『凝る赤』というサブテーマで、五つお話を書きました。いかがでしたでしょうか?

 点景としての赤のインパクトは、それがたとえ凝っていてもなお、充分に強いんじゃないかなあと。そういう想定で、赤にメッセージとしての重みを持たせて編み込み、五つのお話を展開してみました。



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(パイナップルセージ)



 第一話の『紅を置く』では、祖母から孫へ。渡されたのは訓話ではなく、答えのない問いでしたね。おばあちゃんが新聞に赤チョークで書いた無季句の意味。その解釈にも是非にも、解答はありません。

 第二話の『燕脂』では、渡し損ねた、伝え損ねたメッセージの悲哀を色に重ねました。みなさんは、ちゃんと間に合うように想いを届けていますか?

 第三話の『朱の戸』は、どこにも届かない声の話。悟助は、土地に縛られた生き方しか出来ない喜一に、おまえは時代が移ってもそのままだと言い放ってしまいます。喜一はがっかりしたでしょうね。なんだ、あんたもかいと。

 好人物に見えても、結局自分の身上のことしか考えていない悟助は、狭量の小役人そのもの。その嘆きは、偉い人にだけでなく、喜一にすら届かないんです。そして現代でも、悟助と同じセリフを吐く人が結構おられるように思います。

 第四話の『セピア』。記録用媒体としての写真に、自分が入っていない。じゃあ、何をどうやって残せばよかったんだろう? 皮肉なことですが、取り返せない時間を嘆く伯父さんの問いが、姪の純ちゃんの自意識を確かめさせるメッセージになっていました。

 最終話の『蘇芳片』。これだけがすっきり明るい話でした。何度も何度も色を重ねて、自分を染め足していく。その色を濁らせずに深めるためには、色からたくさんのメッセージを読み取らないとならないのでしょう。

 『蘇芳片』は、拙作『みどり』のスピンオフストーリーになっています。第二ルート、主人公の親友である佐川良太とくっついた園田水鳥の、その後ですね。

 本編では主人公(幸助)にあっさりスルーされてしまったので、ちとサルベージしました。本編未読の方は、おひまな時にでもちらっと読んでみてください。(^^)



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(ペンタス)



 赤が励起する感情や記憶。そして赤に託されたメッセージ。それらは、必ずしも一色(ひといろ)ではありません。

 赤に限らず、全ての色は様々な顔を持っています。色が訴える印象は、その顔のどの部分を見るかによって、つまりわたしたちの意識次第で、どのようにも変化するんです。たとえ同じ色であってもね。

 そのことを、ささやかなお話たちから汲み取っていただければ……とても嬉しいです。




  冬陽墜ち包帯の染み黒くなる





For Your Babies by Simply Red

 シンプルに赤でいいじゃん。ええ。そうですね。(^^)