$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第四話 ファクト


(5)


「話を元に戻しますね。最初に申しました通り、私はジョン
ソンさんとは別のアプローチをいたしました」

「私も、基本的にはジョンソンさんと全く同じスタンスなん
ですが、私はご両親や永井さんによる麻矢さんの評価を信用
するところから調査をスタートさせているんです」

「麻矢さんが心配で私やジョンソンさんに調査を依頼してい
るんですから、そこに余計なノイズは入らないですし、麻矢
さんを見ている期間が私よりもずっと長い。それを信用して、
基本情報に据えないことには始まりません」

「それより、直接面談してお話を伺うことが出来ない麻矢さ
んに関する事実。しかもご両親や親族すら把握出来ない最深
部の事実を、どこかから入手しないとならない」

「ストーキングの帰結がどうなるか分からない以上、出来る
だけ早く、効率よく事実確認作業を進めないとなりません」

「JDAと違って、私の事務所には私しかいないんです。一
人では、ジョンソンさんのところのようなローラー作戦は出
来ないんですよ」

「ですから、尾行による素行調査で直接事実確認するよりも、
親や永井さんには見えていない過去の麻矢さんの情報を、麻
矢さんに関わった人たちの第三者視点を通して集めた方が早
いと考えたんです」

「ジョンソンさんの手法が手勢で外堀を埋める本格型だとす
れば、私のは忍者による潜入型ですね」

ジョンソンさんが、やれやれっていう風に頭を掻いた。

「わたしにはできません」

その人相と体型じゃ、うんとこさ目立っちゃう。
ジョンソンさんには無理だって。

「まず、現在麻矢さんが勤めておられる会社での聞き取りか
らスタートし、大学、高校と遡って行きました」

俺は、その説明の間の麻矢さんの反応をじっと確認していた。
案の定、高校のところでぴくっと体が震えるのが見えた。

「ジョンソンさんも、そのルートを無視したわけではないと
思います。ただ、順序として麻矢さんの現況把握を先に済ま
せないと、関係者への聞き取りまで踏み込めないんですよ」

「聞き込みを入れたことが麻矢さんに漏れると、麻矢さんが
日常行動を変えてしまいかねない。それが尾行による調査の
効率をうんと下げてしまうことを恐れたんです」

「私は逆に、麻矢さんがストーカー被害を受けているという
事実をたてに、私の身分を隠さず直に突っ込みました。あえ
てそうすることで、犯人を刺激したくないから調査が入った
ことを麻矢さんだけでなく誰にも漏らすなという私の脅しが
効くんです」

「関係者をその場で共犯者として引きずり込む。依頼に見え
た永井さんが、引き受けに難色を示した私に仕掛けたやり方
ですね」

俺の皮肉に、永井さんが顔を赤らめながら俯いた。

「ですので、私が調査を開始した5月18日と翌日の19日
の二日間、私は関係者への聞き取り作業で奔走していて、麻
矢さんの近傍にいなかったんです」

「で、その二日間。ジョンソンさんの方で、麻矢さんを付け
ている人物を特定されていましたか?」

「いいえ」

ジョンソンさんではなく、高科さんが答えた。

「私どもの方で複数の調査員を張り付けましたが、そのよう
な人物の存在は確認出来ませんでした」

「そこが重要なんですよ!」

ばん!
テーブルを平手で力一杯叩いた。

「つまり、その時点では本当にストーカーがいなかったんで
す」

「まやさんのうそということですか?」

ジョンソンさんに確認される。

「いいえ。ストーカーは、いました」

「は?」

ジョンソンさんだけでなく、その場にいた俺以外の全員が、
なんじゃそりゃという表情をした。

「ど、どういうこと?」

永井さんをぴっと指差して、質問する。

「永井さん、以前私が話したことを覚えておられますか?」

「うーん、なんでしたっけ?」

「麻矢さんは、ストーカーを作ってる」

「……あ」

「でも、それは虚言ではないと」

「ええ。でも、全然意味が……」

「簡単なことです。幽霊の正体見たり枯れ尾花」

「……」

しばらく必死に考え込んでいた永井さんは、したりとばかり
ぱんと両手を叩き合わせた。

「分かったっ! 分かりましたっ!」

「でしょ?」

「そうか! 電話や手紙などの、直接顔を見せないストーカー
予告。それがあったってことですね?」

「はい。私にはそれしか思いつかなかったんです」

その時の、ジョンソンさんと高科さんの驚愕の表情と言った
ら。二人は、あごが外れるんじゃないかっていうくらい大口
を開けたまま、麻矢さんを凝視した。

もし、その情報があらかじめ俺やジョンソンさんに伝えられ
ていたら、全ては即日解決していただろう。

俺は、ぴっと麻矢さんを指差した。

「いつもおまえを監視してるぞ、つきまとうぞという脅しが
あれば、麻矢さんには何でもそう見えてしまうんですよ」

「そうか、それが作るってこと……か」

「はい。犯人にとって、麻矢さんを直接傷付けることが目的
じゃない。恐怖を植え付けて、麻矢さんを屈服させることが
目的だったんです」

「でも……誰が、なんのために?」

「それは、後ほど説明いたします」

永井さんは早く先に行きたかったみたいだったけど、俺は一
度話をそこで止めた。