$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第五話 スレイブ


(8)


「県警からの情報提供依頼。これでもね、ずいぶん表現を調
整してくださったんですよ。さすが、ジョンソンさんはオト
ナですね」

「私ならどう言ったか。あんたらのせいで警察から容疑者扱
いされ、痛くもない腹を探られてるんだよ。一体どうしてく
れるんだ! ……です」

「……」

「事件の再発防止。事件て、なんでしょう?」

「ストーカーのことじゃないの?」

永井さんから、変なこと聞くのねという感じで咎められた。

「何言ってんですか。私たちはご両親や永井さんから何を承
けました?」

「……」

「素行調査。身辺調査。その人物がどのような行動、言動を
しているのかを調査し、依頼人に報告する。それが、私たち
の請け負ったことです。そこに、事件のじの字もありません
よ!」

「事件は、麻矢さんが襲われたことじゃない! 別々の依頼
人から全く同じ依頼を承け、互いを敵とみなす危険な状態を
作り出してしまったことです!」

「私もジョンソンさんも、もう二度とこういう事件を発生さ
せたくない。麻矢さんのトラブル解決の義務は、私どもでは
負っていないんです!」

「もし私どもが同士討ちで死傷者を出しても、誰も補償して
くれないんですから!」

がんがんがん!
テーブルを何度も拳で叩きつけて、見附一家と永井さんをど
やした。

「それを、深刻に捉えてくださいね!」

ぎっ!
全力で睨みつける。

「いいですか? 私は独身の一人貧乏探偵。くたばろうがな
にしようが、私一人のことで済みます。でも、ジョンソンさ
んはそうは行かない」

「所長という立場で、大勢の調査員さんの安全、生命、生活
を守らないとならないんです。だからこそ、Xデイの時に自
ら現場に来られたんですよ。調査員を危険にさらすリスクを、
少しでも下げるためにね!」

「そのとおりです」

穏やかな口調で同意したジョンソンさんが、ゆっくり、でも
大きく頷いた。

「わたしのところも、なかむらさんのところも、けいびがい
しゃではありません。ちょうさはしますが、けいびやけいご
はしません。きけんですから」

「はい!」

「じゃあ……なぜ調査するの?」

永井さんの咎め立てする口調が一段と強くなった。

「決まってます。事実が分からないと警察や警備会社が動い
てくれないからですよ」

「あ!!」

「永井さん。いいですか? 私たちが特別に使える権限なん
て何もないんです。調査会社には、永井さんや見附さんと同
等の権利しかないんですよ。私たちは捜査権や逮捕特権のあ
る警察じゃない! それは、あらかじめ説明しましたよね?」

「……そうでした」

「餅は餅屋、です。警察が調査をしてくれないなら、調査の
部分だけは私どもで引き受けましょう。でも、調査で何か分
かったなら、その事実を携えてすぐに警察に行ってください、
なんです!」

「もうお分かりですよね? じゃあ意思統一はなんのため?」

永井さんが、しおしおに萎れて答えた。

「危険が解消しない限り、中村さんはもうこれ以上手伝いま
せんって……ことですね?」

「私だけじゃない。ジョンソンさんもです」

ごほん!
でかい咳払いをして、ジョンソンさんがのそっと立ち上がっ
た。

「なかむらさん。わたしがかくしたてーまをせつめいしてく
ださって、ありがとうございます」

「わたしは、けいやくしょにかかれていることしかじっこう
できません。どうか、ごりかいください」

ゆっくり着席したジョンソンさんと入れ替わって、立つ。

「それとね、永井さん。沢本さんに依頼された警護内容も、
極めて非常識であったということをご承知おきください」

「えと……なぜ?」

永井さんは、汗びっしょり。冷や汗だろう。

「麻矢さんを付けているやつの見当が全くついていない段階
では、一人だけでの護衛は無理なんです」

「そうなんだよ」

沢本さんが吐き捨てた。

「自分でやってみりゃあ分かるさ」

「永井さん。人間には目が一対しかないんです。麻矢さんを
見ればそれ以外は見えない、麻矢さんの周囲を見れば麻矢さ
んを見落とす。しかもどちらか一方向にしか視線を向けられ
ない」

「私たちは、目玉が飛び出してて360度周りを見回せるカ
メレオンじゃないんです」

「だから、少しでも監視の目を増やすために、私と沢本さん
とで即席タッグを組んだんです。それが今回はたまたま功を
奏した。でも、それはあくまでも偶然です」

「ええ……」

「麻矢さんに気付かれないことと、確実な護衛をすること。
優先するなら後者の方です。最低でも二人以上での随伴警護
が必要だったんですよ」

「はい……」




sv3





Slave To Love by Bryan Ferry