$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第六話 リライアンス


(3)


「確かに、今回の事件の起点は高校での友人とのトラブルで
す。でも、それ以前にもう悲劇の種は蒔かれていた」

「中学で男の子に振られたショックは、ブス呼ばわりされた
からじゃないですよ。男の子との意志のキャッチボールが全
然うまく行かなかったから」

「そして、トミーとも結局同じ結末になってしまった。それ
は、強引なトミーに原因があるんじゃない! 相手のボール
をうまく受け止められない、受け止めようとしない麻矢さん
に原因があるんです!」

「そうか。だから……か」

「一生懸命ボールを投げてくれる相手にとっては、無反応は
敵意と同じですよ。加害というのは身体や金銭のことだけ
じゃない。心を傷つけるのだって立派な加害なんです。まし
てや性的関係まで持った相手からそういう態度を示された
ら、そらあ逆上するでしょう。そしてね」

「ああ」

「自分を主張したがらない麻矢さんに表面的な付き合い以上
を望む人は、それだけ強いエネルギーを持ってるんですよ。
どうしても俺様ばかりになるんです」

「あ!!」

沢本さんが、がばっと立ち上がった。

「それじゃ……」

「だから、最初に言ったんです。同じトラブルを繰り返しま
すよ、と。トミーとのことが片付いてもね」

ふう……天を仰ぐ。

「麻矢さんが、独りを全く気にしない体質ならいいんですけ
どね。決してそういうわけじゃない。友達や彼氏は欲しい。
でも、自分を見せたくない。それは二律背反、無い物ねだり
ですよ」

「……」

「その解決法としては、孤立に耐えるか、自分を鍛えるかし
かないんです」

「そして、たえるというこまんどは、もうつかえませんよね」

「そうなんです」

「なあ、中村さん」

「はい?」

「じゃあ、今回の件、具体的にはどう落とすんだ?」

「麻矢さんが、トミーと直接交渉するしかないでしょう」

「それは……無理じゃないのか?」

「ははは。ご両親や永井さんは、今までずーっとそう考えて
たんですよ。だからこそ、この結末になった」

「そうですね」

まだ自分自身への怒りが収まっていないのか、顔を赤くした
ままのジョンソンさんが両手で自分の腿をばんばんと叩いた。

「たいけつしなくてはなりません」

「その女に、ケンカ……売るのかい?」

「それじゃ、だめです」

ジョンソンさんが、俺の顔を覗き込みながら言った。

「けんかは、じぶんにうらなくてはなりません。なかむらさ
ん、そうですよね?」

俺は、にっこり笑って答える。

「その通りです」

「なるほどね」

沢本さんは、それで俺の作戦が読めたんだろう。
やれやれという顔で、ゆっくり立ち上がった。

「なあ、中村さん」

「はい」

「あんた、さすがブンさん最後の弟子だわ。そっくりだ」

「はははははっ! 光栄です」

「ブンさんも、あの世で喜んでるだろ。しっかりやってるっ
て」

俺は思わず苦笑いした。

「沢本さん、そんなのあり得ないですよー。もしブンさんが
この場にいたら、私は原型がなくなるまで殴り潰されてるで
しょう」

「えええっ!?」

「このバカ! なんで、こんなクソったれな依頼を引っ張っ
てきやがったんだ! ドサ回りからやり直しやがれっ!
……ってね」

「わっはっは! それもそうか」

「私はブンさんにがっつり鍛えられましたけど、ブンさんと
は違います。コピーじゃない。こういうお節介は私の性分な
んで、しょうがないです」

「確かにな。まあ、いろんなやつがいるってことだな」

「はい。そう考えていただければ」

「中村さん、この件が落ち着いたら飲みに行こうぜ。ブンさ
んをつまみにすりゃあ安上がりだ」

「お、いいですね」

「わははははははっ!」

屈託無く笑った沢本さんは、俺らにお先に失礼しますと言い
残し、上機嫌で帰っていった。

うん。
沢本さんという人は、ブンさんほどひねてない。
ストレートでシンプル、とてもキャッチボールがしやすい。
こういう人が麻矢さんの相手だったら、麻矢さんもうんと楽
だったろうなと思う。

でも人が放つ引力というのは、セオリー通りには行かないん
だよね。
来て欲しい人には無視され、ちょっとなあという人に付きま
とわれる。
それが現実である以上、自分でちゃんと仕分けが出来ないと、
こういう憂き目に遭ってしまうということだ。

俺にとっても、決して他人事じゃないんだよな。