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  梅雨寒 あとがき



 梅雨寒をお読みいただき、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか?

 それでなくても雨がちでうっとうしい季節に、じめっとした話を読ませるなよーと言われそう。でも後半戦を展開していく前に、トシの立ち位置をどうしても描いておきたかったので。すんませんねえ。(^^;;



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 まあ、他愛ない話です。季節外れの風邪をひいてぶっ倒れた。看病してくれた彼女にまでうつしちゃった。ひどいめにあったなー……というだけ。でもね。病気による強制ブレークの間に、トシが自分のこれまでとこれからをずーっとうだうだ考えてるのは……ちょっと今までと違うんですよ。

 たみと出会ってからのトシは、たみやかっちゃんとのこれからをどうするかっていう、自分以外の部分に視点を置いて過ごしてきたところがあります。たみとは対等に付き合いたい。かっちゃんに手を伸ばせるようにしたい。そのために、自分をマシにしないと。でも、それっておかしくありません? まずなにより先に、自分がどうしたいかなんですよ。普通はね。

 自分の意思が欠落してるから、何をやっても充足感がない。だから、たみ、横手さん、藤野さん……みんなから意外にしっかりしてる、すごいじゃんと褒められ、肯定してもらえても、それがすんなり自信に繋がりません。励ましが、自分の生き方の補強材料にならないんです。
 オーダー以上にちゃんとこなしてるのに、崖っぷちに居る感覚がどうしても抜けない。息切れしてしまう。そう。たみが感じてるほど、トシはましになっていません。ほとんど発話の頃から変わってないと言ってもいいかもしれません。

 これまでトシは、自分がそういう刹那的な生き方しか出来ないってことを受け入れてしまっていました。僕はクズだから、出来ることするしかない……ってね。どうしてそうなってしまったのか。ぐだぐだから脱却するには何が要るのか。そういうなぜなにをまともに考えたことがなかったんです。
 しかし。インフルでぶっ倒れている間に、これまで検証しようとしなかった自分の負の遺産にやっと向き合いました。かーなりネガ寄りではあったんですが、思考停止しなかったんです。不登校を貫き通す強いエゴがありながら、生存欲という形でしか出せない不具。それを『僕は壊れてる』と嘆く暇があったら、エゴの表現手段を考えよう。わたしたちには当たり前のことが全然出来ていなかったトシにとって、それは大転換なんですよ。

 もちろん、決意してすぐ実行に移せるくらいならここまでぐだぐだになることはなかったわけで。前向きと後ろ向きの意識のせめぎ合いはこれからも続きます。まるで梅雨前線のように。

◇ ◇ ◇

 短い話でしたが、キーワードはいっぱい散りばめてあります。梅雨、悪夢。熱。崖っぷち。備蓄。処方箋。おかゆの味。そして、抱っこ……。

 トシの意識がまだネガとポジの間で揺れていますので、キーワードが象徴するものはまだ安定していません。それぞれをどう捉えるかは、みなさんにも考えていただければなと思います。

 ただ、わたしは。たみにリクエストされたからではなく、トシが自分の意思でおかゆを炊いたということに、二人の仲の一歩前進を象徴させたつもりです。僕はたみの心遣いが嬉しかったよ。だから、僕の心も受け取って欲しい。それはたみを受け入れることしか考えていなかったトシの姿勢の転換です。そして、トシのストレートな意思、感情の発露ですから。



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 さて、今後の予定です。
 このあと盛夏のエピソードにすぐ突っ込めれば一番理想なんですが、続く二部は薄味の一葉館シリーズとしては濃いめの展開にしようと考えています。文量も多くなりそうなので、少なくとも来年の夏まで一年は寝かせます。またかよーと言わないでくださいね。(^^;;

 シリーズの次作では、二人とかっちゃん、そして一葉館のレギュラーメンバーの絡みを動的に描いてみたいと思います。どうか、気長にお待ちください。





Rain Stops, Good-bye by ヲタみん

 最後は国産で行きましょう。