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 最終話 レンタル屋の天使


(2)


そうなんだよね。
私は、性がないから恋愛とかそっち系はずーっとシャットア
ウトするつもりだった。
全然興味がないし、私には意味がないかなあと思って。

でも、それが恋愛かどうかは別にしても、人を好きになると
いう経験はどうしても欲しい。
そこが欠けたままだと、結局私の居場所はどこにも見つけら
れなくなると思う。

好きなもの、好きなことを見つける。
その中には、必ず『人』が刺さりこんでくる。
例えば、私が筋金入りのメカフェチだったにせよ、そのメカ
を作っているのは神様でも石ころでもなく、人なんだ。

私が人への興味を失ったら、性がないことによる悪影響以上
に世の中から異端視されるのは間違いない。

その実例が……あのおじいさん、柳谷さんなんだ。
自分を無理やり立てようとして周りの人たちを無差別に蔑む
と……ああなってしまう。
自分の悲惨な末路を見せつけられるようで、ぞっとするよ。

そうしたら、先生みたいにどこかに自分一人の鶏小屋を作っ
て立て篭もるはめになるだろう。
そんなのは絶対にいや! 全力で回避したい。

だから私は、人とのやり取りにタブーを作らないつもりだ。
性がないゆえに不可能なことがあるっていうのは事実。
でもそれは、これからしたいこと、出来ることの中のわずか
な欠損に過ぎないんだ。
私はそんな風に考えて、歩いて行きたい。

これまでずっと真っ白けだった学歴と職歴の欄。
それは、これから私が自力で埋めていける。
性の有無には全く関係なくね。

同じように、私の中で埋め切れていなかった心の空白はカラ
フルなパーツで埋めていこうと思ってるし、そう出来ると信
じてる。

……とか考えながら、お客さんが電話で問い合わせてきたレ
ンタル品の在庫をパソコンで確認していたら。
見知った顔が、ひょこっと店先に現れた。

「お? トムじゃん。どしたー?」

「いや……あれからどうしてるかなーと思って」

「まじめに働いてるよー。もうすぐ引き継ぎ終わりで、これ
から私が店舗を切り盛りするから」

「そっか……」

「あ、そういやさ」

「うん」

「トムはバイトしないの?」

「う……」

速攻で顔をひきつらせたトム。
そうだよなあ。見るからに対人バイトは苦手そうだもんな
あ。

「いや、今のところ私だけでも何とかこなせそうなんだけ
ど、レンタル品のチェックとかスケジュールの確認とか、
もう一人くらいは手が欲しいんだよねー」

「……」

裏方でやれそうな気配を嗅ぎ付けたんだろう。
トムが俄然乗り気になった。

「それって……僕にも出来そう?」

「出来るんちゃう? 客さばきは私がするし」

「うん。じゃあ……まじめに考える」

やりぃ!

「バイト代は安いと思うけど」

「いや……それより就職前にバイト経験……積みたい」

「バイト、やったことない?」

「……うん」

「それは私も同じだよ。やろうよー!」

私には、店長からもらった貴重な縁がある。それを前向き
に、有効に使いたい。先生ともトムともね。

店に人が寄ってきた気配を感じ取ったトムが、急に慌てだし
た。

「あ、じゃ、じゃあまた来るわ」

「履歴書持ってきてねー」

「分かったー」

そそくさと歩き去るトムの背中を、やれやれと見送る。
まあ、トムも徐々に慣れるでしょ。
裏方って言っても、一日中ヤードにこもることは出来ない
し、電話応対もしないとならないからね。練習あるのみさ!

バイト仲間を確保出来そうなのが嬉しくて店先でにまにまし
てたら、明るい女子学生の声がどおっと飛び込んできた。

「ええー?」

「ちょっと、かっちょいいじゃん!」

「ユウ、どこでみっけたの?」

「ないしょー」

女子中学生の集団が、店の前にわらわらっとたかった。
わはははは。ユウちゃん、いっぱい引き連れてきたなあ。

「いらっしゃいませー。何をレンタルしましょうかー?」

「お兄さんを!」

一番やり手っぽい女の子が、はいっと手を上げてろくでもな
いことを言った。こらこら。

「残念だなあ。私は除外品ですー。ごめんねー」

「ちぇー」

その子の後ろでぶうっと膨れていたユウちゃんが、前の子の
どたまをべしっと叩いた。

「ちょっと、ミネっ! 抜け駆けなしっ!」

「えーん」

そらもう、賑やか賑やか。
鶏小屋さえなかったら、自分もこういう中にいられたんちゃ
うかなと。ちょっとだけ痛みはあるけど。

でも、何より今が大事。商売商売だ!
閑古鳥が鳴いてるよりは、賑やかな方がずっとマシさ。




w24
(バイカウツギ)





Angel By Your Side by Francesca Battistelli