$いまじなりぃ*ふぁーむ-tle



 昔々2  第二話 賽銭箱


(6)


「その人へのお願いは、僕の方からしてあげてもいいよ。そ
れくらいはサービスするさ」

「わ! 助かります!」

テーブルに頭突きするんじゃないかってくらいに、何度も雅
恵ちゃんがお辞儀を繰り返した。

「あの……それって誰ですか?」

「君のおじいちゃんの上司」

「ええー!? そんな人いませんよう!」

「うくく。雅恵ちゃんは神社の家系なのに、そこが疎いね」

「……」

「あのね。禰宜っていうのは、あくまでも神社のサポーター
なんです。重要な神事を直接執り行うことは出来ない。それ
は宮司(ぐうじ)、いわゆる神主さんの仕事なの」

「あ……」

「つまり君のおじいさんは、普段は不在の宮司さんから神社
の管理や簡易な神事の代行を請け負ってるってことね。例大
祭のような大きな祭事には、ちゃんと宮司さんが来るはずだ
よ。高嶺神社は大きいから」

「そうだー。確かにそうです。その時にはうちにいっぱいお
客さんが来ます」

「でしょ? どんなに実務を禰宜が代行していても、神社と
いう組織に属している以上、宮司の裁定は絶対です。それを
利用するしかないでしょう」

「なるほどなー。知らなかったー」

「でもね、高嶺神社の宮司さんはそこだけの長(おさ)。い
くら寂れた末社でも、他の社には別の宮司さんがいます。賽
銭箱のことには直接口を出せません。そっちはむしろ、社殿
を管理してる氏子さんたちの領分」

「う」

「それに、高嶺神社の宮司さんは、立場上君のおじいさんの
擁護者になっちゃうから、もしおじいさんの判断をあっさり
支持したら、他の二人が黙ってないでしょう」

「あ……そうかあ」

「つまり高嶺神社の宮司さんにこの件を中立の立場で仕切っ
てもらうためには、お膳立てが要るの。一体何がどうなって
いるのかを前もって調べて、その情報を宮司さんに渡してお
かないとならない」

「いきなり関係者を集めて事実を話せって言ったら、もっと
揉める。水掛け論になる。それには備えておかないとならな
いよね」

「……」

「僕が引き受けられるとしたら、その事前調査だけかな」

「なるほどー。事実関係の確認、ですね?」

「そう。それなら出来るよ」

「でもぉ。何を確認するんですか?」

「そこさ」

あらかじめ用意しておいたチェックシートを、雅恵ちゃんに
手渡す。俺の手元にも同じものを置く。
そこにはいくつかの疑問文が並んでいる。


Q1 杉田さんは、どういう人物なのか?

Q2 杉田さんは、どのような賽銭箱を作ったのか?

Q3 作られてしまった賽銭箱は、社にすでに設置されてい
るのか?

Q4 おじいさんと杉田さんの間で、すでに直接の接触、衝
突があったか?

Q5 杉田さんは、おじいさんがへそを曲げていることをも
う知っているのか?

Q6 賽銭箱の価格を決めたのは誰か? 宇佐美さん? 大
迫さん? 杉田さん?



「この他にも知っておきたいことはいっぱいあるんだけど、
とりあえず、ここの文面にあることくらいは確かめておかな
いと、仲裁者のセッティングが出来ません」

「はい、でも……」

「うん」

「これって、大迫さんのことがほとんど入ってないんですね」

「ははは。雅恵ちゃん、鋭いね。探偵の素質あるよ」

「ふふっ」

「大迫さん絡みで知りたいことはいっぱいあるんだけど、簡
単には調べられないんだよ」

「え? どうしてですか?」

「騒動の原因を作ってるのが、全て大迫さんだからさ」

「あっ!!」

ばっとチェックシートをつまみ上げた雅恵ちゃんが、もう一
度その文面を見回す。

「でしょ?」

「……はい」

「君のおじいさんに大きなへまがないのであれば、杉田さん
か大迫さんがへまをしたってことになる。そして、杉田さん
のところは僕らが何も情報を持っていない」

「それがQ1なんですね?」

「そう。まずそこが分からないとどうにもならない。そこは
僕が調べる。で、もし杉田さんがシロだったら?」

「……」

「実際、大迫さんのところがものすごーく不自然なんだよ。
そこに食い込まない限りは、何も見えてこない。でも、おじ
いさんが深く信頼してる大迫さんを、無神経に貶(おとし)
めることは出来ないの」

「……はい」

「そうしたらQ1を確かめて、杉田さんの白黒を決めた上で、
おじいさんと杉田さんの周りから事実を固めていくしかない
の。大迫さんのところは一番最後。もどかしいんだけどね」

「そっか。すごいなあ。数学の応用問題みたいだあ」

「いや、それよりもずっと難しいよ」

「そうなんですか?」

「数字は嘘をつかないけど、人は隠すし、嘘つくし、感情を
取り繕う。白黒なんて、最初っから付けらんないのさ」

「う……そうかあ」

「だから、仲直りさせるっていうのは至難の技だよ。おじい
ちゃんを東大に合格させるより難しいと思う」

「……」

雅恵ちゃんが、しゅんとしちゃった。

「でも、難しい問題だからって諦めて解かなかったら、永遠
に解けないよ。解く努力はした方がいいよね?」

「はい!」




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Aunque No Te Pueda Ver by Alex Ubago