$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第七話 トゥルース


(6)


「いいなあ……」

俺とジョンソンさんのやり取りを指をくわえて見ていた麻矢
さんが、ぽそっと。

「え? なにが?」

「いや、男の人の友情って、なんかからっとしてるって言う
か……」

「ははは。それはたまたまだと思うよ。ジョンソンさんとは
まだ知り合ったばかりだしね。これからさ」

「はっはっは! そうですね。ああ、なかむらさん」

「はい?」

「わたしのことはふぁーすとねーむで、ふれでぃとよんでく
ださい」

ほ?
苗字だと、よそよそしく感じるのかなあ。
俺の感覚だと、逆に馴れ馴れしい印象になるんだけどなあ。
でも、それがジョンソンさんのリクエストなら、応えよう。

「じゃあ、フレディさんで」

「さん、は、いらないです」

うひー。呼び捨てにしろってか。
そらあ……困ったなあ。

「どうしました?」

「いや、私のも名前で呼んでもらうってことですよね?」

「ええ、そうさせていただければ」

「ううー、どうすべ」

「は?」

「私の操と言う名前は、女性にも使われるんですよ」

「!!」

「私の両親が、男女別々の名前を考えるのをめんどくさがっ
て、どっちにも使える名前にしたんです。この名前、嫌いな
んですよねえ……」

「えええっ!?」

麻矢さんが絶句していた。

「そういう理由で名前付けちゃって、いいんですか?」

「とんでもないでしょ? 私の親」

はあっ。

「本当に、くそったれな親の存在が、私にとってのでっかい
トラウマなんですよ。偉そうに人様のことをあれこれ言えな
いです」

「なるほど。それでは、こうしましょう」

にやっと笑ったフレディが、太い指をぽんと突き出して、指
揮者のように振った。

「みさちゃん」

ずどおん!!


           -=*=-


裃を脱いだフレディの弾け方は、なかなか強烈だった。
きわどいジョークをばんばん飛ばして、俺を試そうとする。
俺がそういうのを苦手にしてるならあれなんだが、突っ込み
合いは大好きなんだよ。元々口が悪く出来てるからね。
突っ込んで来りゃあ、おまけ付きで倍返しだ。

フレディは、俺を『実にイジり甲斐のある男』と位置付けた
んだろう。
会話文から丁寧語が消え、飯場のおっさんとなんら変わらな
くなった。
俺はそういうフレディの変化を歓迎した反面、どこかに空恐
ろしさを感じていた。

フレデイの実体は、間違いなく今の砕けた姿だろう。
だとすれば、それまでフレディに本当に心を開いていたやつ
が一人でもいたんだろうかと。
異国で、知る者も頼る者もない国で……。

明るく屈託ない姿の向こうに、ものすごく寂しがり屋の孤独
な男の姿が見え隠れしている。
そのミスマッチは、いつかフレディの心を深く蝕むだろう。
麻矢さんが自分を閉ざし、トミーを狂気に駆り立てた孤独と
同じ……どのような結末をもたらすか、分からない。

そして。
俺も同じ病巣を抱えているという事実、トゥルースから決し
て目を背けてはいけないんだよね。

それまで礼儀正しく仕事の話をしていたはずのおっさん二人
が急にノイジーになったことで、麻矢さんの口が重くなった。
俺らの急激な変化が理解出来なくて、ひどく警戒したんだろ
う。

それだけじゃない。
温厚で口数が少ないという第一印象から、次に底無しの怖さ
を焼き付けられ、最後の帰結がこのえげつないジョークおじ
さん?
一体どれが本当のジョンソンさんなの? それが分からなく
なったんじゃないかと思う。

そうさ。
フレディの見せるいろいろな姿は、ばらばらで筋が通ってい
ないように見える。でも、全ては真実の上にあるんだよ。

温厚なフレディにも、厳しいフレディにも、茶目っ気のある
フレディにも、それぞれに意味があるんだ。
どれも演技なんかじゃなく、フレディなんだよ。

麻矢さんがそれを理解出来るようになれば。
きっと、友達なんか苦もなく作れるようになるさ。




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My Truth by Cocteau Twins