$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々3  第四話 ファクト


(4)


「まず。私とジョンソンさん。どちらが先に依頼を受けたか、
ですが」

「5がつ16にち、です」

ジョンソンさんがすぐに公表した。

「ありがとうございます。私が永井さんから依頼を受けたの
は5月18日。ジョンソンさんは、私より二日早く調査を開
始されたということですね?」

「はい。そうですね」

「そしてジョンソンさんの調査は、まずご両親による娘さん
の行動評価が妥当かどうかを検証するところからスタートさ
せた。違いますか?」

「そうです。麻矢さんに気配を悟られないよう、遠距離から
の行動監視を行いました」

ジョンソンさんではなく、高科さんがそう説明した。
俺は一つ頷いて話を進めた。

「私が永井さんから同様の素行調査を受託して最初に取った
行動は、麻矢さんの行動監視ではありません」

ジョンソンさんが、俺をじろっと見上げた。

「それは、調査スタイルの違いですね。ジョンソンさんは、
お父さんが説明された麻矢さんに関する基本情報をまるっき
り信用していない。徹底的な性悪説に基づいて調査をスター
トさせてるんです」

「……」

「誰がストーカーか分からない、思い当たる節がないなんて
のは真っ赤なウソ。麻矢さんは、必ずどこかに犯人に繋がる
ラインを隠し持ってる。それをさっさと暴かないと、麻矢さ
んをつけてるやつが特定出来ない」

「そのとおりです」

ジョンソンさんは、事務的に肯定した。
俺は、驚いた様子の見附さんご夫妻に視線を移した。

「見附さん。ジョンソンさんの基本姿勢を批判的に見ないよ
うにお願いしますね。調査業というのは、意図的に隠された
事実を探り出す商売です。最初から事実が見えているような
ら、私たちに依頼する必要なんかないんです」

「はい。そうですね」

「隠された事実、ファクトを引っ張り出さなければならない
なら、その出発点にするのは、何一つ信用出来ない、全ては
虚偽である、なんですよ」

「……」

「思い込みや都合のいい推測を重ねると、事実とは違う『作
られた事実』が出来上がってしまう恐れがあるんです。プロ
として調査を行う私たちは、それだけは絶対に避けなければ
ならない」

「だから、事実であると無条件に認められるものは一つもな
いという前提で、調査をスタートするんです」

「つまりね、依頼に来られたお父さんの意図すら疑ってかか
るんですよ。この人は本当に信用出来るのかってね」

「うわ……」

お父さんが、ぎょっとして顔を強張らせた。

「調査会社が依頼を承ける時には、その前に依頼人の身元を
徹底的に洗います。万一調査内容が悪用されたら、その時点
で私たちの信用がゼロになってしまいますから」

「永井さんには、代理依頼を承けられない理由としてそれを
最初に説明いたしました。ジョンソンさんも、見附さんに説
明されているはずです」

「はい。せつめいいたしました。どういしょもいただいてま
す」

さすがだ。ちゃんと同意書を取ってる。
俺は、まだまだそこらへんがぐさぐさだよなあ……。

「お父さんや永井さんの身分が事実と相違しないことが確認
出来たら、次に疑うのは調査依頼の意図、そして事実として
述べられる事前情報の内容なんです」

「あ……」

お父さんと永井さんの口から、声が漏れた。

「お父さんや永井さんの依頼が麻矢さんを心配しているから
だということは、すぐに確認出来ますよ。そうしたら、次に
確かめなければならないのは?」

「そうか。私たちが娘のことで知っていると思っていた情報
の中身……ですね?」

「お父さん、整理してくださってありがとうございます」

俺はすっと一礼する。

「そこから、急に事実確認が難しくなるんですよ。麻矢さん
はすでに成人されていて、同居とはいえ生活はそれぞれ独立
しています。ですから、ご両親であっても娘さんの現状をど
こまで正確に把握できているかは分からないんです」

「しかも麻矢さんは、もっとも大事な情報、つまりつきまとっ
ている人物に関する具体的な情報を、親や永井さんに何も明
かしていないんです」

「そうしたら、その部分の情報はご両親や永井さんからもらっ
ても役に立たない。信用出来ないんですよ」

「そうか。だから……」

「はい。ジョンソンさんは、ストーカーに心当たりがないと
いう麻矢さんの情報は、ご両親を介した伝聞である上に曖昧
すぎて真偽を問う価値がないと考えた」

「ですから、麻矢さんの行動監視から入ったんです。全ての
前提を排除して、ね」

「事実関係をゼロから集めて組み立てていく以上、そこにあ
やふやなパーツを絶対に混ぜたくない。そう考えるジョンソ
ンさんの姿勢が、基本に忠実な調査の王道であるということ
をしっかりご理解ください」

「なるほど。よく分かりました」

お父さんが納得して頷いたことに、ジョンソンさんはほっと
したらしい。表情を緩めて微笑を浮かべた。




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