにタッチできるのは、親を除けば小島さんしかいません。小島さんご自身は紹介所の仕事があって動けませんから、誰かに自分の素行を探らせたに違いない……そう考えて親と小島さんにかまをかけて私を探り当てた」
「ああ、そうか。それがあの一件につながるのか。中村さんの信用を下げようとしてくだらんちょっかいを出したってことだ」
「当たりです」

 沢本さんは、痴漢騒動と雄介案件との関係をやっとこさ理解できたらしい。
 あの騒動は、最初から背景が変なんだ。ひろには言ったが、俺の社会的信用なんか最初からミニマムさ。そんな俺をわざわざ痴漢に仕立て上げる意味なんかどこにもないんだよ。だが、それは福田さん攻略にだけは使えるんだ。痴漢をやるような男の言うことは信じるな……ってね。
 俺への嫌がらせと福田さん攻略のためだけに大金をばらまく。発想があまりに幼稚だが、そういう馬鹿げたことをあえてやらかすのが雄介というやつなんだろう。

「ちっ! 本当にろくでもないガキだ」

 まったくだよ。とんだとばっちりを食らっちまった。沢本さんの怒りゲージがどんどん上がってくるのを横目で見ながら、話を進める。

「確かにガキなんですけどね。でも雄介は会社社長です。分別のあるなしに関係なくカネと人が使えるので、どんなくだらない企みも実行できてしまうんですよ」
「大丈夫かい?」

 怒りから一転して、沢本さんの声に強い不安の色が滲んだ。この事務所が標的にされるかもしれないという懸念が膨らんだんだろう。それをさらっと流す。

「大丈夫ですよ。あいつの標的は私じゃないので」
「ふうん」

 一度散らかった話をまとめ、流れを作戦内容の説明に戻す。

「雄介は社長ですが、全く仕事をしていない。それを許容できない親や金沢さんは、もうサポートの限界を感じている。その状況をもとに攻略作戦を立てました。具体的な内容をこれから説明します」
「ああ、頼む」

 作戦実行の可否も含めて不確定要素があり、シナリオも多岐に渡るので、話すのはあくまでも骨子だけ。むしろ、鬼沢さん参加の必要性を理解してもらうことの方が重要なんだ。うちの将来に関わるかもしれないからね。

「最初に、ご両親の了解を取りつけて金沢さんの地位をしっかり保全します。金沢さんが雄介の強権発動の対象にされないうちなら、社としてまともな危機回避行動が取れるんです」
「危機回避行動、か」
「ええ。社長の解任です」

 うんうんと夏ちゃんが何度も頷く。

「そうだよな。誰もバカ殿の巻き添えは食いたくないですよね」
「ですです。そうしたら雄介はどうなります?」

 この時点で、作戦の筋書きも城攻めなんか簡単だと言った理由もわかっただろう。自立できていないあいつはサポーターなしでは立っていられない。それなのに、サポーターに愛想をつかされているんだ。あいつは、まさに裸の王様そのものなんだよ。その福田さんにしたって、雄介がぷーたろうになればさすがに催眠術のメッキが剥げ落ちるだろう。





(コノテガシワの雌花)





Shark Attack by Grouplove


《 ぽ ち 》
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