$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第七話 トゥルースstrong>


(2)


「わたしね。今でも友達がいないの。一人も」

「……」

「だから、もしトミーが友達してあげるって言ってくれるな
ら、わたしは喜んで受け入れる」

「そ」

トミーが何か口を挟もうとしたのを、麻矢さんがすっと手を
上げて制した。

「ねえ、最後まで聞いて」

「……」

「でもね。わたし、人形じゃないの。わたしにも、わたしの
好きなもの、嫌いなものがあるの」

「それをちゃんとトミーに言えなかったわたしが悪い。でも、
わたしが何でも受け入れるわけじゃないのは、分かって」

「お願いだから」

「……」

麻矢さんが、深々と頭を下げてトミーに謝罪する。

「えっちを受け入れたのは、トミーが友達だから。恋人とし
て好きだからじゃない」

「もし、トミーがわたしに恋愛感情を持っているなら、それ
は受け入れられないの。ごめんね」

うん。
それで……いいんじゃないかな。

トミーが長い間待っていたのは、麻矢さんのその言葉なんだ
ろう。
進むのか引くのか、その決断に必要な麻矢さんの態度がいつ
までもどこかに隠されたままで、ちっとも出て来ない。
どうしてもそれを引っ張り出したいから、アプローチがどん
どん強引になる。

そうさ。トミーのアプローチは、俺と全く同じなんだよ。
俺とトミーとで何が違ったか。
トミーの時には麻矢さんの逃げ場があり、俺はその逃げ場を
真っ先に潰した。その違いでしかないんだ。

俯いたまま、麻矢さんの告白をじっと聞いていたトミーは、
顔を上げると俺たちを見回した。

「ねえ、まーや」

「なに?」

「あんた、後ろのおっさんにそう言えって、知恵付けられて
るんじゃないだろね」

まあ、その疑いは当然だよな。

麻矢さんは、泣き笑いしながらそれを否定した。

「違うよ。わたしは徹底的にこき下ろされたの。あんたは、
加害者のくせに被害者面してるって」

「うわ……」

ぎょっとした顔で俺とジョンソンさんを見比べるトミー。

「二人がわたしの後ろにいるのは、わたしが今までみたいに
逃げ出さないようにするため」

「……」

「今度逃げたら」

ぶるっと。
麻矢さんが両腕を抱え込むようにして震えた。

「……わたしは、この二人に殺されるわ」

おいおいおいおいおいおい!!

俺とジョンソンさんは、思わずぶっこけた。
人のせいにすんなようっ!

まあ、この前のジョンソンさんの剣幕はすごかったからなあ。
麻矢さんには、それが強烈なマイナスインパクトになったん
だろう。

「それより」

麻矢さんが、険しい表情で身を乗り出した。

「トミーと一緒にいた男の人を、中途半端に放り出したらだ
めだよ!」

「……」

「ちゃんとけじめを付けないと。今度はトミーがわたしみた
いになるからね!」

自分が犯してしまった失敗は、友達にはさせたくない。
それは友達として当然の心配であり、忠告だろう。

やるじゃん! 百点満点だ。

俯いたトミーは、唇を噛んで小さく頷いた。

「……分かった」

これまでずっと、二人の間でわだかまっていたこと。
それが今日全部溶けて消えたわけじゃないと思う。
心は高校の頃に戻せても、二人は今をこなして生きて行かな
いとならないからね。

それでも。
一つの区切り、一つのピリオド、それが目を未来に向けるきっ
かけになるんだ。

長い間心の中に溜め込んだままだった汚泥を全部吐き出して、
すっきりしたんだろう。
憑き物が落ちたようにうっすら笑みを浮かべた麻矢さんは、
軽く一礼してから席を立った。

「また、明日来るから」

「うん」

「今日はこれで帰るね」

「ばいばい」


           -=*=-


麻矢さんは、トミーに面会に行ったその足で警察を訪ね、事
件直後の事情聴取では話していなかった事実を正直に申告し
たらしい。
警察まで付き添ったジョンソンさんから、麻矢さんの申告内
容に関する丁寧な報告があった。

高校の時の小さな誤解がどんどん膨らんで、トミーを追い詰
めてしまったこと。
トラブルの出どころが誤解である以上それを解消することが
大事で、事件そのものをこれ以上取りざたするつもりはない
こと。

被害届を出すつもりはない。寛大な処分を。

うん。
現行犯逮捕だったから、銃刀法違反と傷害未遂の罪に問われ
るのは免れない。
でも反省していて再犯の恐れがなければ、襲撃が未遂で怪我
人も出なかったし、初犯だから猶予付きの刑になるんじゃな
いかと思う。
もしかしたら、起訴猶予ということになるかもしれない。

俺はトミーよりも、まんまとトミーに利用されてしまった男
の今後の方が気になる。

なかなか……一発で全部すっきりってなわけにはいかないよ。
それでも、一つ一つ、心配の種を取り除いていくしかない。

地道に、ね。




tr1





The Truth Won't Fade Away by Procol Harum