$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々2  第三話 思わぬ贈り物


(7)


神社の賽銭箱を麻薬の取り引き場所に使うという罰当たりな
方法を考え出した連中は、見事に天罰が下って一網打尽になっ
た。あほか。

子安稲荷に麻薬の回収に来たのは、中年の女。氏子として動
いていたのはダンナの方だから、夫婦でコンビなんだろう。

ダンナが逃げてりゃ、ダンナに取りに行けと言われただけで
あたしは知らないとしらを切れたかもしれないが、神社での
捕物だけじゃなく氏子の家宅捜索も同時だったんじゃどうし
ようもない。家からも現物が出てきちまったからね。

これで、仲卸の大物が一つ潰れたことになる。
そいつに依存してた二次卸や末端の売人どもは、仲卸の持っ
てた顧客情報が漏れれば芋蔓式に検挙されるだろう。
運良くそれを逃れられたとしても、別の卸を探さなければな
らないから慌ててばたばた動き出す。
その分連中の脇が甘くなり、検挙率が上がるってわけだ。

元売りも、アジトを潰されて逮捕者が出たから簡単には拠点
を立て直せない。

メディアの扱いはそれほど大きくなかったが、江畑さんは検
挙者数以上に収穫(アガリ)が大きかったと喜んでいた。

ただ……決して浮かれてはいなかった。

エンドユーザーがいる限り需要がある。
そしてそこで儲けが出る限り、ブツとカネが動く。
不毛ないたちごっこだと嘆いていた。俺もそう思う。


           -=*=-


JKのソボクなお願いがとんでもない騒動に膨らんだけど、
とりあえずけりが付いた。事件としては、ね。
でも、俺の中では何もかもが中途半端なままだ。
それを片付けておかないと、すっきりと年が越せない。

俺は前回話し合いに立会ってくれた渡辺さんを訪ねて、もう
一度関係者協議を行いたいと申し入れた。
前回の協議で片が付いたと思っていたらしい渡辺さんは驚い
ていたが、賽銭箱のごたごたが予想外の事件に結び付いたこ
とを重く見て、前回と同じメンバーを招集してくれた。

前と違って、今回の招集には関係者全員が積極的に応じてく
れた。
感情の行き違いをどう収めるか、じゃない。
みんな、何があったのか真実を知りたいと思ったからだろう。

前回は正装で上座に座った渡辺さんは、今度は平服。
俺らの並び方も車座だ。
渡辺さんは暖房を入れて、部屋を暖めてくれていた。
協議と言うよりも、座談会の雰囲気に近い。

みんなが揃ったところで、俺が話の口火を切る。

「本日はお忙しいところをご足労いただき、ありがとうござ
います。これから、宇佐美雅恵さんから承った依頼の仕上げ
に入ろうと思います」

「えっ!?」

雅恵ちゃんが、びっくり声を出した。

「だ、だって」

「先日の話し合いの時点ではまだ仮解決なんですよ。お三人
が直接衝突するリスクを下げた止まりで、相互不信はまだたっ
ぷり残ってます」

「立会ってくださった渡辺さんの顔を立てただけで、内心は
こんちくしょうと思ってる。どなたも、心底すっきりなさっ
てはおられないと思います」

一番、それに大きく頷いたのは宇佐美のじいちゃんだった。
そうだろなあ。
もちろん、宇佐美さんや杉田さんに迷惑をかけたことを謝罪
し切れてないと考えている大迫さんも、ずっともやもやして
いると思う。

「どなたもすっきりしてないのですから、依頼はまだ完了し
ていません。そして、私はわざとそうしました」

「つまり、みなさんの間の感情的なわだかまりをあえて残し
て、その不満感を一時的に私に振り向けてもらいました」

関係者が全員首を傾げている。
なんじゃそりゃ、意味が分からんぞという感じで。

「どういうことか? この前の和解協議には、仕切り役とし
て渡辺さんが同席しておられたんです。部外者の私は事実説
明をするだけで、仕切りに関して一切出しゃばってはいけな
いんですよ。でも、結局最後まで私が仕切りましたよね?」

「ああ、そうだな」

「みなさんは、私よりもずっと人生経験の長い年長の方々で
す。渡辺さんを差し置いて、偉そうに場を仕切る若造の私を
好意的に見るはずなんかないんです」

「あ!」

雅恵ちゃんが、口に手を当てて驚いた。

「でしょ?」

「そっか……」

「あの若造。事情もろくたら知らないのに、偉そうに俺たち
を仕切りやがって。気に食わねえ!」

「みなさん、そう思っておられませんでした?」

苦笑いした四人のじいちゃんたちが、ゆすゆすと膝を揺らし
た。

「正直に言わしてもらやあ、今でも気に食わん」

宇佐美のじいちゃんが、ずばっと言った。

「わはは! それでいいんです。そうじゃないと私が困る」

「どうしてだ?」

「あの時、お三方の間のトラブル以上に危険で厄介なことが
同時進行していたからです。そっちに誰かが関わってしまっ
たら」

俺は人差し指で首を切る真似をした。

「最悪の場合、死人が出てました」

「……」

ずしんと。
重い沈黙が流れた。

「ですから、みなさんの関心が賽銭箱の件から逸れて、私に
向くように仕向けたんですよ」




bp07
(ヤブミョウガ)





Quando Voce Olha Pra Ela by Gal Costa