確かに『私』があったのです
でも、すっかり失われてしまって
今ここにあるのは、私の痕跡だけです
除草剤が撒かれ、根まで枯れ果ててしまったススキの株の跡。
散らばっている茎や葉の残骸は、いつかは腐って土に還り、そこにススキが生えていたことなど、誰にも分からなくなります。
……と思うでしょう? ところがどっこい。(^m^)
ススキなどのイネ科の植物は葉に珪化物をこしらえる性質があり、それはガラスと同じ性質を持つため極めて分解しにくく、容易に消えることはありません。プラントオパールと呼ばれるそれらの物質は、過去その場所にどんな植物が生えていたのかを探るための、キーの一つになっています。
虎は死して皮を残す……ですが、薄は枯れてガラスを残すんです。(^^)
コンクリートの上に残ったトラクタ痕。
これが土の上であれば痕はもっとくっきり残りますが、雨滴で崩れ、均されて、そのうち消えてしまいます。うっすらしか残らなくても、硬いもの同士の衝撃で付けられた跡は長く残るんですよね。それを、得難い邂逅として評価出来るかどうか。さて。
なんだろ、これ? わけわからん。
……と思ってしまう跡を見ることがあります。
これは金属の配管の上に残っていた痕跡。白いところが何かの跡に見えるんですが、実は白いところが配管の地色なんです。
つまり配管の上に生えた藻や苔を齧って食べてる動物がいるってことなんでしょう。櫛形の歯舌の跡が見えるので、おそらくナメクジかカタツムリだと思われます。
何もなくて跡が出来るわけはなく、跡を残す主はどこかにいるわけです。今、そこにいなくても。
ああ
痕跡になってしまうと嘆くんじゃない
我々はすでに誰かの痕跡なんだよ
それを誰かに受け継ぎ、痕跡を残し続ける
営々とね
踏まれゐる嘆きを音に霜柱
さくさくさく。
Trace Of You by Peter Bradley Adams