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昔々3 あとがき



 とても長くなってしまいましたが、三番目の番外編はいかがでしたでしょうか?

◇ ◇ ◇

 実は。みさちゃんがフレディと知り合ったきっかけについては、本編でちらっと触れてるんですよ。第十話の『ほわっつはぷん?』を読んでいただければ分かるかと。

 本話から十年の間、付かず離れずのいい関係を維持してきたということですね。ただ、その間に二人が刎頚の友になったというわけではないんです。
 最初に自分の傷を見せ合ったことで、心の交流は真っ先に確保していますが、それが抱え込んでしまった孤独感情に急かされてのものであることは否定出来ません。ですので、とても相性のいい二人でありながら、みさちゃんとフレディはずーっと独立性を保ち続けます。

 互いの力量を認め、距離を意識して、ドライでフランクな付き合いを維持してきた二人。その距離感は、本編第三話の『体験学習』でフレディがみさちゃんの探りを警戒したことで分かるかと。必ずしも全てをオープンにする仲ではなかったんです。

 フレディが持っている人間不信、女性不信の感情。みさちゃんが持ってる親へのどす黒い怨嗟。本話で問題点として互いに認識していながら、どちらもほとんど解消されないままに、十年間ずっと行ってしまったということなんですよ。

 それだけ、二人の心の傷が深いのだということを、どうか覚えておいてください。

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 最後にちょっとだけ恋バナっぽくなりましたが、肝心のみさちゃんがぱりっぱりに乾いてます。まあ……こんなもんでしょう。(^^;;

 本シリーズは、全てみさちゃんの一人称で記述していますので、みさちゃん自身の容姿に関する記載が一切ありません。しかし姉の栄恵がメンもボディもいい女ですから、弟のみさちゃんもメンはいいんです。ボディはがりがりで貧相ですけどね。(^m^)

 それなのに、なんで浮いた話が全くないの? フレディの疑問は当然でしょう。

 実は。みさちゃんには遊びっていうか、余裕の部分がないんです。物心付いた頃から何でも自力でこなしていますから、誰かに心や体をすっかり預けるっていう概念がありません。
 みさちゃん自身はとても献身的な性格なんですが、外見的にはその正反対に見えるんですよ。自分勝手で、やたらに口うるさい、口が悪いってね。(^^;;

 女性の第一印象がメンに落ちるのは、最初の一瞬だけです。話をすればするほど、理屈っぽくシニカルで貧乏ったらしいみさちゃんから、男性としての魅力を感じ取ることが出来なくなってしまうんです。
 でも色恋に絡みようがない年配の人は、みさちゃんの鎧の下の優しさや気遣いをきちんと見てくれるんですよ。そこが、年齢によるみさちゃんの評価の差に直結しているんですよね。

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 非常に疑り深く、容易に人に心を開かないフレディが、なぜみさちゃんには懐いたか。二人が共通して抱える孤独感が惹き寄せたこともあるんですが、それだけじゃないんです。
 フレディは、JDAの会議室で行われたミーティングでみさちゃんをよーく観察してるんです。特に、その進行の仕方をね。

 みさちゃんは、本来であれば不要な部分、つまりみさちゃんとフレディの業務に関する部分をあえて前半に持ち出し、フレディが行った調査の正当性を真っ先にクライアントに説明しました。
 犯人が捕まって危険性や緊急性が下がったクライアントの見附さんや永井さんへの説明よりも、大勢の社員の生活と安全を守らなければならないフレディを擁護するのが先決だと考えたからです。

 フレディの採った方法が、調査業の本道であること。それをフレディ自身が見附さんに説明すれば、ストーカーを特定出来なかったことの言い訳と受け取られ、JDAの信用を下げることになってしまうんです。
 みさちゃんの主目的は、ごたごたからノイズを除去して麻矢さんが隠している真実を明かすことなんですが、危険度の高い順に手当しなければならないのなら、まずフレディのところから、なんですよ。
 そして、業務上のことですから謎解きも何も要りません。きちんと業務の背景と手法を説明すればいい。みさちゃんは、感情を排して淡々とそれをこなしました。

 頼んだわけでもないのに、先回りしてきちんと必要なケアをする高い人間性。フレディは、それに感服したんですね。こいつはそんじょそこらのやつとは違うな、と。

 そして、信頼というのは自動発生しません。どちらかが先に、あなたを信頼しますよというシグナルを出さないとならないんです。みさちゃんは、それをフレディより先に出しましたよね?
 ストーカーに襲われた時に、みさちゃんを犯人扱いせずに信頼してくれたとフレディを立てました。そして社長として大勢の社員をきちんと指揮し、実績を上げている。社長の人間性が低いとそんなことは出来ないと持ち上げました。そらあ、フレディにとっては最高の殺し文句ですよ。(^m^)

 ただ……。フレディがみさちゃんに寄せたのは『信頼』なんですが、みさちゃんが一貫してフレディに抱いている感情は『心配』。この後ずっと交流が続いて行きながらも、互いに独立性を崩さなかった背景には、そういう意識の温度差が潜んでいたということなんです。

◇ ◇ ◇

 本番外編の会議シーンでフレディは、みんなを容赦なくどやしたみさちゃんを『進んで悪役をしてくれた』と評しましたが、違います。あれは、間違いなくみさちゃんの『地』なんですよ。

 筋論がちがちで、ともすれば裁判官のような言動になってしまう、くそ真面目なみさちゃん。普段からずっとそういう態度というわけではないんですが、相手の窮状や危機を察して心配するほど、真面目過ぎてきつい部分が前面に出て来てしまうんです。
 賽銭箱の時も今回も、クライアントや関係者を軒並みどやし倒してますよね? みさちゃんの態度は、付き合いの浅い依頼人の目にはものすごーく偉そうで嫌味に感じられるんですよ。しかも、みさちゃん自身がそんなものだって開き直ってますからねえ。

 よく気が利いて、解決率も高く、依頼人から信頼されているはずのみさちゃんが、なぜ継続して依頼を取れないのか。それは、単なる宣伝不足ということじゃないんです。仕事になった途端に、すごくキツくなってしまうことの弊害なんですよ。

 でもね。みさちゃんはフレディのいじりを受け入れることにしました。大嫌いな親との軋轢の象徴である自分の名。そう、みさちゃんという呼称をフレディが使うことを認めたんです。みさちゃんの頑なな姿勢に、フレディがくさびを打ち込んだ形になっています。好きではない呼び方をあえて受け入れたのは、みさちゃんがフレディの抱えている孤立感の危うさを心配しているから。

 そういうみさちゃんの優しさは、年を重ねるごとに隠れたところから徐々に表に出てくるようになります。鷹揚で細かいことにこだわらない本編のみさちゃんに繋がる、大事な一歩ということですね。(^^)



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 番外編にしてはがっつり大盛りになってしまいました。辛抱強く通読してくださった方々には、改めて深くお礼申し上げます。

 次の番外編が、みさちゃんの過去を辿るものとしてはラストになります。満を持して、奥様であるひろ(広夢)との出会い、そしてラブストーリーをぶちかます予定です。





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