読書ノートの九回目は、加藤実秋さんの『モップガール』(2007年発表、文庫版は小学館文庫)です。

 近藤史恵さんのキリコシリーズに「モップ」がついているので、だから惹かれたというわけではないんですが。表紙もキャッチーだし、紹介文章もライトミステリー調。おもしろそうだから、ちょっと手を出してみようかと。中を読まずに買い物かごに入れました。

 で、本文を読む前になんとなく奥付を見て。
 あっちゃあ、またやっちまったかと思ったんです。

「これ、ノベライズものじゃん。とほほ」







 がっかりしたんですけどね。とりあえず通読してみることにしました。

 で。読んでみて初めてわかったんですが、これはノベライズとは言えないです。確かに、北川景子さん主演の同名ドラマ(2007年放映)の原作として加藤さんが提供したみたいですが、ドラマとは主人公の名前以外中身がまるっきり違うんですよ。小説である本作の方が、明らかにしっかり作り込まれた設定になっています。ですから、関係はあっても中身は全く別物。ノベライズに伴う制限を受けていない、独立作品でしょう。ほっとしました。




(ヨツバヒヨドリ)



 ざっとあらすじを。

 主人公の長谷川桃子は22歳のフリーターですが、やや意識高い系。世の中には自分にぴったりの仕事があるに違いないと、あえて変わったバイトを探しています。で、桃子が飛び込んだ清掃社が、クリーニングサービス宝船。バイトも入れて四人しか社員のいない、弱小もいいところの会社でした。でもその会社は、事故や事件現場の特殊清掃を請け負う弩級にえぐい会社だったのです。(^m^)
 仕事が仕事ですから、当然行く先々でいろいろあるわけで。はい。

 桃子には左耳の突発性難聴という持病があるんですが、のちのちそれが厄介な要素と結びつきます。これ以上はネタばれになるので、お口にチャック。(^^;;




(ヨツバヒヨドリ)



 じゃあ、読後の感想と行きましょう。

 うーん……微妙。(^^;;

 いや、設定も登場人物のキャラも実におもしろいんです。凝っているというより、純粋におもしろいんです。そうだなあ、全体がこれでもかとビビッドカラーに彩色されているというか。
 社長の東は、病的な犬フェチ。現場を仕切る重夫は、なりきりヘボ役者。事務の美樹は、ぱつぱつのギャル系。そして、バイトのくせにさぼってばかりの無愛想な翔。みんなこれでもかと輪郭が強調されていて目がちかちかしますが、わたしは嫌いじゃありません。むしろ、絵がぽかんと浮かんでくるからいいなと思うんですよ。

 でもね。

 肝心の主人公桃子のキャラが弱すぎ。どうしようもなく引きがない。それが桃子の行動とのアンマッチ(不一致)につながってしまって、話に没入できないんです。
 いや、桃子に全く色がないわけじゃないんです。思い込んだら後先考えずに突っ込むのは、近藤史恵さんの描いたキリコと共通ですね。祖父母っ子で時代劇フェチというのも効いていますし、持病に振り回される姿にも納得はできるんですが……。あまりに周りの人物のキャラが濃くて、その中に埋没しちゃうんですよ。桃子だけひどく彫りが浅いっていうか。しかも、桃子一人称の展開なのにそれじゃなあ……。
 桃子の彫りの浅さは外面だけでなく、性格も感情表現もそう。インもアウトもあまりに通りいっぺんなので、自ら謎に首を突っ込むアクションが違和感ばりばりになるんです。翔との絡みも表面的なところからちっとも進まないので、翔がなぜ桃子に興味を示すのかがよくわかりません。桃子視線の情景描写が多い上にその桃子が妙に醒めているので、せっかくの極彩色キャラがうまく動いてくれない。登場人物間に生じる化学反応への期待感が湧いてこないんです。

 桃子の彫りの浅さは、彼らが巻き込まれる事件にまで波及しています。事件背景がどうにも物足りない。しょぼくて登場人物のビビッドカラーと合わない。いや、そこにちゃんと人間ドラマが組み込まれていれば納得できます。その場合、ミステリー要素はスパイス止まりですから。でも、読後に残る後味や満足感があまりに少ない。印象に残らない。うーん……。

 モップガールは、この作品のあとに続編が二巻上梓されていますので、桃子の薄味部分は謎としてあえて残している結果なのかもしれません。でも、作戦でそうしたのなら失敗かな。最初に強い引きがないと、次作には手が伸びないですから。

 人物のカラーリングがきれいなので、スラップスティック(どたばた劇)として割り切って読むにはいいかもしれません。でも、わたしのように多少なりとも感情に引っかかることを期待して読む者としては、「ないなあ」というのが正直な感想です。

 桃子以外のキャラは、実においしいんだけどなあ……。


 読書ノート10回目の次回は、ちょこっと小休止。現時点での雑感を、さらっとまとめてみたいと思います。





Rather Be by Clean Bandit


《 ぽ ち 》
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