《ショートショート 0753》


『世迷言』 (よまいごと 3)


「なあ、ママ」

「なんね?」

「昼間っからこないして呑んどるわいは、しょうもないごく
つぶしなんやろなあ」

「分かっとるんやったら、ちぃとはしゃんとしいや」

「出てけぇ言わんのかい」

「あんたでん、いちお客やさかい」

「客か……」

「万金はろてん、百円で呑んでん、客は客や」

「はは」



szk1
(サザンカ)



「なあ」

「なんや」

「ママは、なんでこんなまっ昼間っから店ぇ開けよるん?」

「寝ててん暇や。ここは、店ぇ言うよりあたしの家やから」

「家……か」

「あたしが起きて店ぇ開けとる間は、ここにおるんは誰でも
客や。それしかおらへんし、それでええねん」

「客ぅ? 家族ちゃうんか?」

「家族なんか要らんわ。めんどくさ」

「なんで?」

「世話せんとならんから。あたし一人の世話で十分」

「……」

「元さん。あんたぁ、寂しいんやろ?」

「そや。ごっつ寂しいねん」

「ほしたら、こんなとこで昼間っから呑んだくれとったらあ
かんがなあ」

「なして?」

「ここじゃあ、誰にもかまってもらえへんで?」

「ママは?」

「かまってへんよ。あんたは、客っていうだけや」

「……。ほいでも、外じゃあもっとかまってもらえんもん」

「あほ。あんたからかまわんからやないか」

「……」

「欲しい時だけよこせぇ言うんは、しょうもないわがままや
で?」

「ママは……寂しないんか?」

「寂しないよ。客はいつでもおるさかい」

「……」

「昼でん夜でん、客ぅいつでもおる」

「ほか」

「おるだけやけどな。それでええねん」

「……ごっそさん」

「日ぃ高いんや。そないぐだぐだしとらんと、もっとしゃん
としぃな」

「おう」



szk2



「ほな、元さん帰ったさかい暖簾しまうかー。ふわわ……ね
むぅ」





My Old Friend by John Hiatt