$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第六話 リライアンス


(7)


「なかむらさんは」

「はい?」

「きついですね」

「それが私です。そして、そういうのが私の恨みの出方なん
ですよ」

「む!」

「さっき会議室で言った通りです」

「そうか……わかりました。じゃあ」

「あ、ちょっと待ってください」

「なんですか?」

「見附さんのご両親に調査報告されるんですよね?」

「はい」

「その時に、過去のことで麻矢さんを責めないようにと、しっ
かり釘を刺しておいてくださいますか?」

「ふむ」

「過去に遡って人間関係を築き直すことは出来るんです」

「うん」

「でも、起こってしまったのをなかったことには出来ないん
ですよ」

「それはそうだ」

「今更それを責められても、麻矢さんにはどうしようもあり
ませんので」

「わかります。こころくばりにかんしゃします」

「では、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

ぴ。

俺が携帯を畳むと同時に窓の外で気配がして、かすかなノッ
クの音がした。

「来たか。最初のハードルはクリアしたな」

俺ががたぴし言わせながらしぶい戸を引き開けると、そこに
麻矢さんの姿があった。

「どうぞ、お入りください」

「はい」


           -=*=-


「永井さんに、ここの住所を聞かれたんですか?」

「はい」

「で、ご用件は?」

「……」

しばらく。
沈黙が続いた。

それから、小さい声だけどはっきりと質問が出た。

「トミーに……面会出来るんでしょうか?」

「出来ますよ。未決囚ですから、特に制限はないはずです。
手続きをお手伝いしましょうか?」

「お願いします」

「では、麻矢さんのご都合のいい日を教えてください。それ
に合わせて面会申請をいたしますので」

「分かりました」

広げたカレンダーに丸を書いてもらって、それを手帳にも書
き写す。

「面会の日は、私とジョンソンさんとで付き添います。その
意味は……分かりますよね?」

「……」

しばらく俺の目をじっと見ていた麻矢さんは、苦笑いをこぼ
しながら深く頷いた。

「分かります」

「それなら結構です」

「あの……」

「なんでしょう?」

「お金……は?」

「要りませんよ。調査じゃないんだから」

「それで大丈夫なんですか?」

ひりひりひりひりひり。
俺はこめかみに鈍い痛みを感じて、椅子にどさっと体を投げ
出した。

「私の心配なんかしないでよろしい!」

「あはは……」

「さあ、帰った帰った」

「はい」

麻矢さんが帰った後、改めてカレンダーを見回す。
これで二番目のハードルもクリアした。
まあ最初の二つが飛べれば、次はなんとかなるだろ。

襲われるかもという恐怖から逃れるためだけに決別を宣言す
るのは、タイミング的に遅すぎる。
トミーの被害感情の火に油を注ぐことになるから、かえって
危険なんだ。

怯えや嫌悪を剥き出しにしたまま面会に臨むと逆効果になる
から、それならば止めるつもりだった。
あなたやトミーの気持ちが落ち着くまで、少し待った方がい
いってね。

でもさっきの麻矢さんとの話ぶりからは、強い恐怖感情が漏
れて来なかった。

麻矢さんは、決して阿呆ではない。
勇気がなかっただけで、自分のどこに非があったかはもう分
かっているはずだ。
あとは、それをどう表現するか、だけさ。

自分の真意をトミーにきちんと示すこと。
本当に心の底から出た言葉であれば、それがどんな言い方に
なってもきっとトミーに伝わると思うよ。

人と人との繋がり。
愛することの前に、信頼がある。
言い換えれば、愛さなくても信頼は出来る。

きっと、麻矢さんはそれを分かってくれると思う。
そしてトミーという女もそれが分かってくれればいいなと。

俺は心から……そう願う。

「ふう……」


《第六話 リライアンス 了》




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Rely On Me by Jean-Michel Jarre, Laurie Anderson