$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第五話 スレイブ


(2)


俺は、そこで麻矢さんに念を押した。

「いいですか? 麻矢さん。これから私がする話は、ご本人
のあなたでなければ肯定も否定も出来ない話です。その真偽
は、あなたが意思表示しなければ永遠に分かりません」

「そして分からないままなら、あなたはこれからずっと誰か
に殺されると怯え続けなければならない。あなたがそれで構
わないなら、私はここで話を打ち切ります。どうしますか?」

ここできっちり麻矢さんから言質を取っておかないと、後で
揉め事の元になる。
筆記役の高科さんには、麻矢さんの返事がイエスかノーかを
しっかり記録してもらわないとならない。

俺は高科さんとアイコンタクトを取った。
高科さんは、小さく指を丸めてオーケーサインを出した。

よし!

俺は、麻矢さんの返事が口から出るのを急かさずじっと待っ
た。

しばらく沈黙が続いて。
でも、今の恥より永続的な苦痛の方が我慢出来ないと判断し
たんだろう。
蚊の鳴くような声で、イエスの返事が出た。

「聞き……ます」

「私の推論が正しいかどうかを、イエス、ノーで結構ですの
できちんと仕切ってください」

「……はい」

よし。これで一つハードルをクリアした。

「それでは、私が調査して得たファクトから組み立てた推論
をお話しします。現時点ではそれがあっているかどうかは、
まだ分かりません。麻矢さんが、それを確定していってくだ
さい。いいですね?」

「……はい」

ぐるっと関係者を見回す。

「先ほど申しましたが、麻矢さんが自己保身のガードを下げ
た期間が、高校の時にだけありました。それは、伯母さまで
ある永井さんにすでに確かめてあります」

「ええ」

永井さんが頷いた。

「ですが、高校卒業後は元の姿に戻ってしまっている。つま
り、そこで『いいこと』と『悪いこと』があったとしか、考
えられないんです」

「うらぎり、ですか?」

ジョンソンさんに聞かれる。

「いいえ。誰かに裏切られたんじゃない。麻矢さんが裏切っ
たんですよ」

「えええええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

今度は、ご両親と永井さんが椅子を鳴らして飛び上がった。

どうどうどう。そんなに興奮しないで。お座りくださいな。
手で三人を制して、話を続ける。

「そうじゃないと、麻矢さんが恨みを買う事態にならないん
です。麻矢さんには人を恨むようなエネルギーがない。逃げ
るだけですから」

「おーう、そうだ!」

ジョンソンさん、ぽんと手を打つ。

「でもね、その裏切りの原因を作ったのは麻矢さんじゃない」

「……」

「今回の女の方ですよ」

「うーむ……全然意味が分からん」

沢本さんが、机に上にべたっと突っ伏した。

「ここまで。麻矢さん、合ってますか?」

麻矢さんは、かすかに頷いた。

「ありがとうございます。トラブルの起点になったのは、部
活。漫研です」

「ふむ……」

「麻矢さんは一年の時からずっと在籍していましたが、二年、
三年の時には高崎ひとみという女の子とペアで作品を作って
る」

「も、もしかしてっ!」

血相を変えて永井さんが立ち上がった。

「それが?」

「そう、今回の犯人。トミーです」

「そ、そんな……」

自分の学校からそんな犯罪者が出たなんて、絶対に信じたく
ない。そんな風に、永井さんが髪を振り乱して苦悶した。

「うそ……うそー」

「ねえ、永井さん。麻矢さんとトミーのコンビで描かれたマ
ンガをご覧になりました?」

「ううー、チェックのために私も見てたはずなんだけど、特
に印象が……」

「印象が残らないのは、永井さんが女子高の先生だからなん
ですよ。だってそれは、永井さんが毎日見ている光景そのも
のなんですから」

「え? それ以外のものが描かれていました?」

「はい。私が見ると、ああなるほどなと」

「どういう……ことですか?」

「百合、なんです。世界観が。今風に言えばGL。ガールズ
ラブ」

「……」

「女子高には女生徒しかいない。そこでの恋愛は、所詮疑似
恋愛にしかならない。先生たちはそう考えて、軽視する」

「違うんですか?」

「甘いです。女子高は、時にレズビアンの養成所になるんで
すよ」

「ぐ……」

見る見るうちに、永井さんの顔から血の気が引いた。




sv1





Like A Stone by Audioslave