おまけのあとがき 1



 シンプルなあとがきだけじゃつまらないので、おまけのあとがきを二つお届けします。

 ちっともまともな話を書かないわたしですが、本作にもたんまり実験要素を盛り込みました。おまけの一回めでは、本作で実験したことをちょこっと書いておこうと思います。ご興味のある方だけ、どうぞ。(^^)

◇ ◇ ◇

 実験要素、その一。

 夢乃が夢視の結果に積極関与することを原則禁止し、何かを達成するために能力を駆使するという目的完遂型の流れにしませんでした。主人公の異能を扱うファンタジーでは、掟破りの設定かも。
 当然、夢乃は相手の一部にしか関われません。だからこそ夢視をこなすことができますが、同時に夢乃と依頼人との関係が非常に不安定になってしまいます。その不安定要素を使って話を駆動するというのが、本話最大の実験です。

 本話の設定では夢乃を介して周辺人物の事情を知ることができませんので、どうしても多視点での展開が必要になります。十四話まで延々そのパターンが続くので、途中で飽きたーという方がおられたかもしれませんね。でも十五話以降の怒涛の流れを成立させるには、十四人の背景をきちっと描写する前半部分がどうしても必要なんです。

 今いろんな小説を読んでいて、順次展開型の限界というのを強く感じています。話全体を貫く縦糸が最初からはっきりしているものほど、筋が早くに読めてしまうんです。
 最初の簡素なあとがきで述べましたが、本話の縦糸は自分の資質をどう未来に活かすか。その試行錯誤です。夢視におそろしくこだわっている夢乃ですから、読者には早くから縦糸がわかってしまいます。それじゃあつまんないんですよ。
 なので、本話では徹底して横糸を先に張りました。横糸は人と人とのつながりの形ですね。すんなりつながるケースもあれば切れてしまうケースもあり、どちらかだけが望ましいわけではない。そういう前提でたくさんの交点を設定し、結果も様々な形で示しました。

 夢乃が夢視を通して多くの人間模様を俯瞰し、自分の意思や価値判断を揉んでたっぷり考え、悩んだ末に進路を決める。縦糸を一番最後に通させる。それが、変てこな設定にしたもっとも大きな理由です。



(ハハコグサ)



 実験要素、その二。

 話の中に忍び込ませた伏線を全部見渡せるのは、読者さんだけです。つまり、読者さんがこの話の夢視をして伏線を回収する形になっているんです。そして本作では、伏線全部は回収できないように作ってあります。それぞれの登場人物の行動、言動の解釈を、本人と他者との間で必ずしも一致させていないんです。なので、読後におやあっと首を傾げた方がおられたんじゃないかと。

 一番わかりやすい例は、夢乃の幼い頃に春乃が夢乃と手をつなぎたがらなかった理由です。
 夢乃は、夢視の能力を持つ母が図らずも自分の夢を視てしまうことを避けるため……つまり母が夢視そのものを嫌っていたからだと解釈しました。でもモノローグで春乃に説明させましたが、本当の理由はそうじゃありません。春乃は、本心を隠すことができない自分の夢をどうしても娘に視られたくなかったんです。つまり、二人の認識は最後まで噛み合っていません。

 春乃が娘に「自宅から通える大学にして」と勧める下り。ここもそうです。夢乃は母に、お金がないから家から通える大学だけにしてとはっきり言って欲しかった。親としての指示をしっかり出さない姿に寂しさを覚えます。
 でも、娘を触り損ねて死の崖っ縁まで追い込んでしまった春乃は、夢乃の意思への介入にものすごく臆病になっているんです。その恐怖心が夢乃には全く見えていません。噛み合ってないですよね?

 みゆきちゃんが春乃のスカートを握りしめていた理由も、夢乃の推測とは違います。夢乃は、母が他人の夢を見たくないから……つまり母が手をつなぐことを拒否したと推測しました。違いますよ。手を繋ぐのを拒否したのはみゆきちゃんです。よくわからない人の夢は視たくないという、みゆきちゃんの自衛なんです。

 この他にもたくさん不整合を仕込んであります。探してみてください。

 フィクションの世界では、こうした大きなずれをあまり放置しません。不条理系の作品でない限り、意思疎通の機会を与えて解消させちゃうことが多いんです。ずれを放置するのは、どたばた系とか、続編への布石として見せる場合とか、かな。
 でも、現実の世界でパズルがぴったりはまることはまずないでしょう。相互理解が深まることはあっても、完全に理解し合えるってことは絶対にありえないです。だって、自分の心情すら百パーセント理解できないんですから。なので、あえて現実寄りの設定にしました。

 本作では、理解のずれの多くは善意に基づいた推測から生じています。しかし、好意的な解釈が最良の結果を生むとは限らないんです。それを念頭に置いて相互理解のずれをあえて残し、違和感の起源と意味を読者のみなさんに考えていただこうというのが、わたしの仕込んだ二つめの実験要素です。



(ハハコグサ)



 実験要素、その三。

 夢乃も含めてですが、登場人物のアクションや反応を必ずしも同じパターンにはめ込んでおりません。

 たとえば。

 ほぼ全員を泣かしているんですが、坂野さんだけは泣いていません。
 夢乃はほぼ全員の夢を視ているんですが、安達さんの夢だけは視ていません。また、和田さんとみゆきちゃんの夢は二回視ています。
 小屋で行った夢視とそうでない夢視があります。
 夢乃が視ようとした夢と見せられてしまった夢があり、依頼人の夢には一度きりの夢と繰り返す夢が混在しています。
 三組のカップルのうち、夢乃が仲立ちする形になったのは村岡+坂野のカップルだけで、それには夢視の結果が直接影響していません。
 加害と被害の関係も単純ではありません。例えば、森下さんは加害者でしょうか被害者でしょうか? 和田さんや長谷辺さん、咲ちゃんはどう?
 自発的な意思の発露が弱い(もしくは弱かった、弱くなった)人物は、篠田、川瀬、村岡、坂野、葛西、朽木、みゆきちゃん……いっぱいいます。でも、パターンはそれぞれ違いますよね?

 こだわることにはとことん突っ込む夢乃が、彼らから受けた印象を自分の思考や意思決定にどう反映させるか。そのプロセスを単純化させないために、かなり変則的な設定にしてあります。登場人物をこれほどまでに多くしたのも、そのためなんです。

 夢乃の決意だけでなく、彼らが選び取った道も含めていろんな意思決定の流れを読み取ってもらえればなあと。

◇ ◇ ◇

 この他にもたくさん実験的要素を組み込んでありますが、あとは割愛します。

 いろいろな試みが効果を発揮してくれるのが一番望ましいんですが、必ずしもそうは行きません。あとで、もう一度実験の効果を検証してみようと思っています。





Field Of Dreams by Jesse Jennings


《 ぽ ち 》
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