《ショートショート 0863》


『ぐーとぱー』


「やっぱ、ぐーでしょ」

「だよねえ」

「たださあ、ほんとにぐーを出せるかどうかがモンダイだよ
なー」

「うん……」

「何のハナシぃ?」

サヤとミンが、なんかマジな話してたから首を突っ込んだ。

「トモか。あんたにはかんけーねー」

「えー? 冷たいなー」

「てか、オトコ絡みだよ」

「関係なーい」

「ごるあああ!」

ミンに、ぐーでぽかっと叩かれた。

「いったあ……」

「あんたのことだから、ジャンケンのことだと思ったんちゃ
う?」

「違うのー?」

「違うよ。ぺろっと裏切りやがったオトコに、どやって落と
し前つけさすかって話ぃ」

「えー? それが、なんでぐーとぱーなの?」

「殴るときはどっちが効くかなあってこと」

どてっ。
思わずぶっこけた。

「わたしにはどっちも無理ぃ」

「でしょ」

浮気したカレシをぐーでぶん殴ろうなんていう友達の話を聞
いて、あほっちゃうかと思った。
どんなに頭にきてても、実力行使はさいてーだよー。
わたしは絶対にそんなことしたくないし、もちろんされたく
もない。

お互いに痛い思いするだけじゃん。



rd1
(ナツヅタ)



でも。
運命っていうのは、ものすごーく意地悪に出来てるのかもし
れないね。

わたしはとろいから、誰かにコクるとかそういうのにはずっ
と縁がないと思ってたんだ。
実際、縁なんか何もなかったし。
でも。誰かにコクられるのは、わたしのとろさとはかんけー
ないんだよね。

そしてとろいわたしは、コクってきたオトコが札付きの女た
らしだってことにちっとも気づかなかったんだ。
貢がされ、しゃぶり尽くされ、かすっかすになって、ぽい。
いくらわたしが鈍いったって、されたことがどんなにひどい
かくらい分かるよ。

そして、とろいわたしが口でそいつに勝てるわけないじゃん。

どうしても復讐したかったわたしは、そいつの顔面にぐーを
ぶちかます目標を立てた。
非力なわたしがぐーで殴ったってダメージを与えられないか
ら、ボクシングジムに通って腕力と瞬発力をつけることにし
た。

わたしが目を血走らせて毎日トレーニングに励むのを見て、
トレーナーのお兄さんが、すっげえ根性あるなあってほめて
くれたけど。ちっとも嬉しくない。
あいつを一発KOしないと、気が済まない!

そして、いよいよ襲撃決行の日が来た。
相変わらず女連れでちゃらちゃらしているそいつの前に飛び
出して、防御姿勢取られる前に顔のど真ん中に全体重を乗せ
たストレートをぶち込んだ。

「くらいやがれっ!」

ぐしゃっ!



rd2
(マンリョウ)



わたしの右拳は大破して、包帯ぐるぐるのどらえもんぐーに
なっていた。
その手を取って、トレーナーのお兄さんが何度も深い溜息を
ついた。

「なあ、トモちゃん。俺たちが練習や試合をする時に、なん
でバンデージを巻いたり、グローブをはめるか分かる? 拳
を壊さないようにするためなんだよ?」

「うー」

「拳ってのは骨の周りの筋肉が薄いの。どんなに鍛えても、
プロテクターなしじゃ衝撃が骨に行っちゃう。女の子は、も
ともと骨も筋肉もきゃしゃなんだからさ……」

わたしは、悔しくて悔しくて涙が止まらなかった。
わたしの右拳は複雑骨折なのに、あいつは鼻血すら出しゃあ
しない。ぱーで引っ叩いた方が、まだマシだった。
ぐー出したわたしの完敗じゃん!

しょうがないなって感じで、お兄さんがわたしを諭した。

「あのね、トモちゃん。あいつ、これまで散々ぐーで殴られ
てて鼻骨や頬骨が粉々なんだ。整形用に顔に鉄板が入ってる
んだよ」

「うっそお!」

「鉄面皮の上に鉄仮面さ。殴るだけ損だよ」

「……」

「ハートとディフェンスをもっとしっかり鍛えなきゃ。今の
まんまじゃ、つまんないことで人生ぱーにしちゃうよ?」





Paper Scissors Stone by Portico Quartet